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本多 洋介

監修医師
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)

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群馬大学医学部卒業。その後、伊勢崎市民病院、群馬県立心臓血管センター、済生会横浜市東部病院で循環器内科医として経験を積む。現在は「Myクリニック本多内科医院」院長。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会専門医。

腸閉塞・イレウスの概要

腸閉塞・イレウスは、何らかの原因により、腸管内で食べ物や消化液などの内容物が停滞し、肛門側への移動が障害された状態のことを指します。腸閉塞とイレウスは同じような病態を指しますが実際には区別されることもある疾患です。簡単に説明すると、腸管の動きが悪くなって起こるものをイレウスといい、それ以外の病態による通過障害は腸閉塞と呼ばれます。しかし、実際の医療現場ではこの2つの言葉をほぼ同じ意味で使用しています。 腸閉塞となった場合、腸管の拡張と吸収抑制がおこります。それにより脱水、腸管血流障害、腸内細菌の異常増殖などを引き起こします。治療をおこなわず放置してしまった場合は多臓器不全、敗血症性ショックとなり最悪の場合死に至ることもあるため、早期診断・治療が重要となります。

腸閉塞・イレウスの原因

腸閉塞・イレウスの原因は多岐にわたりますが、原因によって大きく機械的閉塞と機能的閉塞に分けられます。また、機械的閉塞のうち、血行障害を伴わないものを単純性腸閉塞、血行を伴うものを複雑性腸閉塞あるいは絞扼性腸閉塞と呼びます。

機械的閉塞

何らかの要因によって通過障害を起こす病態です。下記のようなさまざまな原因によって引き起こされます。

癒着

腸閉塞の最も多い原因であり、半数以上の原因となります。過去の手術や感染により腸管が周囲の組織と癒着し、折れ曲がったり、引っ張られたりすることで腸管が細くなり閉塞を引き起こします。複数回の手術をおこなっている場合や、過去に腸閉塞となったことがある場合は発生のリスクが高くなります。

腫瘍

大きくなった腸管内の腫瘍(がん)やポリープが原因で腸管をふさぎ通過障害を引き起こします。

腸の狭窄

腸管の炎症を繰り返し起こすことで腸管が細く、固くなってしまい、通過障害を引き起こします。特にクローン病が原因となることが多い傾向です。

食餌(しょくじ)

消化に悪い食べ物がかたまりとなって腸管内に詰まってしまうことで通過障害を引き起こします。原因として最も多いものはですが、ほかにもきのこ、麺類(うどん、パスタなど)、糸こんにゃく、ごぼうなどの繊維質の多い野菜、などが原因となります。

ヘルニア

腹壁や鼠径部のヘルニアによって腸管が圧迫されることで通過障害を引き起こします。時に嵌頓(かんとん)を起こして腸管血流障害を引き起こすため注意が必要です。

絞扼性腸閉塞

腸管がねじれる、結ばれるなどの現象が起こることで通過障害を引き起こします。この場合は高率で血流障害を起こしていることが多く危険な状態となります。

機能的閉塞

腸管が閉塞することなく、動きが弱くなることで通過障害を引き起こす病態です。

腸管麻痺

腹部の手術後や外傷、炎症、薬剤などによって一時的に腸管の動きが止まってしまい通過障害を引き起こします。麻痺性イレウスと呼ばれることが多い傾向です。

痙攣

腹部打撲や精神疾患などが原因で腸管の運動が異常に亢進し痙攣することで通過障害を引き起こします。

腸閉塞・イレウスの前兆や初期症状について

腸閉塞・イレウスでは一般的に次のような初期症状が見られます。

嘔気・嘔吐

腸管内に胃液や腸液、食べ物が貯留してしまいます。胃内にも貯留が広がってくるため、嘔気や頻回の嘔吐が発生します。

排ガス、排便の停止

腸の動き(蠕動)が弱くなったり、内容物の通過がとまったりしてしまうため、排ガスや排便が止まります。

腹部膨満感

腸管内に貯留した消化液や食べ物によって腹部の張りを感じるようになります。

腹痛

腹部の張りとともに弱い腹痛がみられる場合があります。ただし、腸管の血流障害を伴っている場合は急激に発症し悪化する腹部の激痛となります。

腸閉塞の前兆や初期症状が見られた場合に受診すべき診療科は、消化器内科、消化器外科です。腸閉塞は腸が詰まる疾患であり、消化器内科や消化器外科で診断と治療が行われています。

腸閉塞・イレウスの検査・診断

症状や経過から腸閉塞・イレウスを疑う場合は以下のような検査を施行し、診断をおこないます。

身体所見

腹部の診察では腹部膨満(張り)や鼓腸といった所見がみられます。また、聴診では金属音と呼ばれる特徴的な蠕動音を聴取することができます。また、血流障害を併発している場合には筋性防御(腹部を軽く圧迫したときに腹壁が緊張して硬くなる)や反跳痛(腹部を徐々に圧迫した後、圧迫を解除すると痛みを感じる)といった腹膜刺激症状を認める場合があります。

腹部超音波検査

診察室で簡便におこなうことができる検査になります。腸管の拡張や、内部の腸液の停滞を確認することで腸閉塞を疑います。

腹部レントゲン検査

腸管の拡張と特徴的な鏡面像(niveau:二ボー、拡張した腸管内にガスと腸液がたまり、その境界が水平に映し出されたもの)によって診断をします。レントゲンは簡便で被曝量も少なく診断ができるものの、閉塞部位や閉塞の原因を見つけることはできません。

腹部CT検査

レントゲン検査で腸閉塞をより疑った場合には腹部CT検査を行います。腹部CT検査は腸閉塞の診断に最も有効な検査となります。腸管の拡張や閉塞部位だけでなく、腸閉塞の原因の特定も可能です。また、造影剤を用いることで、腸管血流の評価も同時におこなうことができます。

血液検査

炎症や感染の有無、電解質異常などを確認します。腸閉塞では症状の進行に伴い脱水兆候を示すことが多くなります。

腸閉塞・イレウスの治療

腸閉塞・イレウスの治療は大きく分けて保存治療と手術療法の2つに分けることができます。

保存治療

腸閉塞のなかでも軽度のものに対しては手術をすることなくまずは入院で治療をおこないます。

絶飲食

腸管が閉塞しているため飲食は症状の悪化につながります。そのため治療中は水分や食事をとることが禁止されます。

点滴

水分や食事がとれない分を点滴で補充します。同時に、腸管の運動を刺激する薬を併用することがあります。

抗生剤

感染が原因の場合や、採血にて炎症が発生していると判断した場合は抗生剤を投与します。

経鼻胃管

胃や腸に溜まっている内容物を取り除くため、鼻から胃内に管を入れて内容物を吸引します。

イレウス管

経鼻胃管で内容物の除去が不十分であった場合や、治療に応答が見られない場合に使用します。3m程度の長い管を鼻から腸内に入れて内容物を吸引します。大腸がんによって腸閉塞が起きている場合には肛門からイレウス管を挿入することもあります。

手術療法

絞扼性腸閉塞と診断された場合は腸管壊死が疑われるため、緊急手術の適応となり、すみやかな外科手術が必要となります。また、保存治療をおこなったにもかかわらず改善を認めない場合にも、治療目的のために手術をおこなうことがあります。 腸管の拡張が軽度であった場合には腹腔鏡下手術を選択する場合もありますが、多くの患者さんでは開腹手術となります。手術では原因の除去を目的としますが、時に腸管を切除してつなぎ合わせる必要があります。また、大腸癌などの腫瘍が原因の場合や、全身状態が悪い場合は人工肛門を作成することがあります。

腸閉塞・イレウスになりやすい人・予防の方法

腹部手術を受けたことがある人は腸閉塞・イレウスになりやすいです。とくに、がんの手術をした患者さんや複数回の手術を受けた患者さんは癒着性腸閉塞になりやすいことがわかっています。 腸閉塞にはさまざまな原因があるため、生活習慣などで予防することは困難となります。しかし、「十分な水分を摂取する」「消化に悪いものや食物繊維の過剰摂取を避ける」「適度な運動などで良好な便通を維持する」などを意識することは腸閉塞の予防につながる可能性があります。特に一度腸閉塞になったことのある患者さんは、再度腸閉塞となるリスクがありますので、これらをより一層意識することが大切です。

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参考文献

  • 1)急性腹症ガイドライン2015
  • 2)医学書院 専門医のための消化器病学 第3版

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