目次 -INDEX-

偽膜性腸炎
大坂 貴史

監修医師
大坂 貴史(医師)

プロフィールをもっと見る
京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。

偽膜性腸炎の概要

偽膜性腸炎はディフィシル菌という細菌が腸の中で異常に増殖し、腸管内腔表面に「偽膜」という構造を作る腸炎で、「抗菌薬投与中・高齢・入院中」が有名なリスク要因です。
偽膜性腸炎の症状は下痢・腹痛・嘔吐などの一般的な腹部症状に始まり、重症化した場合にはショック状態に陥る場合もあります (参考文献 1) 。
偽膜性腸炎を疑った場合には糞便検査の他に下部消化管内視鏡検査をして、他の腸炎の原因を除外していきます (参考文献 2, 3) 。
不要な抗菌薬があればそれらを中止したうえで、メトロニダゾールバンコマイシンというディフィシル菌に効く抗菌薬を使って治療をしていきます (参考文献 2, 3) 。

偽膜性腸炎の原因

一般に偽膜性腸炎とは、 Clostridioides difficile (ディフィシル菌) が腸の中で異常に増殖したディフィシル腸炎のなかでも、「偽膜」と呼ばれるものが腸の内側に張り付いてしまっている状態のことをいいます。
このディフィシル菌は、いわゆる常在菌の一種で、普段はおとなしくしているのですが、抗菌薬投与をはじめとした様々な理由で常在菌のバランスが崩れると異常に増殖して体に悪さをし始めます。

偽膜性腸炎の前兆や初期症状について

偽膜性腸炎の症状は抗菌薬投与中から投与終了後10日以内の期間に出てくるとされています (参考文献 1) 。
軽症例では1日に3回以上の下痢や腹痛、吐き気、食欲不振、発熱といった症状が多いです (参考文献 1) 。
重症になると下痢によって水分や身体に必要な物質が外へ出ていってしまうことによるショック症状や、腸がパンパンに張ってしまったり、腸に穴が開いて腹膜炎という状態になったり、多臓器不全になることがあります (参考文献 1) 。

後ほど詳しく説明しますが、偽膜性腸炎には3つのリスク因子 (抗菌薬投与中・高齢・入院中) が知られています。これらに当てはまる方で偽膜性腸炎を疑うような症状があれば、入院中であれば病棟のスタッフへ、外来治療中であればかかりつけの医療機関を受診して相談してください。

偽膜性腸炎の検査・診断

偽膜性腸炎のリスク因子を持っている人が急性の下痢症を発症した場合には便検査をして、ディフィシル菌が産生する毒素が含まれているかどうかや、関連抗原の検査、ディフィシル菌の遺伝子が含まれているかどうか確かめる検査をします (参考文献 2)。
「偽膜性腸炎」と診断するにはもう一歩進んで、直腸や大腸全体の内視鏡検査をして偽膜の存在を直接確認する必要があります。内視鏡検査で偽膜の存在を証明できれば他の原因との区別をしやすくなります (参考文献 3) 。

偽膜性腸炎の治療

偽膜性腸炎をはじめとしたディフィシル腸炎の治療方針は、重症度によって変わります。
重症ではない場合、メトロニダゾールというディフィシル菌への効果が知られている抗菌薬を使って治療をすることが一般的です (参考文献 2, 3) 。
特に軽症例では、偽膜性腸炎の原因となったと考えられる抗菌薬を中止して偽膜性腸炎を引き起こしにくいとされている抗菌薬へ変更することだけでも、5人に1人程度の患者が自然軽快するのではないかと言われています (参考文献 3) 。
重症の場合にはバンコマイシンという薬剤で治療をすることが推奨されているほか、症状に応じて内視鏡的な治療や、場合によっては手術も検討されます (参考文献 2, 3) 。

偽膜性腸炎になりやすい人・予防の方法

偽膜性腸炎になりやすい人

偽膜性腸炎のリスクとしてよく知られているのは「抗菌薬投与中・高齢・入院中」の3つです。
多くの種類の抗菌薬が偽膜性腸炎のリスクとされているほか、入院期間が伸びれば伸びるほど偽膜性腸炎発症のリスクが上がると考えられています (参考文献 3) 。
他にも胃薬の使用や消化管手術歴、悪性腫瘍の合併などの様々なリスク因子が知られていますが、「長く入院して抗菌薬投与されている人」が偽膜性腸炎になりやすいと思っていただければ十分です。

予防の方法

ディフィシル菌は「芽胞形成菌」とよばれる、細菌の中でもとくに生存能力の高い菌として知られています。この芽胞形成菌ですが、コロナ禍で皆さんが慣れ親しんできたであろうアルコール消毒は効きません。石鹸を利用してしっかり手を洗うことが感染を広げないために重要です。
病棟で患者さんを担当するスタッフだけの予防では十分ではないので、入院中の方の面会に行かれる場合や、ご自身が入院中の場合には多くの人が触るようなものに触れたあとは念入りに手洗いをしましょう。適切な手洗いは様々な感染症予防の基本かつ最も効果的な手段です。

発症予防という観点では医療者側が注意することが多いです。不必要な抗菌薬投与をしないように気を付けていますが、どうしても一定数の患者さんは偽膜性腸炎やディフィシル腸炎を発症してしまいます。
医師は偽膜性腸炎のことをよく知っていますので、抗菌薬投与をしている期間に偽膜性腸炎を疑うような症状が出た場合には遠慮せずに、症状を担当の病棟スタッフや、かかりつけの医療機関へ報告し、早期発見・早期治療・重症化予防をしましょう。

また、偽膜性腸炎は再発が多い疾患として知られています。適切な治療を受けた後、1カ月以内の再発を経験する患者は最大25%ほどいるのではないかともいわれています (参考文献 1, 3) 。
「治療したからただの下痢だろう」と考えずに、再発の可能性があれば担当の医療機関へ相談してください。


関連する病気

参考文献

この記事の監修医師