稀発月経

監修医師：
中里 泉（医師）

稀発月経の概要

稀発月経とは、月経が39日以上3ヶ月以内の周期で来る月経異常を指します。
正常な月経周期は、25日以上38日以内とされています。卵胞の成熟の遅れや、排卵障害により起きるとされており、その原因は、ストレス、甲状腺機能異常、多嚢胞性卵巣症候群（PCOS）、摂食障害による低体重、過度な運動、高プロラクチン血症を引き起こす可能性のある薬剤の使用などが挙げられます。

なお、月経周期から稀発月経を疑っていた場合でも、妊娠により月経が停止した後の不正出血である場合もあります。よって、まず妊娠でないことを確認した後に、排卵障害の有無と稀発月経の原因を調べる検査を行います。
具体的には、基礎体温記録から排卵障害の有無を確認し、ほかの問診や、血液検査、超音波検査などから原因を特定します。妊娠を希望するにも関わらず、排卵障害が認められた場合には、判明した稀発月経の原因に応じて治療を進めます。

稀発月経の原因

稀発月経は、卵胞の成熟の遅れや、排卵障害により誘発されるとされています。その原因は、ストレス、甲状腺機能異常、多嚢胞性卵巣症候群（PCOS）、摂食障害による低体重、過度な運動、などが挙げられます。

稀発月経の前兆や初期症状について

月経周期が長くなり始めた場合、稀発月経につながる可能性があります。月経周期が延びることがしばらく続いた場合、婦人科に相談しましょう。診断で排卵の有無を確認する目的で基礎体温の変動が参考となる場合があるため、月経周期の乱れが気になりだしたら、基礎体温をつけるとよいでしょう。

稀発月経の検査・診断

稀発月経は、問診、血液検査、超音波検査などの検査を行って診断されます。

問診

まず、問診にて以下の内容を確認します。

• 妊娠の有無
• 初経以後の月経周期
• 直近の数周期の月経周期
• 基礎体温記録
• 妊娠・分娩歴
• 手術歴
• 既往歴
• 体重の増減、無理な食事制限や摂食障害の有無
• 精神的ストレスの有無
• 激しい運動の習慣
• 服薬状況
• 乳汁分泌の有無
• 男性化兆候（顔や体の毛が濃くなる、にきび、声が低くなる、性衝動が強くなる、筋肉が増えるなどの兆候）

妊娠の有無

妊娠により月経が停止した後の不正出血である可能性がある場合には、妊娠検査を行います。患者さんが思春期の女性の場合には、保護者のいない状況にて妊娠の確認をするなどの配慮をする場合もあります。妊娠の可能性が否定された後、稀発月経の原因を特定する検査を行います。

基礎体温記録

基礎体温記録から排卵の有無を確認します。高温期と低温期が明確に分かれて繰り返されている場合、月経周期には異常があるものの、排卵は正常にされていることがわかります。一定の体温のまま変化がない場合には、排卵されていない可能性が高くなります。

体重の増減、無理な食事制限や摂食障害の有無

ダイエットなどによる無理な食事制限や摂食障害により、栄養摂取量が極端に少ないと、稀発月経を来たす場合があります。

精神的ストレスの有無

過度のストレスが続いている場合、ホルモンバランスが乱れ、月経周期に異常が出ることがあります。

激しい運動の習慣

アスリートなど日常的に激しい運動の習慣がある方は、エネルギー不足から、稀発月経を誘発することがあります。

服薬状況

特に、高プロラクチン血症を引き起こす可能性のある薬剤の使用の有無を確認します。プロラクチンは、出産後の母乳の分泌を促すホルモンで、血液中のプロラクチン濃度が高くなると、卵胞の発育を抑制し、排卵障害による月経不順を来すことがあるためです。以下の薬剤などが該当します。

• 精神科領域の薬剤（高ドパミン薬、選択的セロトニン再取り込み薬（SSRI）
• セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み薬（SNRI）など）
• 消化器科系の薬剤（H2ブロッカーやメトクロプラミドなど）
• 経口避妊薬を含むエストロゲン製剤

乳汁分泌の有無

高プロラクチン血症の有無を確認するために、乳汁分泌の有無も調べます。

男性化兆候

多嚢胞性卵巣症候群（PCOS）の有無を確認するために調べます。PCOSは、卵巣内に複数の嚢胞ができる病気で、排卵障害を誘発し、稀発月経の原因となる可能性があります。

血液検査

基礎体温から排卵障害の可能性が確認された場合に、原因が体のどこにあるのか確認するため、さまざまなホルモン値の血中濃度を測定します。

超音波検査

超音波検査にて、以下の内容を確認し、子宮や卵巣内の状況を調べます。

• 子宮内膜の厚さ
• 卵巣病変の有無
• 卵胞の成熟度
• PCOSに伴う小卵胞の数

稀発月経の治療

治療の方針は、排卵の有無および妊娠の希望の有無によって異なります。なお、思春期ではまだ排卵周期が定まっていない可能性があるため、成長を待って治療を検討する場合もあります。また、卵巣機能が低下することによって生理周期が乱れやすい更年期の方も、経過観察とする場合が多いです。

排卵障害のない場合

基礎体温から定期的な排卵が認められる場合には、経過観察とする場合が多いです。

排卵障害のある場合

定期的な排卵が認められない場合には、妊娠希望の有無によって治療方針が決まります。

妊娠希望のある場合

妊娠を希望しているけれども排卵障害を来している場合には、特定された原因に応じた治療を進めます。また、排卵誘発剤を使用して、直接排卵を促す場合もあります。血液検査からホルモンバランスが崩れていることが判明した場合はホルモンバランスを正常化させることを目指します。そのために日常生活の改善、精神的ストレスの緩和、低用量ピルおよびホルモン剤の投与などを行います。ほかに状況によって、プロラクチン血症を引き起こす薬剤の変更、PCOSの治療などを行います。

日常生活の改善

脳に異常があることによりホルモンが正常に分泌されず、稀発月経を来たしていることが判明した場合、日常生活の改善（規則正しい生活リズム、禁煙、適切な食事と運動、良質な睡眠、適性体重など）をします。体重減少が著しい場合は、摂食障害を専門とする診療内科、精神科、内科などを紹介される場合もあります。

精神的ストレスの緩和

精神的ストレスが原因の場合には、カウンセリングや認知行動療法を行い、ストレスの緩和を目指します。ホルモンを分泌する脳下垂体は、ストレスの影響を強く受けやすいため、脳下垂体から分泌されるホルモン値に異常がある場合は、ストレスが原因である可能性があります。

低用量ピルおよびホルモン剤の投与

ホルモン値に異常がある場合、低用量ピルやホルモン剤を使用して、生理周期を正常化させます。

プロラクチン血症を引き起こす薬剤の変更

高プロラクチン血症を引き起こす可能性のある薬剤の使用が原因の場合、該当する薬剤の使用を中止または、ほかの薬剤へ変更します。

PCOSの治療

PCOSが原因の場合、肥満があれば減量など生活指導を行います。妊娠希望の場合、卵巣に穴を開けて排卵を促すことがあります。

妊娠希望のない場合

妊娠希望のない場合は、子宮に病変がない場合は、経過観察とすることもあります。ただ、ホルモンバランスが長期間崩れた状態が続くと、子宮内膜増殖症や子宮内膜がんの発生リスクを高める可能性があります。さらに異常子宮出血を来たす可能性も出てきます。子宮内膜の状況を確認しつつ、稀発月経の原因に対する治療を行い、効果が不十分な場合は、ホルモン療法を行う場合もあります。

稀発月経になりやすい人・予防の方法

PCOSなどの原因となる疾患を持っている方や高プロラクチン血症を引き起こす可能性のある薬剤を使用している方は、稀発月経になる可能性があります。また、日常的に強いストレスを受けていたり、無理なダイエットや過度の運動から栄養不足になっていたりすると、ホルモンバランスがくずれます。原因となる疾患の治療や、ホルモンバランスを崩す要因を改善することが稀発月経を予防することになります。