監修医師:
田中 茉里子(医師)
肛門皮垂の概要
肛門皮垂(こうもんひすい)は、肛門周辺の皮膚が余分に垂れ下がった状態のことです。別称として「スキンタグ」と呼ばれることもあります。
基本的に痛みや不快感などの症状はともなわず、排便や入浴時に肛門皮垂に気づくことが多いです。肛門皮垂が生じた部位は柔らかく、肛門周囲に小さな皮膚の突起としてあらわれます。
肛門皮垂は健康に直接的な悪影響を与えるわけではないため、日常生活に支障がない場合は治療が必要ないことがほとんどです。しかし、見た目が気になる場合や、下着の摩擦など、刺激が加わると軽度の炎症やかゆみが生じる場合は、切除手術による除去もできます。
また、同じような場所にできる肛門周囲の病気として痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)があり、症状も似ていることがあるため鑑別が必要です。
肛門のしこりや出血が見られる場合は、皮垂ではなく他の肛門疾患である可能性もあるため、できるだけ早めに医師の診察を受けましょう。
肛門皮垂の原因
肛門皮垂は、原因がはっきりしない「特発性」と原因がはっきりしている「二次性」のものに分けられます。二次性の場合は、肛門周辺にかかる圧力や刺激、肛門疾患が原因として挙げられます。
長期間のいきみや便秘
長期間にわたって便秘を繰り返したり、排便時に強くいきむことがあったりすると、肛門周囲の皮膚に圧力がかかり続け、皮膚が引き伸ばされます。その結果、肛門周辺の皮膚が徐々に垂れ下がり、皮垂が形成されます。
便秘が慢性化している場合は、排便時にいきむ回数が増えるため、肛門皮垂ができやすくなります。
妊娠や出産
とくに女性では、出産をきっかけとして肛門皮垂が生じる傾向があります。
妊娠中は腹部や骨盤周りの圧力が増加するため、肛門にかかる負担が大きくなります。さらに、出産時には強くいきむことで、肛門に過度な圧力がかかり、肛門皮垂の発生につながる場合があります。
痔核や裂肛が治った後
肛門皮垂は、痔核(いぼ痔)や裂肛(切れ痔)などの肛門疾患が治癒した後に生じることがあります。
痔核は肛門周りの血管が膨らんでいぼ状になった状態で、裂肛は排便時に肛門の皮膚が切れたり裂けたりした状態のことです。これらの疾患が治るとき、肛門周辺の皮膚が元の状態に戻らなかったことで、伸びた皮膚がそのまま残り、肛門皮垂となることがあります。
肛門皮垂の前兆や初期症状について
肛門皮垂は、初期段階で目立った症状がないことが多く、自覚症状が少ないことが特徴です。
ただし、大きさによっては以下のような症状があらわれることもあります。
肛門周辺のしこり
排便時や入浴時に、肛門周囲に小さなしこりのような突起を感じることがあります。しこりが柔らかく痛みがない場合は、肛門皮垂である可能性が高いです。
しこりが痛みをともなう場合は他の疾患の可能性も考えられるため、放置せず、早めに医師に相談しましょう。
摩擦による軽いかゆみや違和感
肛門皮垂が下着や衣類とこすれると、かゆみや違和感が生じる場合があります。かゆみが強い場合は、皮垂が炎症を起こしている可能性があるため、症状が続く場合は受診して治療を検討しましょう。
トイレットペーパーや便に少量の血がつく
肛門皮垂自体は出血をともないませんが、便通やトイレットペーパーで強くこすると、皮膚が傷つき、少量の血が出ることがあります。
頻繁に出血が見られる場合、痔など他の肛門疾患の併発もしくは肛門皮垂ではない可能性があるため、早めに受診することが大切です。
肛門皮垂の検査・診断
基本的に肛門皮垂は、ほとんどの場合医師の視診と触診で診断可能であり、特別な検査は必要ありません。他の肛門疾患(痔核や裂肛など)との鑑別が必要な場合は、肛門鏡検査を実施することもあります。
視診・触診
医師が直接肛門周辺を観察して、肛門皮垂の有無、サイズ、形状、質感を確認します。肛門皮垂が痔核や裂肛によるものでないか、また肛門皮垂以外の異常がないかも確認します。
また、医師が直接手で肛門周囲を触れることで、皮垂の柔らかさや厚みを確認します。これによって皮垂の状態が分かるため、腫瘍など悪性の可能性がないかを判断します。また、触診時に痛みの有無も同時に確認します。
肛門鏡検査
必要に応じて、肛門鏡による肛門内部の検査が行われることがあります。とくに、出血や炎症が頻繁に見られる場合に、痔や裂肛など他の肛門疾患との鑑別するために行われます。
肛門皮垂の治療
肛門皮垂に対する治療は、症状の程度や患者の希望に応じて異なります。基本的に痛みやかゆみを伴わない場合は特に治療を行わず、経過観察とされることが多いです。
しかし、見た目の改善を希望する場合や、かゆみや違和感が強い場合には切除手術を検討します。
経過観察
肛門皮垂の症状がなく、日常生活に支障がない場合は、治療は行わず経過観察となります。多くの場合、肛門皮垂は自然に消失することはありませんが、痛みや悪化がなければそのまま放置しても問題はありません。しかし、気になる症状が出現した場合には、受診するようにしましょう。
軟膏や内服薬
肛門皮垂がかゆみや軽い炎症をともなう場合、症状を抑えるために軟膏や内服薬が処方されることがあります。肛門皮垂自体が改善するわけではありませんが、炎症やかゆみが抑えられるため、日常生活での違和感やかゆみ、痛みが減る効果があります。
切除手術
見た目が気になる、あるいは下着の摩擦で頻繁にかゆみが生じる場合などは、皮垂を切除する手術が行われることもあります。
肛門皮垂の切除手術は局所麻酔下で短時間で終わり、日帰りでの手術が可能です。術後は切除部位を清潔にして、腫れやしないようにするためのケアが必要になります。
肛門皮垂になりやすい人・予防の方法
肛門皮垂は、便秘や下痢を繰り返すことで発生しやすい傾向があります。そのため、慢性的な便秘や下痢を防ぐことが肛門皮垂の予防となります。便通の改善のために、食物繊維が豊富な食事の摂取、適度な運動、こまめな水分補給、ストレスをためこまないことなどを心がけると良いでしょう。
また、デスクワーク中心の生活を送っている人も注意が必要です。長時間座り続けることによって、痔核や裂肛の原因になる可能性があるため、座り仕事が多い場合は、1時間ごとに立ち上がるなどの対策が必要です。