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長田 和義

監修医師
長田 和義(医師)

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2012年、長崎大学医学部卒業。消化器内科医として、複数の総合病院で胆膵疾患を中心に診療経験を積む。現在は、排泄障害、肛門疾患の診療にも従事。診療科目は消化器内科、肛門科。医学博士、日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医。

痔の概要

痔(じ)は、肛門から直腸の血管や組織に異常が生じる疾患の総称です。
主に以下の3種類に分類されます。

  • 痔核(いぼ痔)
  • 裂肛(切れ痔)
  • 痔ろう(あな痔)

痔核は、肛門管内の粘膜下と肛門上皮下にある血管や結合織からなる柔らかい組織(肛門クッション)が次第に肥大化したものです。
20歳ごろ以降に発症することが多く、有病率の男女差はありません
痔核は、肛門上皮と直腸粘膜の境界である「歯状線」を基準にして、内痔核外痔核に分かれます。

裂肛は、肛門上皮が切れることによって痛みや出血が起こる痔です。
20〜50代に好発し、女性に多く見られます。

また痔ろうは、一般的には肛門腺への感染から膿瘍となり、膿が排出された後に膿の管が残った状態のことです。
好発年齢は男女ともに30〜40代で、女性よりも男性に多くみられます。

痔は一般的な疾患で、多くの人が生涯のうちに一度は経験すると言われています。
症状の程度は軽度から重度までさまざまですが、適切な治療と生活習慣の改善により、多くの場合管理が可能です。

痔の原因

痔疾患の発症には複数の要因が関与しています。
主な原因として以下があげられます。

1.便秘

  • 硬い便を強くいきんで出すことによる肛門への負担

2.下痢

  • 頻繁な排便による肛門部の刺激
  • 腸液による皮膚の脆弱化

3.長時間の座位

  • デスクワークや長距離ドライブなどによる局所の血流障害

4.妊娠・出産

  • 妊娠中の血流量増加や出産時の肛門への負担

5.加齢

  • 肛門周囲の組織や血管の弾力性低下

6.不適切な肛門衛生

  • 過度の清潔志向による刺激
  • 不十分な清潔による感染リスク

7.遺伝的要因

  • 肛門の支持組織の弱さなど、遺伝的な要因が一部関与している可能性もある

8.肥満

  • 食べ過ぎや下着、衣類、ベルトなどによる腹圧上昇

9.過度の運動や仕事

  • 重量挙げや重い荷物を持つなどによる腹圧上昇

10.特定の疾患

  • 炎症性腸疾患など、腸管に影響を与える疾患

以上の要因が単独または複合的に作用し、肛門周囲の血管や組織に負担をかけることで痔疾患が発症します。

痔の前兆や初期症状について

痔の初期症状は、タイプによって異なりますが、一般的に以下のような症状が見られます。

1.内痔核の初期症状

  • 排便時の出血(鮮紅色の血液が便器に落ちる)
  • 肛門の不快感や違和感

2.外痔核の初期症状

  • 肛門周囲の腫れや痛み
  • 座位時や排便時の不快感

3.裂肛の初期症状

  • 排便時や排便後の鋭い痛み
  • 少量の出血(便やトイレットペーパーに付着する程度)

4.痔ろうの初期症状

  • 肛門周辺の痛み
  • 排膿

これらの症状で困っている場合は、早めに受診しましょう。
また、痔の症状や原因にあわせて以下の診療科を受診することをおすすめします。

1.肛門科

  • 痔疾患の専門的な診断と治療を行う
  • 手術が必要な場合も対応可能

2.消化器外科・外科

  • 痔の診断と治療も行える場合がある

3.消化器内科

  • 保存的治療(非外科治療)の範囲内で、対応可能な場合がある
  • ほかの消化器疾患との鑑別を行う

4.小児科・小児外科

  • 小児の痔について相談ができる

痔の検査・診断

痔の診断は、主に以下の方法で行われます。

1.問診

  • 症状の詳細
  • 生活習慣(食事、運動、排便習慣など)
  • 既往歴、家族歴

2.視診

  • 肛門周囲の観察
  • 痔核の腫脹や脱出、出血、排膿、皮膚の発赤や腫脹の有無について評価

3.指診

  • 肛門から直腸や肛門周囲の触診

4.肛門鏡検査

  • 特殊な器具を用いた肛門管内の観察
  • 内痔核や裂肛、痔ろうの原発口の評価

5.直腸鏡検査

  • より深部の直腸の観察
  • ほかの直腸疾患との鑑別

6.大腸内視鏡検査

  • 必要に応じて実施
  • 炎症性腸疾患など、ほかの消化器疾患の除外

7.肛門超音波検査
痔瘻や肛門周囲膿瘍などの評価

8.CT・MRI検査

  • 深部、または複雑な形態の膿瘍や痔瘻についての評価

これらの検査結果と臨床所見を総合的にみて、ほかの疾病との鑑別と痔疾患の診断や状態を評価します。

鑑別診断として、以下の疾患を考慮する必要があります。

  • 粘膜脱
  • 直腸脱
  • 肛門ポリープ
  • 直腸腫瘍
  • 肛門部の腫瘍
  • 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病など)
  • 尖圭コンジローマなどの感染性疾患

痔の治療

痔核

保存的治療

  • 生活習慣の改善
  • 食物繊維(とくに、水溶性食物繊維)の摂取を増やす
  • 入浴
  • 規則的な排便習慣、トイレに長く座らない
  • 長時間の座位や冷えを避ける
  • 薬物治療
  • 外用薬(坐薬や軟膏)

ステロイド配合の製剤は腫れや出血などの症状改善効果が高いが、長期使用には注意が必要
リドカインなどの局所麻酔薬が配合されているものは、疼痛の緩和効果も強い

外科的治療

  • 結紮切除術、分離結紮術
  • 硬化療法(ALTA療法)
  • Stapled hemorrhoidopexy(PPH 法)

痔ろう

痔ろうの自然治癒はまれなので、外科的手術が基本です。
主に以下のような治療があげられます。

  • 開放術
  • 括約筋温存術
  • シートン法

裂肛

保存的療法

  • 肛門の衛生

排便後は坐浴や水での洗浄を行う

  • 食事

水溶性繊維の多い食材を十分に摂取する

  • 外用薬

ステロイドや局所麻酔薬を含有した軟膏

外科的治療

  • 側方内肛門括約筋切開術(lateral internal sphincterotomy:LIS)
    皮膚
  • 弁移動術(sliding skin graft:SSG)

治療法は、痔の種類、重症度、患者さんの希望を考慮して決定します。
痔ろう以外では多くの場合、まず保存的治療を試した後、効果が不十分な場合に外科的治療を検討します。

また治療後の再発予防も重要です。
生活習慣の改善や定期的な受診を継続することで、長期的な症状管理が可能となります。

痔になりやすい人・予防の方法

痔になりやすい人の特徴

  • 慢性的な便秘や下痢がある人

  • デスクワークや長距離ドライブなど、長時間座位を取る人

  • 妊婦や出産経験のある女性

  • 肥満の人

  • 高齢者

  • 過度の運動や重いものを持つ仕事をしている人

  • 不適切な肛門衛生習慣がある人

  • 特定の疾患(炎症性腸疾患など)を持つ人

予防の方法

痔疾患の保存的治療で挙げたような生活習慣が、発症や再発を予防することにつながります。

ただし、個人の体質や環境によって効果には差があるため、症状がある場合は早めの受診をおすすめします。

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