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医学博士。日本ペインクリニック学会専門医、日本麻酔科学会専門医・指導医。研究分野は、整形外科疾患の痛みに関する予防器具の開発・監修、産業医学とメンタルヘルス、痛みに関する診療全般。
クローン病の概要
クローン病は、特に大腸と小腸に病変を形成する、慢性的な炎症を引き起こす
慢性炎症性腸疾患の一つです。ただし、消化管のどの部分にも病変を形成する可能性があり、症状は人によって異なり、重症度や経過もさまざまです。一般的な症状としては、腹痛、下痢、体重減少、疲労感、栄養不良などが挙げられます。
クローン病の原因
クローン病の原因はまだ明らかになっていませんが、以下の要因が関与していると考えられています。
遺伝的要因
クローン病は遺伝病ではありませんが、家族内での発症がみられることがあり、体質のような
遺伝的素因と
環境因子などが複雑に絡み合って発症する、と考えられています。
免疫システムの異常
通常は、免疫細胞が自分の組織を攻撃することはありませんが、クローン病では免疫システムが自己の消化管を攻撃することが一因とされています。この異常な免疫反応が続くことで、持続的な炎症を引き起こし、それがさまざまな症状につながっています。
環境要因
食事、喫煙、抗生物質の使用などがクローン病の発症リスクを増加させることがあるとされています。特に、
西洋型の食事(高脂肪・高糖質)と関連している可能性があります。
腸内細菌のバランスの乱れ
腸内細菌のバランスの崩れが免疫システムの異常反応の原因となり、炎症を引き起こしている可能性も言われています。
クローン病の前兆や初期症状について
発熱
持続的な微熱が続くことがあります。
クローン病に特徴的な症状はありませんが、初期症状として以下のようなものが出現することがあり、多様な症状が認められます。
腹痛
特に下腹部の痛みが多く、食事後に悪化することがあります。
慢性的な下痢
水様性の下痢が続くことがあります。時には血便が見られることもあります。
体重減少・栄養不良
下痢による消化吸収不良や慢性的な炎症により体重が減少します。下痢や食欲不振により、ビタミンやミネラルの不足が生じます。特にビタミンB12、鉄、カルシウム、ビタミンDの不足が問題となります。
疲労感
全身の倦怠感や疲労感が強くなることがあります。
口内炎
口腔内に小さな潰瘍や浅い潰瘍ができることがあります。
クローン病の合併症
クローン病は、消化管だけでなく、ほかの臓器や全身に影響を及ぼすことがあります。以下は主要な合併症です。
膿瘍
炎症によって腸の壁に膿が溜まります。腹痛や発熱を伴うこともあります。
腸管狭窄
炎症により腸管が狭くなり、食べ物や糞便の通過が困難になります。これにより腹痛や腸閉塞を引き起こします。
瘻孔(ろうこう)
炎症が長く続くことによって、腸管と腸管の間や腸管とほかの臓器(膀胱、皮膚、膣など)との間に異常な通路(あな)ができます。特に肛門部に生じた場合は痔瘻と呼ばれます。
腸管穿孔
長期間の炎症により腸管の壁に穴が開くことがあり、腹膜炎などの重篤な感染症を引き起こす可能性があります。
肝胆道系の合併症
原発性硬化性胆管炎や脂肪肝、肝硬変などの肝・胆道系の疾患を発症することがあります。
関節炎
関節の痛みや腫れを引き起こすことがあります。
皮膚疾患
痛みのある紅斑や潰瘍、皮下結節などの皮膚炎症状が見られることがあります。
眼疾患
ぶどう膜炎や虹彩炎などの眼の炎症を伴うこともあります。
クローン病の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、消化器内科です。クローン病は消化管の慢性炎症性疾患であり、消化器内科で診断と治療が行われています。
クローン病の検査・診断
クローン病の診断には、複数の検査が必要です。以下に一般的な検査方法を示します。これらの検査結果を総合的に判断し、ほかの疾患(潰瘍性大腸炎、感染症など)を除外した上で診断が行われます。
血液検査
炎症マーカー(CRPやESR)の上昇や貧血の有無を確認します。
便検査
潜血や感染症の有無を確認します。また、炎症の指標となる便中カルプロテクチン(腸管に炎症を引き起こす好中球の細胞質の主要成分)を測定することもあります。
内視鏡検査
大腸や小腸の粘膜の状態を、大腸内視鏡検査やカプセル内視鏡で確認します。直接観察することで、炎症や潰瘍の状態を把握します。
組織検査
内視鏡検査時に採取した大腸粘膜の組織を一部採取し、顕微鏡で調べて炎症のタイプや程度を確認します。
<診断基準> (厚生労働省 難治性疾患政策研究班)
(1)主要所見
A.縦走潰瘍
B.敷石像
C.非乾酪性類上皮細胞肉芽腫
(2)副所見
a.消化管の広範囲に認める不整形~類円形潰瘍またはアフタ
b.特徴的な肛門病変(裂肛、深ぼれ潰瘍cavitating ulcer、痔瘻、肛門周囲膿瘍、浮腫状皮垂など)
c.特徴的な胃・十二指腸病変(竹の節状外観、ノッチ様陥凹など)
診断のカテゴリー
Definite(確診例)
[1]主要所見のAまたはBを有するもの。
[2]主要所見のCと副所見のaまたはbを有するもの。
[3]副所見のa、b、c全てを有するもの。
Probable(疑診例)
[1]主要所見のCと副所見のcを有するもの。
[2]主要所見AまたはBを有するが潰瘍性大腸炎や腸型ベーチェット病、単純性潰瘍、虚血性腸病変、腸結核などの感染性腸炎と鑑別できないもの。
[3]主要所見のCのみを有するもの。
[4]副所見のいずれか2つまたは1つのみを有するもの。
クローン病の治療
クローン病治療の目標は、治療開始による症状の軽減とその後の寛解維持です。寛解とは、一時的あるいは永続的に、病気がほとんどない、または消失している状態のことですが、寛解となっても、何らかのきっかけで炎症が再び起こったり、症状が強くなったりする可能性があります。そのため、治療の際は症状の軽減と炎症のコントロールが目的となり、寛解となっても注意深い観察が必要です。具体的には以下のような治療法があります。
薬物療法
抗炎症薬
サラゾスルファピリジンやメサラジンなどの5-ASA薬が使われます。また、急性期の炎症を抑えるためにプレドニゾロンなども使用されます。
免疫抑制剤
アザチオプリンやメルカプトプリン、メトトレキサートなどが使用されます。
生物学的製剤
インフリキシマブやアダリムマブなどの抗TNFα抗体薬が効果を示します。また、抗インテグリン抗体(ベドリズマブ:炎症細胞の腸への移動を阻害することで、炎症を抑える)や抗インターロイキン抗体(ウステキヌマブ: インターロイキン-12とインターロイキン-23を阻害すること)が用いられることもあります。
栄養療法
特定の栄養素を補給したり、低残渣食などを用いたりして、消化管の負担を軽減します。
外科的治療
クローン病そのものは薬剤で治療を行う内科的疾患ですが、炎症の持続によりさまざまな合併症を来すため、患者さんの約70%が一生のうちに外科手術を必要とすると言われています。以下に一般的な外科的治療法と対象となる合併症を挙げます。
狭窄形成術
狭窄部分を広げるために行う手術です。腸の一部を切除せずに済む場合があります。
腸切除術
重度の炎症や狭窄、瘻孔、膿瘍がある場合に、障害を受けた腸の一部を切除します。再発のリスクもあるため、必要最小限の範囲で行われます。
瘻孔や膿瘍の治療
瘻孔の閉鎖や膿瘍の排膿などが行われます。
生活習慣の改善
禁煙やストレスの管理、適切な食事管理が重要です。
クローン病になりやすい人・予防の方法
クローン病の発症リスクが高い人には以下の特徴があります。
家族歴
クローン病の家族歴がある場合、リスクが高まります。
喫煙者
喫煙はクローン病のリスクを増加させます。
都市部に居住
都市部に住んでいる場合は、農村部に住んでいるよりもリスクが高いとされています。
予防のためには以下の点に注意が必要です。
禁煙
喫煙はクローン病の発症リスクを増加させ、症状の悪化にもつながるため、禁煙が推奨されます。
健康的な食事
高脂肪・高糖質の食事を避け、バランスの取れた食事を心がけることが重要です。
ストレス管理
ストレスはクローン病の症状を悪化させることがあるため、適切なストレス管理が必要です。