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直腸脱
村上 知彦

監修医師
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)

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長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科

直腸脱の概要

直腸脱は、直腸の一部または全体が肛門から飛び出た状態のことです。女性や高齢者に多く見られますが、若年層でも発症することがあります。この状態は患者の生活の質を著しく低下させ、不快感や痛み、排便困難などの症状を引き起こします。

直腸脱には以下の3つのタイプがあります。
完全直腸脱は直腸全体が肛門から脱出する最も重度の形態です。
一方、直腸の一部(粘膜)のみが脱出した状態を「不完全直腸脱(直腸粘膜脱)」と呼びます。
さらに直腸が下に垂れてくるものの肛門から脱出せず、直腸の壁が二重になる「不顕性直腸脱(直腸重積)」があります。

直腸脱は単なる不快感以上の問題を引き起こし、重度の場合は腸の血流が阻害されて緊急手術が必要になることもあります。

直腸脱の管理には、生活習慣の改善から手術まで、様々なアプローチがあります。治療法の選択は、患者の年齢、全体的な健康状態、症状の重症度などに基づいて個別に決定されます。早期発見と適切な治療により、多くの患者さんが症状の改善と生活の質の向上を実現しています。

直腸脱の原因

直腸脱の原因は完全には解明されていませんが、複数の要因が関与していると考えられています。
一般的な要因の一つは、長年にわたる慢性的な便秘です。排泄時に繰り返し強くいきむことで、骨盤底筋群や肛門括約筋が徐々に弱化し、直腸を支える構造が損なわれる可能性があります。また、長期間の下痢も直腸脱のリスクを高める要因です。頻繁な排便や腹圧の上昇が、骨盤底の筋肉や靭帯に過度のストレスをかけるためです。

加齢も要因の一つです。年齢とともに骨盤底筋群が自然と弱まり、直腸を適切に支える力が低下します。特に閉経後の女性はエストロゲンの減少により、骨盤底の筋肉や結合組織がさらに弱くなりやすいです。

その他の要因として、慢性的な咳、重い物の持ち上げなどによる腹圧の頻繁な上昇、神経系の問題(脊髄損傷など)、そして遺伝的要因なども挙げられます。直腸脱は通常、これらの要因が複合的に作用して発症します。

直腸脱の前兆や初期症状について

一般的な初期症状の一つは、排便時に何かが肛門から突出しているような感覚です。最初は、自然に元に戻ることが多いですが、時間とともに症状が進行し、手で押し戻す必要が出てくることがあります。押し込まないと腫れや痛み、出血などの症状が続きます。

また、便失禁も初期症状として現れることがあります。これは直腸の位置が変わることで、肛門括約筋の機能が低下するためです。最初は軽度のガス漏れから始まり、徐々に液状便や固形便の漏れへと進行する可能性があります。

粘液の分泌増加も注意すべき症状です。直腸が露出することで粘膜が刺激され、過剰な粘液を分泌することがあります。これにより下着が汚れたり、不快感を感じたりすることがあります。

排便習慣が変化することもあります。便秘や排便時の困難感が増したり、逆に頻繁な便意を感じたりすることがあります。また、排便後も便が残っているような感覚(残便感)を経験する人も多いです。
その他、骨盤部の違和感や重圧感、肛門周囲の痛みや不快感なども初期症状として現れることがあります。

直腸脱の検査・診断

直腸脱の最も基本的な検査は視診です。患者にいきんでもらい、直腸の脱出の有無や程度を確認します。直腸が肛門から脱出していれば診断は容易ですが、脱出がほとんど見られない場合はいきんだ状態での観察が必要です。

より詳細な評価が必要な場合、排便造影検査が行われることがあります。これは、X線透視下で造影剤を注入した状態で排便動作を行い、直腸や骨盤底の動きを動的に観察する検査です。直腸脱の程度や、他の骨盤底疾患の合併の有無を評価するのに有用です。

大腸内視鏡検査も重要な診断ツールです。直腸脱自体の診断よりも、腫瘍などの他の病変の有無を確認するために行われます。特に高齢者の場合、大腸がんのリスクも考慮して実施されることが多いです。MRI(磁気共鳴画像)検査は、骨盤底の筋肉や靭帯の変化を詳細に評価するのに役立ちます。特に内直腸脱の診断や、手術計画を立てる際に有用です。

これらの検査結果を総合的に判断し、直腸脱の程度や合併症の有無を評価します。

直腸脱の治療

直腸脱の治療は、症状の程度や患者の全身状態に応じて、保存的治療から外科的治療まで幅広い選択肢があります。便漏れや排便障害を改善することが最終的な目標です。

保存的治療は、軽度の症状や乳児や高齢者など手術リスクの高い患者に対して行われます。これには、排便習慣の改善、骨盤底筋体操などが含まれます。
また、便秘や下痢の管理も重要で、下剤や止痢薬の使用が推奨されることがあります。バイオフィードバック療法も効果的な保存的治療の一つです。これは、特殊な機器を使用して骨盤底筋の収縮を視覚化し、効果的な筋トレーニングを行う方法です。特に軽度から中等度の症状改善に役立ちます。

症状が進行した場合や保存的治療で改善が見られない場合は、外科的治療が検討されます。

手術方法は大きく経肛門的アプローチ(経会陰的手術)と経腹的アプローチに分けられます。
経肛門アプローチは腰椎麻酔や局所麻酔で実施し、直腸を下から押し戻して固定する治療です。全身への影響が少ないメリットがありますが、再発率が高いことが懸念点です。
経腹的アプローチは、全身麻酔で実施し、お腹側から直腸を上から持ち上げて固定する治療方法になります。侵襲性が高いですが、再発率は低いです。

治療法の選択は、症状の程度、患者の年齢や全身状態、生活様式などを考慮して決定されます。また、術後の適切なフォローアップも重要で、再発予防のための生活指導や定期的な検診が推奨されます。

直腸脱になりやすい人・予防の方法

直腸脱は特定の要因や生活習慣と関連があり、いくつかのリスク要因があります。リスク要因を理解し、予防することで、発症リスクを低減できる可能性があります。直腸脱のリスクが高い要因は以下の7つです。

  • 高齢者、特に65歳以上の女性
  • 出産経験のある女性、特に経膣分娩を複数回経験した人
  • 慢性的な便秘や下痢に悩む人
  • 長期間にわたって重い物を持ち上げる仕事に従事している人
  • 慢性的な咳(COPD患者など)がある人
  • 神経系の疾患(多発性硬化症、脊髄損傷など)を持つ人
  • 骨盤底筋群の弱い人

予防方法としては、以下のような対策が効果的です

食事管理 食物繊維を十分に摂取し、水分補給を心がけることで、便秘を予防
骨盤底筋体操 定期的な骨盤底筋体操により、骨盤底の筋力を維持・強化
体重管理 喫煙は慢性的な咳を引き起こし、腹圧を上昇させる可能性がある
喫煙の回避 肥満は腹圧を上昇させるため、適正体重を維持
重い物を持ち上げる際の注意 腹圧が上昇しないよう、息を止めないようにして持ち上げる
便秘や下痢の適切な管理 慢性的な便秘や下痢は直腸、肛門に負担を与え続けることになる

これらの予防策は、直腸脱のリスク低減だけでなく、全体的な健康維持にも役立ちます。特にリスクの高い人は、定期的な健康診断を受け、早期に症状を発見することが重要です。


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