

監修医師:
小坂 泰二郎(医師)
順天堂大学附属順天堂医院 卒業 (同大学で学位取得)/ 現在は佐久総合病院、佐久医療センター勤務 / 専門は乳腺外科、手術および薬物治療に従事 / 前職場であった愛媛県四国中央市HITO病院で外来業務に従事している
【資格】
日本乳癌学会 専門医
日本臨床腫瘍学会 専門医・指導医
ASUISHI 2期修了
葉状腫瘍の概要
葉状腫瘍は乳房に発生する腫瘍の1つです。比較的まれな疾患であり、乳房にできる腫瘍全体に占める割合では、1%未満とされています。
葉状腫瘍では、乳房に円形~楕円形の腫瘍ができます。この腫瘍はしこりとして触れることができ、触ると動きます。初期では直径2~3センチ程の大きさですが、比較的成長が早いのが特徴で、数か月で直径10センチを超えるようなケースも報告されています。
初期症状としては良性の「乳房線維腺腫」とも類似しています。しかし、乳房線維腺腫が10代後半から30代の女性に見られやすいのに対し、葉状腫瘍はそれよりもやや高齢となる、30代から50代にかけて好発します。葉状腫瘍では痛みなどの自覚症状を伴わないことが多いため、しこりに気がつかなかった場合は、乳房の「変形」を自覚して発見されるか、あるいは乳がん検診の際などに発見されることがあります。
葉状腫瘍の多くは「良性」であり、転移などの心配はほとんどなく、摘出(切除)手術などにより治療ができます。ただし、一部では転移や再発の可能性があり、治療の難しい「境界病変」あるいは「悪性」の病態も存在します。したがって、治療時はまず正確な鑑別が重要です。また、再発により悪性度が高まる例も知られており、慎重な経過観察の求められる疾患です。
葉状腫瘍の原因や発症メカニズムは不明な部分も多いため、今後の研究で明らかになることが期待されます。
葉状腫瘍の早期発見には、セルフチェックと定期的な検診が有効です。乳がん検診も葉状腫瘍の早期発見につながります。
とくに40歳以上の女性では乳がん発症のリスクが高まるため、2年に1度を目安としてマンモグラフィ検査による乳がん検診をおすすめします。

葉状腫瘍の原因
葉状腫瘍の原因は現時点ではっきりとはわかっていません。腫瘍の発生や増殖には、遺伝子変異や女性ホルモンの関与が指摘されています。
乳房は乳腺組織や結合組織、脂肪組織などからなり、一般的な乳がんは乳腺組織を構成する「上皮細胞のがん化」により発症します。
一方、葉状腫瘍は結合組織を由来とするため、一般的な乳がんとは区別され、かつては「肉腫」に分類されたこともありました。葉状腫瘍の悪性度が高い場合は、がんのように他の臓器などに転移することが知られています。
葉状腫瘍の前兆や初期症状について
葉状腫瘍では、初期では乳房に数センチ大のしこり(腫瘤)を認めます。しこりは周囲との境界がはっきりしており、触ると動きます。痛みや腫れなどの症状はみられないことも多く、初期では気づかれにくいです。
一方、比較的急速に拡大する特徴を持つため、やがてはしこりの増大、あるいは乳房の左右のバランスが崩れるなどの見た目の変化によって、気づかれるケースがあります。
また、まれではあるものの、「境界病変」や「悪性」の病態であった場合は、皮膚表面の潰瘍形成や出血などが見られることもあり、他の臓器への転移のリスクがあります。
葉状腫瘍の検査・診断
葉状腫瘍の診断では、主に視診や触診、血液検査、画像検査(マンモグラフィ検査、超音波検査、MRI検査、CT検査など)、病理検査が選択されます。乳房にできる他の腫瘍との鑑別が重要です。
視診や触診では、病変部の観察や、乳房のしこり、わきの下にあるリンパ節の腫れなどがないか確認します。血液検査では、主に腫瘍マーカー(がんの有無や種類、進行度の指標)を測定します。
画像検査は、病変の広がりを観察するためにおこなわれます。マンモグラフィ検査や超音波検査、MRI検査は、乳房病変の観察に優れています。CT検査は、リンパ節や臓器への転移がないか確認するために実施される場合があります。
葉状腫瘍における悪性度の判定には、病理検査が実施されます。病理検査では、細胞や組織に含まれる成分を確認します。病理検査ではしこりのある部分に針を刺して病変の一部を採取するか、あるいは手術で切除した病変を用いて検査します。
葉状腫瘍の治療
葉状腫瘍の治療では、主に外科的な切除手術がおこなわれています。葉状腫瘍が「良性」でサイズも大きくなければ、腫瘍部分の摘出のみで治療でき、再発リスクもそれほど高くないとされています。
腫瘍のサイズが大きい場合は、乳房部分切除術なども検討されます。
また、まれではあるものの腫瘍が「境界病変」である場合は、より慎重な治療と再発に対する経過観察が求められます。
「悪性」である場合は、がん治療に準じた治療(放射線治療や薬物治療)が試みられることもあります。症例は少ないものの、悪性では総じて難治性で予後が悪いため、集学的な治療を必要とする疾患です。
葉状腫瘍になりやすい人・予防の方法
葉状腫瘍は乳房に生じるまれな腫瘍であり、発症する患者さんは主に女性です。好発するのは30代~50代とされ、20代や60代以降での発症リスクは低いとされますが、発症例がないわけではありません。
葉状腫瘍の原因は今のところ明確ではないことから、この疾患を予防する手段はありません。もし葉状腫瘍を発症しても、良性が大半を占めるとされているものの、比較的急速に拡大しやすい特徴などから、早期発見が望まれる疾患です。
葉状腫瘍の早期発見には、定期的なセルフチェックが有効です。セルフチェックではまんべんなく乳房を触り、硬い部分がないか確認しましょう。葉状腫瘍では乳房が急激に大きくなる場合があるため、乳房の形状や大きさを日頃から観察することも効果的です。
乳がん検診の受診も早期発見につながります。とくに40歳以上の女性では、葉状腫瘍をはじめとした乳房腫瘍のリスクが高まるため、2年に1度を目安としてマンモグラフィ検査による乳がん検診をおすすめします。
また、葉状腫瘍の既往歴がある場合は再発のリスクがあります。治療後は医療機関を受診し経過観察に努めましょう。
参考文献




