目次 -INDEX-

メッケル憩室
田中 茉里子

監修医師
田中 茉里子(医師)

プロフィールをもっと見る
・弘前大学医学部卒業 ・現在は湘南鎌倉総合病院勤務 ・専門は肝胆膵外科、消化器外科、一般外科

メッケル憩室の概要

メッケル憩室は、小腸にある先天性の憩室で、胎児の発生過程で残存する卵黄腸管の一部が原因で形成されます。 消化管の壁の一部が外側に袋状に突出した状態のことです。メッケル憩室があっても多くの場合は無症状で、一生気づかれず過ごすことも少なくありません。

メッケル憩室は胎児の発育中に発生するため、通常では存在しない組織が入り込むことがあります。憩室内は普通、正常な小腸の粘膜組織で覆われていますが、胃の粘膜組織や膵臓の組織が含まれることがあります。特に胃の粘膜組織が含まれている場合、胃酸が分泌され、周囲の腸壁を刺激して潰瘍や出血を引き起こす可能性があります。 また、憩室が腸閉塞の原因となることもあり、特に幼児や若年層で見られることが多い傾向です。腸閉塞は、食物や液体が腸を通過できなくなるため、激しい腹痛や嘔吐を引き起こすことがあります。さらに、憩室が炎症を起こしてメッケル憩室炎となり、腹痛や発熱を伴うことがあります。また、稀ですが、メッケル憩室からがんが発生する可能性があることも知られています。

メッケル憩室の存在自体は多くの場合問題になりませんが、上記のような合併症が生じると、迅速な医療介入が必要となります。従って、特に幼児や若年層において原因不明の腹痛や消化管出血が見られた場合には、メッケル憩室の可能性も考慮し、医療機関を受診することが重要です。

メッケル憩室の原因

メッケル憩室は、胎児の発育過程において卵黄腸管の一部が完全に消失せずに残存することによって生じる先天性の憩室です。胎児の発達の初期に、卵黄腸管という管が臍帯(へその緒)と小腸の間に発生し、やがて退縮します。しかし、一部の人々では、この過程が完全には進まず、小腸の一部に憩室として残ることがあります。憩室には、繊維状の組織が付着していることがあり、これがのちに腸閉塞の原因となることがあります。 また、この憩室の内側に、異常な組織が含まれる場合があります。胃の粘膜や膵臓の組織です。特に胃の粘膜が含まれている場合、胃酸が分泌され、周囲の腸壁を刺激して潰瘍を引き起こし、出血を合併する場合があります。

メッケル憩室は誰にでも発症する可能性がある先天性の異常ですが、食堂閉鎖症や肛門奇形など、ほかの先天性疾患を持つ場合、メッケル憩室になりやすかったり、合併症を起こしやすかったりすることが知られています。また、女性よりも男性で多い傾向にあります。

メッケル憩室の前兆や初期症状について

メッケル憩室は、通常は無症状であり、発見されないことが多いですが、合併症による症状が出る場合もあります。これらの症状は主に憩室内の異常な組織によって現れることが多いようです。以下に、メッケル憩室の前兆や初期症状について詳しく説明します。

まず、一般的な症状の一つとして腹痛があります。腹痛は憩室内の胃粘膜組織から胃酸が分泌され、周囲の腸壁に潰瘍が形成された場合に発生します。また、憩室が細菌感染を起こして炎症が生じた場合も、腹痛や発熱、腹部の圧痛などの症状が出ることがあります。これは虫垂炎(いわゆる盲腸)の症状と似ている場合が多いようです。

次に、胃酸による潰瘍が原因となり、便に混じった出血が見られることがあります。特に子どもや若年層でにこのような出血がみられた場合、原因としてメッケル憩室の存在を考慮することが大切です。

さらに、腸閉塞もメッケル憩室の症状として現れることがあります。メッケル憩室に含まれる索状物(血管のなごりのひも状の構造物)が腸にはまりこむと、食物や液体が腸を通過できなくなり、激しい腹痛や嘔吐、腹部の膨満感が生じます。腸閉塞は急を要する状態であり、迅速な医療介入が必要です。

また、稀ですが、メッケル憩室からがんが発生することもあります。憩室に入り込んだ胃粘膜組織から胃がんが発生したり、膵臓の組織から膵臓がんが発生したりします。腹部の不快感などの症状が現れることもありますが、早期の診断は困難で、進行してから発見されることが多い傾向にあります。

全体として、メッケル憩室は無症状であることが多いものの、上述のような腹痛、出血、腸閉塞などの症状が現れた場合には、消化器科を受診することが大切です。治療が遅れると、出血からショックに至ったり、感染から敗血症に至ったりと、命に関わる危険性もあります。

メッケル憩室の検査・診断

メッケル憩室は通常無症状で、ほかの理由で画像検査を受けたときに偶然発見される人もいます。 ただし、特に小児において原因不明の腹痛や消化管出血といった症状がある場合、メッケル憩室の存在を疑って積極的な検査をすることがあります。検査には以下のようなものがあります。

  • 99m(テクネシウム)Tcシンチ検査 消化管出血がある場合、この核医学検査が選択肢となります。出血の原因として胃粘膜組織から分泌された胃酸によって潰瘍が起きていることが想定されます。よって、胃粘膜に集積する放射性物質を静脈から少量投与し、ガンマカメラで追跡することで、憩室内にある胃粘膜組織を同定することができます。
  • 血管造影検査 上記の造影CTにて活動性出血を認めた場合、治療目的で実施することはあります。
  • 内視鏡検査 上記のような検査で憩室が見つからない場合、内視鏡によって小腸の観察をすることがあります。あるいは、錠剤大の小さなカメラを飲み込む、カプセル内視鏡という方法もあります。飲み込んだカメラは、便と一緒に排泄されます。

メッケル憩室の治療

メッケル憩室が合併症を引き起こした際には、治療が必要になる場合があります。治療の基本は外科手術になります。消化管出血で発症した場合には、潰瘍の薬を投与し、止血されたあとに待機的に手術を行うこともあります。 腹痛で発症した場合、メッケル憩室以外の原因による腸閉塞や、虫垂炎などとの区別は難しいこともあり、手術でお腹の中を見た際にはじめてメッケル憩室の診断がつくこともあります。

手術の内容は、憩室のある腸の一部を切り取るというもので、小腸切除術と呼ばれます。メッケル憩室があっても無症状であれば、ほとんどの場合、治療の必要はありません。場合によっては、胃粘膜組織を含むメッケル憩室を持った小児に対し、まだ症状を引き起こしていなくても、予防的な切除が勧められることもあります。 手術では、腸閉塞や穿孔(腸に開いた穴)などの合併症にも対処することになります。ひどい腸閉塞や腹膜炎などの場合を除き、多くの場合で、腹腔鏡という内視鏡を用いた手術で治療することが可能です。この場合、傷口は小さな切開だけで済みます。

メッケル憩室になりやすい人・予防の方法

メッケル憩室は一定の割合で起こる先天異常であり、予防の方法はなく、合併症が起きた場合に適切な対処をすることが大切です。 メッケル憩室があったとしても、症状を伴う場合は少ないです。もし小児で原因不明の腹痛や消化管出血といった症状がある場合、早期の診断・治療のために医療機関を受診することをおすすめします。 しかし、これまで合併症を起こしたことのない大人であれば、おそらく今後も症状なく過ごすことができると思われますので、過度な心配は必要ありません。

関連する病気

この記事の監修医師