監修医師:
田中 茉里子(医師)
上腸間膜動脈症候群の概要
上腸間膜動脈症候群(Superior Mesenteric Artery Syndrome:SMA症候群)は、体脂肪率の低い痩せた女性に多い病気で、胃から続く消化管である「十二指腸」が上腸間膜動脈と大動脈、脊椎に挟まれて圧迫されることで引き起こされます。
上腸間膜動脈症候群の発症頻度は低いですが、上腸間膜動脈の周囲にある脂肪組織が少なくなると発症リスクが高まるとされています。
圧迫によって十二指腸の一部が食べ物や液体の通過を妨げられるため、腹部の痛みや嘔吐、体重減少などの症状が生じます。進行することで栄養不良や脱水症状につながるため、早めに適切な診断と治療をおこなうことが重要です。
上腸間膜動脈症候群の原因
上腸間膜動脈症候群の主な原因は、上腸間膜動脈と大動脈の間の角度が狭くなったことによる十二指腸の圧迫です。
そもそも、上腸間膜動脈は大動脈から枝分かれした血管で、この間を十二指腸が通っています。普段、十二指腸が圧迫されないのは十分な量の「脂肪組織」が間に挟まり、上腸間膜動脈と大動脈の距離を保っているからです。しかし、さまざまな要因から距離が狭まる(角度が小さくなる)ことで、十二指腸を圧迫し、上腸間膜動脈症候群を引き起こします。
急激な体重減少
手術や摂食障害、過剰なダイエットなどによる急激な体重減少は、上腸間膜動脈症候群の主な原因の一つです。
体重が急激に減少すると、それにともない脂肪組織も減少するため、上腸間膜動脈と大動脈の角度が小さくなり、その結果、十二指腸を圧迫することになります。特に、ダイエットに関心の強い若い女性は注意が必要です。
長期間の安静状態
長期間ベッドで安静にする必要がある場合、特に手術後や事故による治療期間中に上腸間膜動脈症候群を発症するリスクが高まります。
「急激な体重減少」と同様に、脂肪組織が減少することで十二指腸が圧迫されるためです。
解剖学的な異常
脊椎前弯の増強や側弯症、骨格の異常がある人も上腸間膜動脈症候群を発症する場合があります。
骨格の変形に伴い、正常な位置関係が乱されることで、上腸間膜動脈と大動脈の角度が狭まり、十二指腸を圧迫することがあります。
上腸間膜動脈症候群の前兆や初期症状について
上腸間膜動脈症候群では、腹部の傷みや吐き気といった消化器系の症状があらわれます。これらの症状は、消化器疾患の症状と似ているため、症状だけでは上腸間膜動脈症候群と特定するのは難しいと言えます。
また、上腸間膜動脈、大動脈、十二指腸の位置関係から、うつ伏せや左側を下にして寝る姿勢をとると症状が軽減もしくは消失し、立ったり仰向けになったりすると症状が悪化する特徴があります。
腹部の膨満感と痛み
特に、食後に強く症状があらわれ、腹部が膨れたり、痛みを感じることが多くあります。脂肪分が多い食事を摂った場合や、量が多い食事をすると、症状が顕著になります。
吐き気と嘔吐
十二指腸が圧迫され、食物の通過が阻害されるため、しばしば吐き気や嘔吐が発生します。これが慢性化すると、食事を避けるようになり、体重減少を引き起こすこともあります。
体重減少
十二指腸の通過障害による吐き気や食欲不振で食事が摂取できないため、体重が急速に減少します。これにより、さらに脂肪組織が減少し、上腸間膜動脈症候群の症状を悪化させるという悪循環に陥ってしまいます。
最悪の場合、栄養失調や電解質異常、脱水症状などによって命の危険をともなう場合もあるため注意が必要です。
上腸間膜動脈症候群の検査・診断
上腸間膜動脈症候群では、画像検査や内視鏡検査が中心に行われます。
画像検査
レントゲン検査、CTやMRI、超音波検査などの画像検査を行います。
はじめに、レントゲン検査で十二指腸が閉塞している際に見られる「double bubble sign(ダブルバブルサイン)」の有無を確認します。上腸間膜動脈症候群では十二指腸が圧迫されるため、十二指腸とその前にある胃の圧が高まり、泡のように膨らんだ状態になります。
さらに、腹部CT検査や腹部超音波検査で、上腸間膜動脈と大動脈の角度、十二指腸の状態を確認します。腫瘍などの他の病気と鑑別するために、造影剤を飲んで行う上部消化管造影検査で、実際に十二指腸で通過障害が起こっていることを確認することも重要です。
また、内視鏡検査で消化管の内部を直接観察する場合もあります。上腸間膜動脈と大動脈、脊椎による閉塞に加え、腸内の炎症などが確認できます。
上腸間膜動脈症候群の治療
上腸間膜動脈症候群の治療は、病状や進行度に応じて異なります。軽症の場合は、栄養管理や食事療法が主な治療法となりますが、重症例では外科手術が必要となることもあります。
経鼻胃管と静脈栄養
一般的な初期治療として、経鼻胃管を用いて胃にある内容物を取り除き、胃の減圧をすることで症状の軽減を目指します。
その後、静脈栄養で栄養管理を行いながら、口から食べたり飲んだりすることを控えさせます。脱水時には点滴も合わせて行います。症状が安定したら少しずつ食事療法を行っていきます。
食事療法
症状が安定している段階であれば、食事を少量ずつ口から摂取していきます。脂肪減少が原因となっている場合は、鼻などからチューブを通して腸に直接、栄養を補給する場合もあります。
また、食事後には十二指腸の圧迫を和らげるために、うつ伏せや左側を下にして寝る姿勢を取るよう指導します。
外科的手術
経鼻胃管や食事療法を継続しても、上腸間膜動脈症候群の改善がみられない場合、外科手術が検討されます。一般的には、十二指腸への圧迫を軽減する手術やバイパス手術が行われます。
上腸間膜動脈症候群になりやすい人・予防の方法
上腸間膜動脈症候群になりやすい人の特徴として、急激な体重減少、長期臥床、摂食障害などがあります。また、脊柱側弯症やその他の骨格異常を持つ人もリスクが高いです。これらの要因が重なる場合は、特に発症リスクが高くなります。
上腸間膜動脈症候群を予防するためには、急激な体重減少を避けることが最も重要です。手術後や病気の回復期には、医師や栄養士の指導を受けて、バランスの取れた食事を摂取し、体重の減少を防ぎましょう。
また、長期にわたる安静が必要な場合でも、適度なリハビリで筋力や脂肪組織の維持を図る必要があります。
参考文献