監修医師：
大坂 貴史（医師）
イレウスの概要
イレウスは、腸閉塞とも呼ばれ、腸が部分的または完全に詰まり、食べ物や消化液、ガスが通過できなくなる状態を指します。
この病気は、消化管のどの部分にも発生する可能性があり、特に小腸や大腸が影響を受けやすいです。腸が詰まると、食べ物やガスが排出されなくなるため、腹痛、吐き気、嘔吐、腹部膨満などの症状が現れます。
イレウスには大きく分けて、機械的イレウスと麻痺性イレウスの2種類があります。機械的イレウスは、物理的な要因で腸が詰まる状態を指し、腫瘍や癒着（手術後に腸が周囲の組織にくっつくこと）が原因で発生することが多く、こちらは腸閉塞を呼ぶことが多いです。一方、麻痺性イレウスは、腸の筋肉の動きが止まり、食べ物や消化液が腸を通過できなくなる状態です。どちらも緊急性が高く、迅速な治療が必要です。
イレウスが進行すると、腸が膨張し、血流が妨げられることで、腸の壊死（組織が死ぬこと）や感染症のリスクが高まります。最悪の場合、命に関わる状態に至ることもありますので、早期の発見と治療が非常に重要です。
イレウスの原因
イレウスは、さまざまな原因によって引き起こされます。主な原因は、腸が物理的に閉塞する機械的イレウスと、腸の運動が停止する麻痺性イレウスに分類されます。それぞれの原因について詳しく見ていきましょう。
機械的イレウスの原因
- 腸の癒着：
腹部手術を受けた後に、腸が周囲の組織や他の臓器に癒着してしまうことがあります。これにより、腸が引っ張られて閉塞を起こすことがあります。手術後の癒着は、特に小腸でよく見られ、機械的イレウスの一般的な原因となります。 - 腸の腫瘍：
腸にできた腫瘍が腸管を圧迫したり、腸の内側から閉塞を引き起こすことがあります。これは、大腸がんや小腸のがんなどが原因となりやすく、進行することで腸の通過を妨げます。 - 腸捻転（ちょうねんてん）：
腸が異常にねじれることで腸管が閉塞する状態です。腸捻転は、特に小腸やS状結腸で発生することが多く、急激に症状が進行するため、緊急手術が必要になることがあります。 - ヘルニア：
腹部や鼠径部のヘルニアが原因で腸が圧迫され、閉塞を引き起こすことがあります。ヘルニアの部分に腸が入り込んで血流が阻害されると、イレウスの原因となります。 - 異物：
異物（誤って飲み込んだものや未消化の食べ物）が腸に詰まることで、機械的イレウスが発生することもあります。特に高齢者や小児において、このようなケースが見られることがあります。
麻痺性イレウスの原因
- 手術後の腸の麻痺：
腹部手術後には、腸の運動が一時的に麻痺することがあります。これは手術後の合併症としてよく見られ、腸が正常に動かなくなるために食べ物や消化液が腸を通過できなくなります。 - 神経系や筋肉の疾患：
パーキンソン病や多発性硬化症など、神経系や筋肉に関わる病気が原因で、腸の運動が障害されることがあります。これにより、麻痺性イレウスが発生します。 - 感染症や炎症：
腹膜炎などの腹部の感染症や炎症が原因で、腸の運動が麻痺してしまうことがあります。炎症や感染によって腸壁がダメージを受けることで、腸の働きが一時的に停止します。 - 薬物：
特定の薬物（麻酔薬やオピオイドなど）の影響で腸の運動が停止することがあります。特に、長期間の入院や手術後の管理中に、これらの要因が関与することが多いです。
イレウスの前兆や初期症状について
イレウスは、腸の詰まりが進行するにつれて、さまざまな症状を引き起こします。初期症状としては、腹部に関連する不快感が中心ですが、症状が進行すると全身に影響が及ぶことがあります。
以下に、イレウスの前兆や初期症状を挙げます。
- 腹部の膨満感：
イレウスの初期症状として、腹部が張った感じや膨満感が現れます。腸が詰まると、ガスや消化液が腸内に溜まり、腹部が異常に膨らむことがあります。この膨満感は、食後に特に強く感じられることが多いです。 - 腹痛：
腹痛はイレウスの典型的な症状の一つです。痛みの程度や場所は、イレウスの原因や進行具合によって異なります。初期の段階では、断続的な鈍い痛みが感じられることが多いですが、進行すると激しい痛みや持続的な痛みが現れることがあります。 - 吐き気・嘔吐：
イレウスが進行すると、腸内の物質が逆流し、吐き気や嘔吐を引き起こすことがあります。特に機械的イレウスでは、食べ物や消化液が腸を通過できなくなるため、食後に嘔吐することが多くなります。 - 便秘やガスの排出障害：
腸が閉塞すると、便やガスの排出ができなくなるため、便秘やおならが出ないという症状が現れます。これらの症状は、特にイレウスが進行している場合に顕著です。 - 発熱や脱水症状：
イレウスが進行し、腸内に感染や壊死が生じると、発熱や全身の脱水症状が現れることがあります。特に、腸が長時間詰まったままになると、腸壁がダメージを受け、感染症や全身症状が悪化することがあります。
イレウスの検査・診断
イレウスの診断には、症状や身体検査、画像診断が重要な役割を果たします。適切な診断を行うことで、早期に治療を開始し、合併症を防ぐことができます。
問診と身体検査
医師は、患者の症状や既往歴を詳しく聞き取り、イレウスが疑われるかどうかを判断します。特に、腹部手術の既往や腸疾患の歴史がある場合、リスクが高いとされます。身体検査では、腹部の膨満感や腸の音を確認し、腸が正常に動いているかどうかを評価します。
X線検査
X線検査は、腸の状態を確認するための基本的な検査です。腸内に溜まったガスや液体が写り、腸の閉塞が確認されることがあります。
CTスキャン
CTスキャンは、イレウスの原因を特定するために有効な検査です。腸の状態や閉塞の場所、腫瘍や癒着の有無を詳しく確認することができ、手術の必要性を判断するのに役立ちます。
超音波検査
超音波検査は、腸の動きや内部の状態を評価するために用いられることがあります。特に、腸捻転やヘルニアの検出に役立つことがあります。
血液検査
血液検査では、感染症の有無や電解質異常、脱水状態を確認します。イレウスが進行している場合、炎症マーカーが上昇したり、腎機能が低下することがあります。
イレウスの治療
イレウスの治療は、原因や症状の重さによって異なります。軽度のイレウスの場合、保存的治療で改善することがありますが、重度の場合は手術が必要になることもあります。
保存的治療
軽度のイレウスや麻痺性イレウスの場合、まずは保存的治療が行われます。
これには、以下の方法が含まれます。
- 絶食と点滴
腸の負担を軽減するために、絶食が行われ、点滴によって栄養や水分を補給します。腸の運動が再開し、閉塞が解消されるまで、食べ物や飲み物の摂取を避けることが重要です。 - 鼻胃チューブ
腸内に溜まったガスや消化液を排出するために、鼻から胃までチューブを挿入することがあります。これにより、腹部の膨満感や嘔吐を軽減することができます。 - 電解質の補正
イレウスでは、嘔吐を繰り返しており、電解質異常を認める事があり、血液中の電解質バランスを調整するために点滴や薬物治療が行われることがあります。
手術療法
機械的イレウスや重度の麻痺性イレウスの場合、手術が必要になることがあります。
特に、腫瘍や腸捻転、癒着などが原因で腸が閉塞している場合、これらを取り除くための外科的処置が行われます。
- 腸の除去や修復
腫瘍や壊死した腸の部分を切除し、健康な部分をつなぎ直す手術が行われることがあります。これにより、腸の通過が回復し、正常な消化が再開されます。 - ヘルニアの修復
ヘルニアが原因でイレウスが発生している場合、ヘルニアの修復手術が行われます。腸が圧迫されている部分を解放し、再発を防ぐために補強材を使用することもあります。
イレウスになりやすい人・予防の方法
イレウスになりやすい人
イレウスは、特定の要因を持つ人が発症しやすいとされています。以下のような人々は、特にリスクが高くなります。
- 腹部手術の既往がある人：
手術後の癒着が原因で、機械的イレウスを引き起こしやすくなります。 - 消化器系のがんがある人：
腸や周辺組織に腫瘍ができると、腸が圧迫され、イレウスが発生するリスクが高まります - 高齢者：
加齢に伴い、腸の運動が低下するため、麻痺性イレウスのリスクが高まります。 - 神経疾患を抱えている人：
パーキンソン病などの神経疾患があると、腸の運動が阻害され、麻痺性イレウスが発生しやすくなります。
予防の方法
イレウスを予防するためには、以下の対策が有効です。
- 消化の良い食事：
消化の良い食べ物を選び、便秘を防ぐために十分な水分と食物繊維を摂取しましょう。これにより、腸の詰まりを予防できます。 - 早期の医師の診察：
消化の良い食べ物を選び、便秘を防ぐために十分な水分と食物繊維を摂取しましょう。これにより、腸の詰まりを予防できます。 - 早期の医師の診察：
腹部に異常を感じた場合は、早めに医師に相談することが大切です。特に、手術後や神経疾患を持つ人は、定期的な検査や診察を受けることで、イレウスの早期発見が可能です。
イレウスは、早期発見と適切な治療が重要です。腹部に異常を感じた場合や、食後に不快感が続く場合は、すぐに医療機関での診察を受けるようにしましょう。
