

監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
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1991年兵庫医科大学卒業。医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター所属。米国内科学会上席会員 日本内科学会総合内科専門医。日本消化器内視鏡学会学術評議員・指導医・専門医。日本消化器病学会本部評議員・指導医・専門医。
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大腸がんの概要
大腸は消化管の最終部分であり、盲腸・上行結腸・横行結腸・S状結腸・直腸とつながっており、水分やミネラルの吸収・便の形成と排泄において重要な役割を果たしています。近年、大腸がんの発症は、食生活の欧米化の影響で増加している傾向です。 このがんは進行がやや遅く、早期に手術などの適切な治療を受けることで治癒が期待されますが、進行すると根治が難しく命に関わるリスクもあります。 大腸がんは進行するまで症状が現れないことがあるため、大腸がん検診の受診が極めて重要です。大腸がんの原因
食生活の欧米化は大腸がんの発症に関与しているとされています。欧米化した食生活とは、具体的に肉食・高脂肪・高蛋白・低繊維食などです。 さらに、肥満・喫煙・運動不足なども発症リスクを高めます。 一部の大腸がんは同じ家族内で頻繁に発生することがあり、これを遺伝性大腸がんと呼びます。 遺伝性大腸がんは大腸がんの約5%を占めており、これらの患者さんは異常な遺伝子を親から受け継いだために、がんが大腸に発生しやすくなっている状態です。 さらに、大腸がんの少なくとも4分の1程度は、複数の遺伝的要因の影響を受けているとされています。大腸がんの前兆や初期症状について
早期の段階では自覚症状がほとんどなく、便検査の便潜血反応において陽性となることや、大腸内視鏡で発見されることがあります。 初期症状としては便に血が混じったり、便の表面に血液が付着したりすることがあります。また、病気が進行すると、以下のような代表的な症状が現れることがあり注意が必要です。- 血の混じった便や黒い便
- 便秘・下痢
- 細い便
- 腹部の痛み・ハリ・しこり
- 食欲不振・体重の減少
- 貧血症状(だるさ・息切れ・動悸・顔色が悪い)
大腸がんの検査・診断
問診の結果、大腸がんが疑われる場合、内視鏡検査(大腸カメラ)が必要です。 ポリープや腫瘍が見つかれば、生検で組織の一部を採取し、顕微鏡でがん細胞の有無や種類を病理検査します。 その後血液検査や画像検査(CT・MRI・PETなど)が行われ、がんの深さや広がりを評価し、最終的にがんの進行度を判定します。進行度
大腸がん治療の基本は、がん細胞を残さずに完全に切除することです。ただし肛門に近い直腸がんの場合は、肛門の温存がその後の生活に大きな影響を与えるため、過剰な切除に注意して手術を行います。しかし、手術範囲が狭すぎると再発のリスクが高まります。したがって、適切な切除範囲を見極めることが重要です。大腸がんの診断後は、がんの進行度を決定するために複数の検査が必要です。治療法は、がんの進行状態や発生場所によって異なります。大腸がんには、0期からIV期までのステージ(病期)があります。- ステージ0期:粘膜内に限局している段階
- ステージI期:粘膜下層あるいは固有筋層に侵潤しているが、リンパ節転移がない段階
- ステージII期:固有筋層を越えて侵入しているが、リンパ節転移がない段階
- ステージIII期:リンパ節に転移している段階
- ステージIV期:肝臓や肺などに遠隔転移や腹膜播種を伴っている段階
大腸がんの治療
大腸がんは、腸の内側の粘膜から始まり、徐々に深部に広がります。早期がん(ステージ0)ではがんが粘膜内に留まっているため、リンパ節転移のリスクは低く、内視鏡を使用して大腸の内側から切除するのが一般的です。肛門に近い直腸がんに対しては、肛門から直接がんを見ながら切除することも可能です。顕微鏡検査でがんが完全に取り除かれていれば、それで根治したとみなされます。手術
外科的治療法として行われるのは、腹腔鏡下大腸切除術・ロボット手術・開腹術です。腹腔鏡下大腸切除術は、腹部に4〜5か所の小さな穴を開けてカメラや鉗子を挿入し、腹腔鏡のテレビ画像を見ながら手術を行います。この手術法は開腹術に比べて創のサイズが小さく、患者さんの術後の痛みが少なく、回復が早いことが特長です。ロボット手術は、従来直腸がんのみの適応でしたが、2022年4月から結腸がんに対する適応も拡大され、すべての大腸がんの患者さんが保険適用でロボット手術を受けられるようになりました。ロボット手術の利点は、従来の腹腔鏡手術では限られていた手術器具の可動域が大幅に拡大し、鮮明な3D画像を見ながら手術が行えることです。また、手振れ防止や縮尺機能により、より正確に実施できます。開腹術は病変の部位と切除範囲に応じて開腹創の位置を決める、昔からある手術方法です。がんが流出していくリンパ節を一緒に切除し、その後に腸を再吻合します。吻合方法は、病変の位置によって器械吻合と手縫い吻合を使い分けます。手術中に腹腔内を触診することで、微妙な腹膜播種を見つけられるのは開腹術の大きな利点です。手術時間は通常2〜3時間程度です。ある程度大きく開腹する必要があるため患者さんへの負担がかかりやすいのがデメリットではありますが、一般的に翌日からは歩行できるようになります。化学療法・放射線療法
進行した大腸がんに対する治療では、適切な化学療法を選択します。大腸がんの化学療法は、進行再発大腸がんに対する化学療法と、大腸がん切除術後の補助化学療法です。投与方法としては、経口内服薬と点滴(注射薬)によるものがあります。化学療法の種類によっては、内服と点滴を組み合わせたものもあります。また直腸がんに関しては、治療により排便機能などの日常生活に影響が出る可能性があるため、放射線療法も含めた複数の治療を組み合わせることも検討が必要です。 これらの治療法を単独、あるいは組み合わせて患者さんに提供することで、よりよい大腸がんの治療を行います。人工肛門(ストーマ)
人工肛門は手術によって腸管の一部を腹壁に取り出し、皮膚の上に固定する人工の排泄出口です。自然な肛門と異なり排泄を自分の意思では制御できないため、常時管理が必要です。管理方法は、専用の袋(パウチ)を装着して排泄物を受け止め、必要に応じてトイレに流します。人工肛門は永続的なものと、将来的に手術で閉鎖可能な一時的なものがあります。大腸がんになりやすい人・予防の方法
食生活の欧米化が、大腸がんの原因に関与していると考えられています。具体的には、肉食・高脂肪・高蛋白・低繊維食などがその一例です。 また、肥満・喫煙・運動不足なども大腸がんのリスクを増加させる傾向があります。 大腸がんの予防には、偏食を避け、動物性の高脂肪食に頼らないことが大切です。 一日に20〜25g以上の食物繊維を摂取することや、ビタミンA・C・Eを摂取することが推奨されています。 これにより、発がん物質の作用を抑え、バランスの取れた食事と規則的な排便習慣につながります。 大腸がんは早期には自覚症状がほとんどありません。したがって、定期的な検診を受け、がんを早期に発見・治療することを心がけましょう。参考文献




