監修医師:
長田 和義(医師)
食道・胃静脈瘤の概要
食道および胃静脈瘤は、それぞれの粘膜の下にある静脈が異常に太く拡張した状態のことをいいます。
稀ではありますが、十二指腸にも静脈瘤が形成されることがあります。
食道静脈瘤では、通常はまず胃と食道の境目あたりから拡張した線状の血管が現れ、悪化していくに従ってより上の方まで進展し、太まって瘤状になっていきます。
胃静脈瘤では、胃の入口付近から太い血管が出現して広がっていき、進行すると大きな瘤状の静脈が連なったような形になります。
食道と胃の静脈瘤が同時に存在したり、それぞれが繋がっている場合もあります。
静脈瘤の状態になると、静脈の中の圧力が高まる一方で壁が薄くなっており、静脈の壁が表面の粘膜ごと破裂して大出血を引き起こすことがあります。
このように、食道および胃の静脈瘤は消化管出血の原因として重要であり、適切な管理と治療が必要です。
食道・胃静脈瘤の原因
主に「肝硬変」などにより、お腹の中の内臓から肝臓に向かう血管である「門脈」の圧力(門脈圧)が高まって血流が滞ることが原因です。
このような状態になると血液は他の静脈へ迂回しようとし、「側副血行路」という正常ではあり得ない太い静脈の迂回路が形成されます。
このようにして、食道や胃においても圧力がかかり続けて形成された太い血管が、内腔から線状ないし瘤状にして見えるようになります。
肝硬変とは
肝硬変とは、B型慢性肝炎やC型慢性肝炎、近年ではアルコール摂取や脂肪肝などで肝臓に長年の炎症がおきることで、肝臓の組織が硬く線維化してしまった状態のことをいいます。
肝硬変では、肝臓が本来担っている栄養を貯蔵して代謝する機能、有害な物質を処理する機能などが低下してしまい、様々な異常を引き起こします。
肝臓の組織が線維化することで、肝臓の中にも細く張り巡らされている門脈の流れが悪くなり、上流の太い門脈から内臓の静脈の圧力が高まっていくことになり、静脈瘤や腹水の原因になります。
食道・胃静脈瘤の前兆や初期症状について
食道や胃の静脈瘤は、初期段階では基本的に自覚症状がありません。
しかし、静脈瘤が増大して破裂すると、吐血や下血(黒色便・タール便)、貧血によるふらつきや動悸・息切れなどの症状が現れることがあります。
これらの症状が出現した場合、緊急の治療が必要となり、最悪の場合は死亡につながることもあるため、早期発見と出血の予防が非常に重要です。
食道・胃静脈瘤の検査・診断
食道および胃静脈瘤の診断には、内視鏡検査(胃カメラ)が最も有効です。
内視鏡検査により、静脈瘤の有無、サイズ、形状、出血のリスクを直接確認して評価できます。
またCT(可能であれば造影CT)を行い、内視鏡からは確認できない側副血行路の流れを評価するとともに、肝硬変やその他の異常についても評価することが必要です。
あわせて血液検査も行い、貧血の有無や輸血の必要性、肝硬変であればその進行度などを評価します。
食道・胃静脈瘤の治療
食道・胃静脈瘤の治療法は、内視鏡によるものと血管内カテーテルによるものがあります。
治療法の選択は、治療を行う静脈瘤の部位(食道か胃か)、出血時の緊急治療か非出血時の予防的治療か、側副血行路の状態などで変わります。
また、肝硬変など静脈瘤の原因に対する薬物療法が重要であり、門脈圧を低下させるための薬物療法を併用する場合があります。
内視鏡治療
●EVL(内視鏡的静脈瘤結紮術)
主に食道の静脈瘤に対して、破裂して出血しているときの止血目的、あるいは出血の予防目的の両方で行われます。
内視鏡の先端にゴム製のリングを取り付けておき、静脈瘤の出血している箇所、または出血リスクが高いと考えられる個所をそのリングで縛ります。
直ちに血流が遮断されてその部分の静脈瘤はなくなっていき、粘膜もいったん脱落してから硬い瘢痕として再生し、再出血しにくくなります。
EVLを行っても別の個所の静脈が拡張してくることが多く、内視鏡で経過観察して追加のEVLを繰り返していく場合が多い傾向です。
●EIS(内視鏡的硬化療法)
食道静脈瘤や胃静脈瘤に対して内視鏡から専用の針を刺し、造影剤と硬化剤を混ぜた液体を注入して、静脈瘤内の血液を固めて血流を無くしてしまう治療です。
静脈瘤に対する治療効果は高いですが、静脈瘤の状態や肝機能などでEVLに比べて行える条件が限られています。
また食道静脈瘤に対しては出血時に緊急で行われることは少なく、通常は出血の予防目的で行われます。
胃静脈瘤に対してはEVLができないことが多く、出血時の治療としてヒストアクリルという硬化剤を用いたEISが選択されます。
血管内カテーテル治療
●BRTO(バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓)
通常は繋がっていない門脈系の血管(内臓から)と体循環の静脈(筋肉などから)が、門脈圧の上昇による側副血行路のひとつとして繋がってしまうことがあり、これを「門脈大循環シャント」といいます。
この門脈大循環シャントを通って足の静脈から入れたカテーテルを胃静脈瘤まで進め、水風船で逆流を防止しつつ造影剤と硬化剤を混ぜた液を注入し、静脈瘤内の血液を固めて血流を無くしてしまう治療です。
治療効果は高いですが行える条件は限られており、肝機能や造影CTを評価してその都度判断する必要があります。
薬物療法
肝硬変の場合は、肝臓の機能をできるだけ保つための薬物療法が必要です。
静脈瘤に対する治療としては、門脈圧の低下を期待してβ遮断薬やバソプレシン受容体拮抗薬、ARBといった内服薬が併用される場合があります。
食道・胃静脈瘤になりやすい人・予防の方法
これまで述べたように、食道や胃の静脈瘤は肝硬変によって発症する場合が多い傾向です。
以前はウイルス感染によるB型肝炎やC型肝炎による肝硬変が多かったですが、感染率の低下や治療の進歩により、近年では減少しています。
代わりに、アルコール摂取や脂肪肝など生活習慣に関連した肝硬変の割合が増加しています。
節酒や、バランスの良い食事と適度な運動習慣などでの体重管理が重要です。