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監修医師:
林 良典(医師)
目次 -INDEX-
ピロリ菌感染の概要
ピロリ菌感染は、ピロリ菌(Helicobacter pylori)が胃粘膜表面に感染している状態です。
ピロリ菌とは、正式名称をヘリコバクター・ピロリといい、らせんの形をした細菌です。1979年オーストラリアのウォーレンとマーシャルがピロリ菌を発見しました。
胃の中は胃酸で強い酸性なので、普通の細菌は生きていけません。しかし、ピロリ菌は、ウレアーゼという酵素で胃の中にある尿素からアンモニアを作り、周りの胃酸を中和し、胃の中でも生きていくことができます。
胃粘膜に感染したピロリ菌は、分泌液や酵素を産生し、胃粘膜に炎症を引き起こします。胃・十二指腸潰瘍、胃癌などは、ピロリ菌感染により発症するリスクが高まる疾患です。
ピロリ菌の除菌に成功すると、胃炎の症状が改善して、ピロリ菌感染に関連する症状の治療・予防につながると期待されています。
ピロリ菌感染に関連する疾患は以下の通りです。
- ヘリコバクターピロリ感染胃炎
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
- 早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃
- 胃MALTリンパ腫
- 胃過形成性ポリープ
- 機能性ディスペプシア
- 胃食道逆流症
- 免疫性(特発性)血小板減少性紫斑病
- 鉄欠乏性貧血
ピロリ菌感染の原因
ピロリ菌の感染経路は、はっきりわかっていませんが、口からの感染経路が大部分を占めていると言われています。海外、日本ともに主に感染する時期は、乳幼児期です。
それ以降、感染することは稀で、大人になって感染が分かるケースも小児までに感染し持続感染しているケースが多いとされています。胃に感染したピロリ菌が家族内で感染することが原因と考えられています。
また、衛生環境が整っていなかった時代は、感染率が高い傾向にありました。しかし、子どもの生活環境が改善して、特に上下水道が整備されていくに従い、感染率は低くなっています。
加齢とともにピロリ菌感染率は高まる一方で、若年層の感染率は低い傾向があると報告されています。
ピロリ菌感染の前兆や初期症状について
ピロリ菌に感染しても、特有の症状や前兆はなく、多くの場合は無症状です。
そのため、健康診断や人間ドック、または胃炎などの消化器系症状で受診したときに、偶然に感染が判明するケースも少なくありません。
ただし、感染が長引き、炎症が進行すると、胃炎などの症状が現れることがあります。
ピロリ菌感染について詳しく知りたいときや除菌治療を希望するときは、消化器内科の受診をお勧めします。
ピロリ菌感染の検査・診断
ピロリ菌感染の診断については、下記の表のいずれかの検査を実施します。
複数の検査方法を組み合わせることで、診断の精度があがります。
1. 内視鏡による生検組織を必要とする検査法
検査名 | 検査方法 |
---|---|
迅速ウレアーゼ試験 | 内視鏡で採取した胃の粘膜の一部を尿素とpH指示薬が入った検査試薬の中に入れます。ピロリ菌がいる場合はピロリ菌の持つ酵素によってアンモニアがつくられ、指示薬の色が変化します。 |
鏡検法 | 採取したい粘膜を薄く切り出して染色し、顕微鏡でピロリ菌がいるかどうか検査する方法です。 |
培養法 | 採用した胃の粘膜を細胞培養用の寒天にこすりつけ、ピロリ菌が増えてくるかどうか見る方法です。 |
2. 内視鏡による生検組織を必要とせず、胃全体のピロリ菌感染を反映する検査法
検査名 | 検査方法 |
---|---|
抗体測定 | ピロリ菌に感染すると、血液中に抗体がつくられます。抗体陽性はピロリ菌の感染があったことを意味します。 |
尿素呼気試験 | 13Cで標識された尿素を成分とする薬(ユービットなど)を服用します。 胃内にピロリ菌がいると、菌が持っているウレアーゼという酵素によってこの薬が分解されて、呼気の中に13CO2が排出されます。呼気中の13Cの増加率を測定します。 |
便中ヘリコバクター・ピロリ抗原測定 | 便中に含まれるピロリ菌の抗原を検出し、ピロリ菌感染の有無を検査します。 |
ピロリ菌感染の治療
ピロリ菌感染の治療には、ピロリ菌を除菌するために飲み薬を服用します。
一次除菌
一次除菌として用いられる薬剤は、次の3剤です。
薬の種類 | 成分名 用量 |
---|---|
胃酸分泌抑制薬であるプロトンポンプ阻害薬(いずれかを使用) | ランソプラゾール 60mg/日 オメプラゾール 40mg/日 ラベプラゾール 20mg/日 エソメプラゾール 40mg/日 ボノプラザン 40mg/日 |
抗生物質 | アモキシシリン 1500mg/日 |
抗生物質 | クラリスロマイシン 800mg/日または400mg/日 |
この3剤を朝夕食後に7日間飲み続けると、70〜90%の割合でピロリ菌の除菌に成功したと報告されています。胃酸分泌抑制薬とアモキシシリン、クラリスロマイシンの3剤の1日服用分を1シートに包装した製品もあります。飲み方が複雑に感じる方でも、1シートにまとまった製品を使えば、飲み忘れなく治療を継続することが可能です。
二次除菌
初回の除菌に失敗した場合に限り、2回目の除菌(二次除菌)が認められています。
二次除菌に用いられる薬剤は、次の3剤です。
薬の種類 | 成分名 用量 |
---|---|
胃酸分泌抑制薬であるプロトンポンプ阻害薬(いずれかを使用) | ランソプラゾール 60mg/日 オメプラゾール 40mg/日 ラベプラゾール 20mg/日 エソメプラゾール 40mg/日 ボノプラザン 40mg/日 |
抗生物質 | アモキシシリン 1500mg/日 |
抗原虫薬 | メトロニダゾール 500mg/日 |
この3剤を朝、夕食後に7日間飲み続けると、80%〜90%の割合で除菌に成功したと報告されています。
また、二次除菌の3剤の治療薬も1日服用分を1シートに包装した製品があります。
治療の副作用
ピロリ菌除菌の治療を受けると、下痢や軟便、味覚症状、アレルギーなどの症状が出る場合があります。
下痢は、抗生物質によって腸管が刺激されたり、普段腸内にいる細菌叢(細菌の集団)のバランスがくずれるために起こります。
もし、服用中に下痢などの症状が悪化した場合や、血便や粘液便をともなう場合は、服薬を中止して適切な治療を受ける必要があります。
気になる症状があるときは、早めに担当医に相談してください。
治療中の注意事項
ピロリ菌除菌の治療を受ける際、注意する点については以下の通りです。
- 治療中の喫煙は除菌率を下げる可能性があります。治療中は禁煙しましょう。
- メトロニダゾールで治療するときに飲酒をすると、腹痛、嘔吐、ほてりなどの症状が出る場合があります。飲酒は避けてください。
- 下痢や軟便、味覚症状、アレルギー症状などが出る場合があります。もし気になる症状が出たときは、担当医師に相談してください。
- 除菌が成功しても、胃がんを発症したり、再度ピロリ菌陽性になったりする場合があります。除菌後も定期的な胃の検査をうけましょう。
保険適用の診断・治療
2009年に日本ヘリコバクター学会が発表したガイドラインで、すべてのピロリ感染が除菌適応となっていますが、ピロリ菌除菌の保険適用がある病気は、胃・十二指腸潰瘍に限られていました。
その後、2010年6月に胃MALTリンパ腫や特発性血小板減少性紫斑病、早期がんの内視鏡後胃、2013年2月にヘリコバクター・ピロリ胃腸炎のピロリ菌除菌治療が保険適用になりました。
ピロリ菌の除菌治療は、以下の流れで行います。
- 内視鏡検査を行う。胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの診断。
- ピロリ菌感染の有無を確認。
- ピロリ菌陽性の場合、除菌治療の実施。
保険が適応される診断および治療は、内視鏡検査をして、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの診断が確定された患者さんが対象なので、まずは内視鏡検査を行います。
また、ピロリ菌除菌治療は、胃がんの治療にならないため、内視鏡検査で胃がんを除外することが重要です。
ピロリ菌感染になりやすい人・予防の方法
ピロリ菌に感染する時期は、子どもの頃が多く、感染経路は、家族内感染が主です。
両親がピロリ菌陽性である子どもは幼少期にピロリ菌に感染しやすく、感染したまま成人になると胃がんのリスクも高まります。
子どものときは、ピロリ菌感染の検査の感度が低いですが、中学生以降であれば、検査の精度も上がります。陽性だった場合、中学生以降、親になるまでにピロリ菌を除菌することで、家族内での感染を予防でき、次の世代の感染対策にもなります。
参考文献