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便秘
本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

便秘の概要

便秘は、多くの人が日常的に経験する消化器の問題の一つです。便秘とは、本来体外に排出するべき便を十分量かつ快適に排出できない状態をいいます。排便の回数の減少や硬い便が出ること、残便感やいきまないと排便できないなどの排便関連症状も伴います。不規則な食生活やストレス、運動不足、特定の薬剤の影響も便秘の原因として考えられます。

便秘の症状は、単に排便が困難になるだけでなく、腹部の膨満感や不快感、ガスの貯留、食欲不振など多岐にわたります。また、便秘が続くと、痔や裂肛などの二次的な合併症を引き起こすこともあります。特に高齢者においては、便秘が健康全般に及ぼす影響が大きいため、早期の対処が重要となります。

便秘は多くの場合、自宅での生活習慣の改善で対処できます。しかし、血便や激しい腹痛を伴う場合は、重大な疾患が隠れている可能性があるため注意が必要です。便秘は軽視されがちですが、適切な対策を講じることで生活の質を大きく向上させることができます。

便秘の原因

便秘の原因は多岐にわたりますが、大きく分けて生活習慣、食事、ストレス、薬剤、副腎皮質ホルモンなどの内分泌異常が挙げられます。

生活習慣

まず、生活習慣の面では運動不足や水分摂取不足が便秘を引き起こす大きな要因となります。運動は腸の蠕動運動を促進し排便をスムーズにする効果がありますが、運動不足になると腸の動きが乏しくなり、便秘になりやすくなります。また、水分の摂取不足も便が硬くなる原因となります。

食事

食事の面では、食物繊維の不足が便秘の原因としてよく知られています。食物繊維は小腸で吸収されず、大腸まで達する食品の成分です。整腸作用だけでなく血糖値を上昇させるのを抑制したり、血中コレステロール値を下げたりするなどの効果があります。野菜類や果物類、豆類、きのこ類、藻類などを積極的に摂取することが便秘予防につながります。さらに、偏った食生活や過度のダイエットも腸内環境を悪化させ、便秘を引き起こす要因となるので注意が必要です。

ストレス

ストレスも便秘の原因の一つです。ストレスがかかると、自律神経が乱れ、腸の蠕動運動が不規則になります。これにより、腸内の便がスムーズに移動しなくなり、便秘が生じやすくなります。

薬剤の影響

また、特定の薬剤、例えば向精神薬や抗コリン薬、オピオイド系薬なども便秘を引き起こすことがあります。

ホルモンや内分泌異常によるもの

さらに、ホルモンの変化や内分泌異常も便秘の原因となることがあります。特に、甲状腺機能低下症や糖尿病、パーキンソン病、副腎皮質ホルモンの異常などが便秘を引き起こすことがあります。

この他にも大腸がんやクローン病、大腸や小腸の内部に腫瘤や狭窄が出来てしまった場合にも便秘を併発する恐れがあるので、注意が必要です。

便秘の前兆や初期症状について

便秘の前兆や初期症状は個人差がありますが、いくつか共通する兆候があります。

排便回数

排便の頻度が減少し、通常のリズムが乱れることが便秘の兆候として挙げられます。普段は毎日排便がある方が、数日に一度しか排便がなくなるなど、明らかな変化が見られることがあります。

便の硬さ

便が普段よりも硬くなった場合も、便秘の前兆と考えられます。排便時にいきむことが多くなり、排便後も残便感があるなどの症状も、便秘の兆候としてみられます。

腹部の膨満感や腹痛

腹部の膨満感や腹痛をきたすことも便秘の初期症状の一つです。腸内にガスが溜まりやすくなり、腹部が張る感じが続くことがあり、腹痛を訴える方もいます。

その他の兆候

便秘が続くことで肌の調子が悪くなることもあります。便秘により体内の老廃物が排出されにくくなると、肌荒れや吹き出物が増えることがあります。このような体の外見に現れる変化も、便秘の前兆として見逃せません。

このように、便秘の前兆や初期症状は多岐にわたり生活の質を低下させる要因となります。早期に気づき、適切な対処を行うことで便秘の悪化を防ぐことが期待できます。我慢せずに消化器内科を受診しましょう。

便秘の検査・診断

便秘の診断は、患者さんの症状や生活習慣、食事内容などを問診にて聞き取り、身体診察にて行われます。また、便秘を引き起こす病気が疑われた場合には血液検査や画像診断、内視鏡検査を行います。

問診

問診を通じて、排便の頻度や便の硬さ、排便時のいきみの有無などを確認します。その他にも残便感の有無や、下剤や浣腸薬の使用歴や頻度を尋ね、便秘の病歴を詳しく聞き取ります。これにより、便秘の原因や関連する疾患を特定するための手がかりを得ます。

身体診察

身体診察では発熱などの症状の全身状態を評価したあと、腹部の触診により腸内の状態やガスの溜まり具合を確認します。また、直腸指診を行うことで直腸内の傷や出血、狭窄がないかなど、肛門周囲の異常を確認し、便秘の原因となる直腸や肛門の問題を特定します。

血液検査

必要に応じて血液検査が行われます。血液検査では、血中の電解質やカルシウムの値のほか、甲状腺機能や糖尿病の有無、など、便秘に関連する内分泌異常を確認します。

画像診断

画像診断としては、腹部のレントゲン線検査やCT、MRIなどが用いられます。これらの検査により、腸の構造的な異常や大腸のどこに便が貯留しているのか、腸管蠕動運動の低下の有無などを確認します。

内視鏡検査

また、便秘の原因が特定の疾患によるものかどうかを確認するために、大腸内視鏡検査が行われることもあります。大腸内のポリープや腫瘍の有無炎症が無いかなどを確認します。 便秘の診断には、このように多角的なアプローチが必要です。正確な診断を行うことで、適切な治療方針を立てることができます。そのため、自己判断で便秘を放置しないようにしましょう。

便秘の治療

便秘の治療は、保存的治療と外科的治療にわけられます。

保存的治療

保存的治療では食習慣を含む生活習慣の改善が基本となります。生活習慣を見直しても便秘の改善がみられなかった場合には、薬物治療や摘便などの治療が選択されます。 薬物療法で用いられる薬には、刺激性下剤、浸透圧性下剤、膨張性下剤などがあります。刺激性下剤は腸の蠕動運動を刺激して排便を促す効果がありますが、長期間の使用で薬剤の耐性ができてしまうため、注意が必要です。一方、浸透圧性下剤は腸内の水分を増やして便を柔らかくする効果があり、比較的安全に使用できます。膨張性下剤は腸内の水分を取り込み、便を膨張させ、柔らかくすることで、自然な排便を促します。

さらに、便秘が特定の疾患によるものである場合、その基礎疾患の治療が必要です。例えば、甲状腺機能低下症や糖尿病が原因で便秘が生じている場合、これらの疾患の治療を行うことで便秘も改善されることがあります。

外科的治療

保存的治療で病状の改善が認められない場合で、外科的介入の余地がある場合には、外科的な治療が選択されることもあります。 外科的治療を行うにしても正確な病態評価が必要ですが、十分な評価が行える施設が限られている現状です。

便秘の治療は、個々の症状や原因に応じた総合的なアプローチが求められます。自己判断で市販薬を使用するのではなく、消化器内科医などの専門医の指導のもとで適切な治療を行うようにしましょう。

便秘になりやすい人・予防の方法

便秘は多くの人が経験しやすい健康問題です。便秘になりやすい人の特徴を理解し、予防法を知れば改善が期待できる可能性があります。具体的にご紹介しますので日常生活に取り入れていきましょう。

便秘になりやすい人の特徴

便秘になりやすい人にはいくつかの共通点があります。まず、生活習慣が不規則な人や運動不足の人は便秘を起こしやすいとされています。長時間座りっぱなしの仕事や、運動を全くしない場合、腸の蠕動運動が低下しがちです。また、食事のバランスが悪い人も便秘になりやすい特徴があります。特に食物繊維の摂取が不足している場合、硬い便になりやすいでしょう。

ストレスを多く抱える人も、便秘に影響します。ストレスがかかると自律神経のバランスが崩れ、腸の動きが鈍くなる可能性があるからです。また、ホルモンバランスが乱れやすい女性も便秘を経験しやすくなります。特に妊娠中や生理前後は、ホルモンの影響で腸の動きが鈍くなることがあります。

便秘の予防法

便秘の予防には、まず生活習慣の改善が重要です。1日3食の規則正しい食生活を心がけ、食物繊維を豊富に含む食材を積極的に取り入れましょう。例えば、野菜や果物、全粒穀物、豆類などが効果的です。食物繊維は便の量を増やし、排便を促進する効果があります。また、水分を十分に摂取することも大切です。1日1.5〜2リットルを目安に水を飲むことを目標にしましょう。

運動も便秘予防に有効とされています。特にウォーキングなどの有酸素運動は手軽に始められるのでおすすめです。1日20分〜30分のウォーキングで充分とされています。また、ストレスを溜めないようにすることも重要です。リラクゼーション法や趣味の時間を持つことで、心身のバランスを整えましょう。

さらに、便秘予防には規則正しい生活リズムも欠かせません。毎日決まった時間に食事を摂り、寝る時間を一定にすることで、腸のリズムも整いやすくなります。特に朝食をしっかり摂ることで、腸が活発に動き出すきっかけとなります。朝食後はトイレに座る習慣をつけ、排便習慣を整えましょう。

このように、便秘予防には生活習慣の見直しが基本です。日常生活の中で少しずつ取り入れることで、便秘になりにくい体質の改善が期待できるでしょう。

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