

監修医師:
久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
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琉球大学医学部卒業。琉球大学病院内分泌代謝内科所属。市中病院で初期研修を修了後、予防医学と関連の深い内分泌代謝科を専攻し、琉球大学病院で内科専攻医プログラム修了。今後は公衆衛生学も並行して学び、幅広い視野で予防医学を追求する。日本専門医機構認定内科専門医、日本医師会認定産業医。内分泌代謝・糖尿病内科専門医。
目次 -INDEX-
ノロウイルス感染症の概要
ノロウイルスは、急性胃腸炎を引き起こす感染力の強いウイルスです。主に冬季に流行するウイルスで、年間を通じて感染します。ノロウイルスは、非常に小さな粒子で構成されており、10〜100個程度のウイルス粒子でも感染を引き起こす可能性があります。 ノロウイルスに感染すると、主に嘔吐、下痢、腹痛などの症状が現れます。これらの症状は1〜3日程度で自然に回復します。ただし乳幼児や高齢者、免疫力の低下した方は重症化の可能性があるので注意が必要です。また、熱や乾燥に対する抵抗力の強い細菌で、通常の調理過程や消毒で、完全に除去することが難しく、食品を介した感染や環境表面からの二次感染が起こりやすいです。 ノロウイルス感染症は、「感染性胃腸炎」として分類され、5類感染症に指定されています。特に集団生活の場である保育園、学校、高齢者施設などでは集団感染と2次感染のリスクが上がります。そのため、これらの施設では注意深い予防対策が必要です。 そのため、感染者が出た時は、すぐに適切な対応を取ることが重要です。手洗いの徹底、施設内の消毒、感染者の隔離などの対策を行うことで、感染の拡大を防げます。ノロウイルス感染症の原因
ノロウイルスの感染原因は、主に3つの経路に分けられます。この章では感染経路ごとに、解説します。糞便・嘔吐物による感染
1つ目は、感染者の糞便や嘔吐物に直接触れることによる接触感染です。ノロウイルスに感染した人の糞便や嘔吐物には、大量のウイルスが含まれています。これらに触れた手指を介して、ウイルスが口に入り感染します。分かりやすいのが、トイレの後の手洗いが不十分な場合や、嘔吐物の処理を適切に行わなかった場合などです。こまめな手洗いが必要になります。食品・水による感染
2つ目は、ウイルスに汚染された食品や水の摂取による経口感染です。注意が必要な食材は、カキなどの二枚貝です。これらの貝は、海水中のノロウイルスを濾過して体内に蓄積する性質があります。そのため、ウイルスに汚染された海域で育った貝と知らずに、生や加熱不十分な状態で食べると、感染する可能性が上がります。さらに、感染した調理者が食品を取り扱う際に、適切な衛生管理を行わなかった場合も、食品を介した感染が起こります。飛沫感染
3つ目は、感染者の嘔吐物が乾燥して空気中に舞い上がり、それを吸い込むことによる飛沫感染です。ノロウイルスは非常に小さな粒子なため、嘔吐物が乾燥すると空気中に浮遊します。このウイルスを含んだ粒子を吸い込むと感染が成立します。特に、閉鎖的な空間や換気が不十分な環境ではリスクが上がるため、こまめな換気が大切になります。ノロウイルス感染症の根本要因
ノロウイルスが感染を引き起こす要因として、強い感染力と環境抵抗性が挙げられます。ノロウイルスは非常に少量のウイルス粒子でも感染を引き起こすことができます。熱や乾燥、アルコールなどに対する抵抗力も強いため、一般的な調理過程や消毒では完全に除去することが難しく、その場の環境下で長期間生存することができます。 さらに、ノロウイルスは遺伝子型が多様で、頻繁に変異します。そのため、一度感染しても新しい遺伝子型のウイルスが出現すると免疫が効かず、大規模な流行を引き起こします。 ノロウイルスの感染は、特に冬の寒い時期に多く確認できました。これは、気温や湿度の低下によってウイルスの生存率が高まることと、人が室内で過ごす時間が長くなりやすいためです。密閉空間での接触機会が増えることも関係しています。しかし、近年は年間を通じて感染例が報告されているため、季節を問わず注意が必要です。ノロウイルス感染症の前兆や初期症状について
ノロウイルス感染症の前兆や初期症状を理解することは、早期の対応や感染拡大の防止に役立ちます。ここでは前兆と初期症状を解説します。ノロウイルス感染症の前兆
ノロウイルス感染症は、通常24〜48時間の潜伏期間を経て症状が現れます。突然の吐き気から始まり、その後急激に症状が進行していきます。ノロウイルス感染症の初期症状とその流れ
初期症状は、突然の吐き気と嘔吐です。具体的には胃の中身を全て吐き出すような激しい嘔吐を経験します。この嘔吐は、1日に数回から10回以上に及びます。嘔吐の頻度は時間とともに減少しますが、24時間以上続く時もあります。 同時に下痢の症状も現れます。ノロウイルス感染症による下痢は通常水様性で、量が多いのが特徴です。下痢の回数も1日に数回から10回以上になり、これにより急速に脱水状態に陥る可能性があります。下痢の症状は嘔吐よりも長く続くことが多く、3〜4日、もしくは1週間以上続くこともあります。 腹痛も症状の一つです。具体的な症状は、胃のあたりにけいれんのような痛みを感じます。この痛みは、嘔吐や下痢の前後に特に強く感じられることが多く、腹部全体が張ったような不快感を伴います。 発熱は必ずしも全ての患者さんに見られる症状ではなく、約半数の方が37〜38度程度の発熱があります。高熱を伴うことは少なく38度以上の発熱の場合、他の疾患も考慮する必要があります。 他にも、頭痛、倦怠感、筋肉痛などの症状が報告されています。原因は、嘔吐や下痢による脱水や電解質バランスの乱れから起こることが多いです。高齢者や基礎疾患のある方は、より顕著に現れます。ノロウイルス感染時の注意点
ノロウイルス感染症の症状は個人差があり、人により症状も変わります。例えば、感染しても全く症状が出ない不顕性感染や、軽微な症状で済む方もいます。注意点として、感染者の便中にはウイルスが排出されています。そのため、感染が確認できた時は、他者への感染リスクがあることに注意が必要です。 症状が急激に悪化する可能性があることも注意が必要です。初期症状が軽微であっても、数時間のうちに重症化することがあります。特に乳幼児や高齢者、免疫力の低下した方は、脱水症状が急速に進行するため、消化器内科の受診が望ましいでしょう。 ノロウイルス感染症の症状は他の胃腸炎と類似しているため、症状だけで断定することは難しいです。冬季は、ロタウイルスやアデノウイルスなど、他のウイルス性胃腸炎も流行するため、正確な診断は消化器内科での検査が必要となります。ノロウイルス感染症の検査・診断
ノロウイルス感染症の診断は、主に臨床症状と検査結果を総合的に判断して行われます。また判断を行うための検査方法には3つの種類があります。この章ではそれぞれの特徴や適用場面を解説します。イムノクロマト法
最も一般的なのは、イムノクロマト法による迅速診断キットです。この検査は、患者さんの便や嘔吐物中のノロウイルス抗原を検出するもので、15〜30分程度で結果が分かります。利用しやすいのがメリットで、外来診療や集団感染が疑われる現場での初期スクリーニングに最適です。。デメリットとして、感度が比較的低いため、偽陰性の結果が現れやすいです。特に症状発症から3日以上経過していたり、ウイルス量が少ない時に出やすくなります。ERISA法
ノロウイルスの検査の中で、高感度な検査方法にELISA法があります。これは、イムノクロマト法と同様に抗原を検出する方法です。しかし、高感度で定量的な結果が得られます。検査時間は1〜2時間程度かかりますが、イムノクロマト法よりも精度の高い結果が分かります。大規模な検査施設や研究機関で用いられる方法です。RT-PCR法
最も感度の高い検査として用いられるのがRT-PCR法です。この方法は、ノロウイルスの遺伝子を直接検出するため、非常に高感度かつ特異的です。さらに、ウイルスの遺伝子型の特定もできるため、疫学調査や集団感染の原因究明に利用されています。しかし、専門的な設備と技術が必要なため、一般の医療機関では実施が困難です。主に保健所や衛生研究所などの専門機関で利用されます。検査結果は数時間から1日程度かかります。検査を受けるときの注意点
ノロウイルス感染症の検査を受ける際の注意点として、症状発症後できるだけ早く検体を採取する必要があります。発症から時間が経つとウイルス排出量が減少し、検出が難しくなるためです。また、検体の取り扱いには十分な注意が必要です。ノロウイルスは非常に感染力が強いため、検体採取や運搬の際に適切な感染防護策を講じる必要があります。 ノロウイルス感染症の診断は、必ずしも検査結果のみに依存するわけではありません。特に流行期など、典型的な臨床症状と疫学的情報(周囲の感染状況など)を総合的に判断して診断することも多いです。集団感染が疑われる場合や、重症化のリスクが高い場合、早期に検査を実施することが必要になります。 また、ノロウイルス以外の細菌による胃腸炎との鑑別も重要です。ロタウイルスやサルモネラ菌、カンピロバクターなどは、症状がノロウイルス感染症と類似しています。そのため、必要に応じて他の病との識別が必要です。受診の際の保険適用について
ノロウイルス感染症検査の保険適用は、一部の条件を満たす場合に限られています。3歳未満の乳幼児や65歳以上の高齢者、免疫不全状態にある患者さんなどが対象です。適用されない場合、自費診療となりやすいので、検査を希望する際は、事前に医療機関への確認をお勧めします。ノロウイルス感染症になりやすい人・予防の方法
ノロウイルスに感染しやすい人には特徴があります。この章では、それぞれの特徴と感染の予防方法を解説します。手洗いをしない人
日常生活のなかで手洗いをあまりしない人は、ノロウイルスに感染しやすいです。特に飲食店で働いている職員などが、トイレの後にしっかりと手洗いをしていないと感染する可能性があります。そのような状況だと、他者への感染拡大の手助けをします。予防としては、トイレの後に調理をするときは、しっかりと手洗いをすることが重要です。食事に十分な加熱処理をしない
調理の前にしっかりと手を洗っても、食事の加熱を怠るとノロウイルスに感染しやすくなります。特に2枚貝などは中心部まで十分に加熱をしてください。具体的には、85℃〜90℃で90秒間以上の加熱処理が必要です。加熱が不十分だと感染の確率が上がるので、予防のために行うことをおすすめします。清潔な環境を維持できない人
日常の手洗いや、調理の時に使うタオルが不衛生なものだと、ノロウイルスに感染するリスクが上がります。清潔になった手を拭くタオルにウイルスがいた場合、感染は避けられません。予防として、常に清潔なタオルに交換して使用するよう心がけてください。関連する病気
- 感染性胃腸炎
- 脱水症
- 二次感染




