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肛門ポリープ
伊藤 喜介

監修医師
伊藤 喜介(医師)

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名古屋卒業後、総合病院、大学病院で経験を積む。現在は外科医をしながら、地域医療に従事もしている。診療科目は消化器外科、消化器内科。日本外科学会専門医、日本消化器外科学会専門医・消化器がん外科治療認定医、日本消化器病学会専門医、日本腹部救急医学会認定医、がん治療認定医。

肛門ポリープの概要

肛門ポリープは、直腸粘膜と肛門管の境目である歯状線(しじょうせん)にある肛門乳頭が、炎症や過形成を起こして硬く肥厚・腫大したしこりのことを指します。
肛門乳頭の刺激は下痢や便秘などによるものが多く、排便習慣の異常によって発生します。ポリープの大きさは米粒大の小さなものから、数cmのものまで多岐に渡ります。
ポリープは肛門から体外に出ている場合もありますが、体内にあることも多く、症状はさまざまです。無症状であることが多いですが、大きくなると違和感が生じたり、肛門の外に脱出し出血や痛みを生じたりすることがあります。
肛門ポリープは大腸ポリープとは違い、基本的には放置していても悪性化して「がん」になることはありません。しかし、症状が出てきてしまうとQOL(生活の質)の低下につながってしまうため、治療が必要となります。

肛門ポリープの原因

肛門ポリープは歯状線の肛門乳頭が繰り返し強い刺激を受けることで発生すると考えられています。肛門ポリープの原因となるものを以下に示します。

慢性裂肛

ポリープの主な原因となる疾患です。裂肛とはいわゆる「切れ痔」のことで、20~50歳代で発症しやすく、女性に多い疾患です。硬い便が肛門を通過する際に肛門管が裂けて裂創となり生じます。慢性的に裂肛を起こしていると潰瘍へと変化し、肛門側に「見張りいぼ」、口側(直腸内)に「肛門ポリープ」が形成されます。さらに悪化すると裂肛部が瘢痕化し硬くなってしまい肛門狭窄となる場合もあります。

内痔核

いわゆる「いぼ痔」のことであり、ポリープのできる歯状線よりも直腸側にできるものを内痔核と呼びます。ポリープと同様の刺激によって発生するため、時に肛門ポリープと同時に見られることがあります。

便の異常

排便時に肛門にかかる圧は肛門乳頭への刺激となります。特にいきんだ際には強い圧と刺激がかかります。そのため、下痢や便秘による肛門部への刺激や摩擦が肛門ポリープの原因となります。定期的に便が出ないなどの排便習慣の悪化は肛門ポリープを引き起こす場合があります。<

外傷・感染

肛門周囲の外傷や感染による炎症が原因で肛門ポリープが形成されることがあります。

その他

座位を長時間とり続けるなど、肛門部のうっ血をきたすような場合なども肛門ポリープの原因となりえます。

肛門ポリープの前兆や初期症状について

肛門ポリープは、小さい場合には症状が出ることはほとんどありません。しかし、大きくなってくると、肛門部の違和感痒みを覚えたり、残便感が起こることがあります。また、ポリープが肛門外へ脱出することや、ポリープと便が擦れることで出血をきたすこともあります。症状が類似しているため、痔核(いぼ痔)だと思って病院を受診した際に肛門ポリープが見つかることもあります。
また、裂肛が原因の場合、はじめは肛門痛や排便時の出血となりますが、慢性裂肛となると肛門が狭窄してしまうため排便困難となってしまう場合もあります。

症状が出現した場合は、消化器(内)科や肛門科を受診することが勧められます。

肛門ポリープの検査・診断

肛門ポリープをはじめとした肛門の異常で病院を受診した際は次のような検査を行います。肛門ポリープのみを考えて診療することはあまりなく、痔核や裂肛などを考えて検査を行った結果、同時にポリープが見つかることが多いです。

問診・視診

検査ではないですが、診断には患者さんの自覚症状は欠かせない情報となります。生活習慣、排便習慣、排便時の痛み、排便時の出血などは肛門疾患の診断、治療を行うためには重要な情報となります。
また、体表からの所見の確認も重要となります。脱出したポリープの場合は確認することができますし、痔核や裂肛の「見張りいぼ」の確認も行います。

肛門鏡

診察室で行うことができる検査となります。潤滑ゼリーを塗ったのちに肛門鏡を挿入して、直腸内を直接観察します。特に脱出していない肛門ポリープを観察することができるほか、痔核などの肛門疾患、直腸がんなどを確認することができます。

大腸内視鏡検査

肛門鏡で十分な観察ができない場合や、ポリープ以外の病変も疑われる場合には必要に応じて大腸内視鏡検査を行うこととなります。直腸内で反転することで内側から肛門を観察することができるため、脱出していないポリープを観察することに優れています。
また、検診などで大腸内視鏡検査を行った際にたまたま肛門ポリープが見つかるケースも多く見られます。

肛門ポリープの治療

症状のない肛門ポリープであれば積極的な手術の適応とはなりません。手術を行わない場合の治療を保存的治療といい、長時間の座位を避ける、排便時にいきまない、便秘や下痢を起こさないような食生活や内服薬によるコントロールを行っていきます。保存的治療は外科切除の後の再発を予防していく必要があるためにも継続することが重要となります。
また、痛みや腫れが強い場合には軟膏や消炎鎮痛剤を用いてコントロールしていきます。

脱出、出血といった症状が出て、QOLの低下が生じるようになった場合は外科切除(手術)の適応となります。
手術は多くの場合で局所麻酔下での手術が可能となりますが、時に腰椎麻酔や全身麻酔で手術を行うこともあります。手術ではポリープの基部を結紮し、ポリープを切除します。ポリープと思っていたものががんである場合もあるため、切除したポリープは必ず病理検査を行い診断をつける必要があります。
また、慢性裂肛が伴うポリープに対しては裂肛に対する手術も同時に行います。裂肛に対する手術としてはお尻の穴を締める筋肉である肛門括約筋の一部を切開して肛門を緩める内括約筋側方切開術(LSIS)が行われます。裂肛がさらにひどくなり肛門が胸鎖してしまっている場合は、硬くなった裂肛部分を切除し、肛門を広げた後、傷となっている部分に外側の肛門上皮を移動させる肛門狭窄形成術を行います。

肛門ポリープになりやすい人・予防の方法

肛門ポリープは肛門部分への強い刺激やうっ血が原因となります。そのため、日常的にそのような状態が続くようであれば肛門ポリープ形成のリスクとなります。下痢や便秘といった便通異常も原因となります。
長時間の座位を避けることや、食生活や運動などにより排便コントロールをつけるなどといった、生活習慣の見直しは肛門ポリープの治療だけではなく、予防としても重要であると考えられます。


関連する病気

  • 痔核(いぼ痔)
  • 炎症性腸疾患(クローン病や潰瘍性大腸炎)

参考文献

  • 専門医のための消化器病学 第3版
  • 標準外科学

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