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五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

食道裂孔ヘルニアの概要

食道裂孔ヘルニアとは、横隔膜の下に位置するべき胃の一部が、横隔膜の裂孔から上部にはみ出した状態です。 人体の胸腔と腹腔は横隔膜によって隔てられており、口腔からつながる食道は横隔膜の裂孔を通って胃に至ります。 食道裂孔ヘルニアで胃が上部にはみ出しただけでは大きな問題は起こりませんが、胃酸の逆流が起こりやすくなり、逆流性食道炎や胃食道逆流症などの症状がでてくると治療が必要になります。 食道裂孔ヘルニアは、はみ出す形によって以下の3つに分類されます。
  • 滑脱型:胃と食道の境界が上部にずれる
  • 傍食道型:胃と食道の境界はそのままで胃の一部が上部にはみ出す
  • 混合型:滑脱型と傍食道型の両方の症状がある
なかでも滑脱型の患者さんが多く、胃と食道の境界(噴門)が食道裂孔とずれているため、噴門が閉まらず逆流しやすくなります。

食道裂孔ヘルニアの原因

食道裂孔ヘルニアの原因は、腹圧の慢性的な上昇によるものがほとんどです。腹腔内の圧力が高まって内臓が圧迫され、胃が上部に押し出されて裂孔からはみ出てしまいます。 腹圧が慢性的に上昇する主な原因は、以下の3つです。
  • 肥満
  • 姿勢の悪化
  • 咳を伴う疾患
  • 喫煙
  • 妊娠や出産
それぞれの内容を解説します。

肥満

肥満は食道裂孔ヘルニアの明確なリスク因子であり、肥満者の増加に伴って食道裂孔ヘルニアの患者さんも増加する傾向があります。内臓脂肪によって胃が圧迫され、上部に押し出されていくのが原因です。また、肥満の方は満腹になるまで食べ過ぎる傾向が強く、胃酸逆流を起こしやすくなります。

姿勢の悪化

骨粗しょう症などで背中が曲がり、慢性的に胃が圧迫された状態が続くと食道裂孔ヘルニアが起こりやすくなります。このため、食道裂孔ヘルニアは中高年の女性に多い疾患です。骨粗しょう症がなくても、デスクワークなどで前かがみの状態が続くと、食道裂孔ヘルニアのリスクが高まります。

咳を伴う疾患

咳やくしゃみをすると、瞬間的に腹圧が高まります。喘息や気管支炎など咳を伴う疾患が長く続くことも、食道裂孔ヘルニアとなる原因の一つです。逆流性食道炎などで胸やのどの痛みがある場合、気管支炎と症状が似ており、鑑別診断が必要な場合もあります。

喫煙

喫煙は、食道裂孔ヘルニアを引き起こすリスクです。タバコに含まれるニコチンによって、下部食道括約筋が弛緩され、胃酸の逆流を促してしまいます。喫煙によって引き起こされる慢性的な咳も、腹圧が高まり、ヘルニアを発生させる要因となります。

妊娠や出産

妊娠中は子宮が大きくなるため、腹腔内の圧力が増してしまいます。この圧力の増加によって、食道裂孔周辺の組織に負担がかかり、ヘルニアの発生を促進します。出産時に起きる強い圧力も、食道裂孔ヘルニアを引き起こす原因です。

食道裂孔ヘルニアの前兆や初期症状について

食道裂孔ヘルニアがあるだけでは、特に自覚症状はなく、治療の必要もありません。しかし、食道裂孔ヘルニアによって逆流性食道炎や胃食道逆流症などの症状がある場合には、治療が必要になります。 以下のような症状があれば、消化器内科を受診しましょう。
  • 胸焼け
  • 呑酸
  • 飲み込みにくい
それぞれの内容を解説します。

胸焼け

胃酸はpH1〜2の強酸性であるため、胃粘膜で保護されていない食道に逆流してくると、強い痛みや不快感を生じます。胃酸の逆流によって食道に炎症が起こる病気を逆流性食道炎といい、炎症が認められなくても不快症状がある場合は胃食道逆流症といいます。

呑酸

呑酸(どんさん)とは、口のなかに酸っぱいものが上がってくる感覚で、胃酸の逆流による症状です。食後すぐに横になったり、食べすぎたりすると呑酸を感じやすく、吐き気を伴う場合もあります。慢性的になると、胃酸によって歯が溶かされてむし歯のリスクが高まります。

飲み込みにくい

胃酸の逆流によって食道の炎症が悪化したり、食道裂孔ヘルニアが悪化したりすると、食道の動きが鈍って食べ物を飲み込みにくくなります。食後の胸焼けなどの不快症状と合わせて食欲不振を招き、体重減少や栄養不良などを起こす方も少なくありません。

食道裂孔ヘルニアの検査・診断

食道裂孔ヘルニア自体に自覚症状はほとんどありませんが、食道裂孔ヘルニアに伴う逆流性食道炎や胃食道逆流症の症状で受診される方がほとんどです。食道裂孔ヘルニアが疑われる場合には、以下のような検査で診断を確定します。
  • 内視鏡検査
  • 造影検査
それぞれの内容を解説します。

内視鏡検査

食道裂孔ヘルニアが疑われる場合には、口から内視鏡を挿入する上部内視鏡検査を行います。いわゆる胃カメラ検査で、お口から挿入するのが一般的ですが、不快感を軽減するために鼻から挿入するタイプもあります。内視鏡検査では、食道の炎症の程度や、横隔膜と胃食道の境界のずれなどを確認します。ポリープなどの病変が発見された場合は、その場で切除も可能です。

上部消化管造影検査

上部消化管造影検査とは、造影剤を飲んで食道から胃に広がっていくところをX線で撮影する検査です。胃の形状や動き方を詳しく確認して、食道裂孔ヘルニアの程度や形状と、逆流の具合を評価します。

食道裂孔ヘルニアの治療

食道裂孔ヘルニアがあるだけで自覚症状がない場合は、特別な治療はせずに経過観察となることがほとんどです。しかし、食道裂孔ヘルニアは逆流性食道炎などを起こしやすいため、不快な症状がある場合には治療を行います。食道裂孔ヘルニアの主な治療は、以下の2つです。
  • 薬物療法
  • 外科療法
それぞれの内容を解説します。

薬物療法

薬物療法では、胃酸を抑える制酸薬によって胃酸の量を減らす治療が基本です。制酸薬にはプロトンポン阻害薬(PPI)とヒスタミン受容体拮抗薬の2種類があり、症例に応じて使い分けたり、組み合わせたりして適切な薬剤を選択します。薬物療法を8週間続けても症状が改善しない場合、PPI抵抗性胃食道逆流症の可能性があるため、より詳しい検査や手術を検討します。

外科療法

薬物療法で症状が改善しない場合や、食道裂孔ヘルニアが悪化してほかの臓器を圧迫する場合には手術などの外科療法を検討します。食道裂孔から飛び出した胃を下部に引き戻し、食道裂孔を縫い合わせるか、メッシュシートなどで補強します。また、胃酸の逆流を防ぐために、食道の周りに胃を巻き付けるなどの施術も有効です。内視鏡のみで手術を行える場合もあるため、担当の医師とよく相談してください。

食道裂孔ヘルニアになりやすい人・予防の方法

食道裂孔ヘルニアは慢性的な腹圧上昇によって起こりやすいため、腹圧の上昇や胃酸の逆流を防ぐ生活習慣が予防に役立ちます。慢性的な腹圧上昇を防ぐためには、以下の3点を心がけましょう。
  • 肥満の場合は減量する
  • 前かがみの姿勢を続けない
  • 食べ過ぎや食事内容に気をつける
それぞれの内容を解説します。

肥満の場合は減量する

肥満による腹圧の上昇は、食道裂孔ヘルニアの大きなリスクとなります。特に内臓脂肪型の肥満は胃を圧迫しやすく、ほかの生活習慣の原因にもなるため、減量を心がけましょう。運動によって姿勢を維持する筋力を鍛えれば、前かがみによる腹圧上昇も合わせて予防できます。

前かがみの姿勢を続けない

背中を丸めて前かがみになると、胃が圧迫されて腹圧が上昇します。デスクワークの方は、机の高さを上げたりPC画面の高さを上げたりして、前かがみにならないように気をつけましょう。また、定期的に立ち上がって背中を伸ばすのも、腹圧を下げるためには有効です。

寝る前の食事は避ける

食後すぐに横になると、胃の内容物が食道側にも流れるため、食道裂孔ヘルニアを起こす圧力がかかりやすくなります。胃酸の逆流も起こりやすいため、寝る前の食事は避けましょう。脂肪の消化には大量の胃酸が分泌されるため、油分の豊富な食事をした後には特に注意が必要です。胃が大きく膨れるまで食べすぎることも、避けた方が無難です。

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