

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
子宮発育不全の概要
子宮発育不全とは、子宮が年齢相応の大きさや機能に達しない状態を指します。「子宮発育不全」という単語は、日本産科婦人科学会用語集では定義されていないですが、臨床の場では普通に用いられています。病因論的には、先天性の子宮低形成と、低エストロゲン環境による子宮の萎縮・発育不全の両方を含む概念と考えられます。
臨床的には、無月経、不妊症、不育、反復流産などの症状が現れ、婦人科診療において発見されることが多いです。不妊や不育などがみられる場合に子宮全体が年齢に比して小さいと、子宮発育不全との診断がなされることが一般的です。原因として、ミュラー管の発育異常や卵巣機能不全、視床下部・下垂体の機能異常などが関与し、病態に応じた診断と治療が必要となります。
子宮発育不全の原因
子宮発育不全は、先天性と後天性に分類されます。先天性の場合、ミュラー管の発育不全や、卵巣機能不全に続発するケースが含まれます。例えば、Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser(MRKH)症候群では、染色体が46,XXであるものの、子宮が痕跡程度しか発育せず、無月経となります。また、ターナー症候群(45,Xまたはモザイク型)では、卵巣機能が著しく低下するため、子宮の発育が不十分となります。
後天性の原因としては、視床下部機能障害(Kallmann症候群など)、下垂体機能低下症(Sheehan症候群など)、甲状腺機能低下症、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などが挙げられます。また、体重減少性無月経や神経性食欲不振症も、エストロゲンの分泌低下を引き起こし、子宮の発育に影響を与えることがあります。さらに、抗がん剤や放射線療法、卵巣摘出などの医原性要因も、後天的な子宮発育不全の原因となることがあります。
子宮発育不全の前兆や初期症状について
子宮発育不全の症状は個人差がありますが、多くは思春期以降に明らかになります。主な症状として、原発性無月経や稀発月経、無排卵周期などの月経異常が挙げられます。思春期になっても月経が始まらない場合、婦人科的な検査が推奨されます。また、不妊症や反復流産の原因として発見されることもあります。
一部の患者では、ホルモンバランスの異常により乳房発育不全や骨密度の低下などの症状がみられることもあります。さらに、子宮の大きさが小さいため、妊娠しても着床環境が不十分であることがあり、流産のリスクが高くなる可能性があります。
子宮発育不全の検査・診断
子宮発育不全の診断には、月経歴や妊娠歴の詳細な問診と婦人科的診察が重要です。超音波検査は、子宮の大きさや形態を評価するための基本的な検査として用いられます。MRI検査では、子宮の発育状態やミュラー管由来の異常をより詳細に確認できます。また、ホルモン検査により、エストロゲンやゴナドトロピン(LH, FSH)の値を測定し、卵巣機能の評価を行います。染色体分析を行い、ターナー症候群やその他の遺伝的要因を確認することもあります。
子宮発育不全の治療
治療は、患者の年齢、症状、妊孕性(妊娠する能力)の希望に応じて異なります。無症状で妊娠を希望しない場合、定期的な経過観察が行われることもありますが、月経異常や不妊症がある場合には治療が必要になります。
ホルモン補充療法(HRT)は、エストロゲンとプロゲステロンを投与し、子宮内膜の発育を促す目的で使用されます。特に、視床下部性や下垂体性の機能低下が原因である場合には、ゴナドトロピン療法(GnRHパルス療法またはhCG投与)が行われることがあります。卵巣機能が著しく低下している場合、エストロゲン補充によるKaufmann療法が選択肢となることもあります。
また、外科的治療として、子宮が未発達な場合には代理懐胎(代理母出産)や子宮移植が理論的には可能ですが、日本では倫理的・法的な整備が進んでおらず、実施例は限られています。子宮奇形がある場合には、形成術を行うことで妊孕性の向上が期待されることがあります。
子宮発育不全になりやすい人・予防の方法
子宮発育不全を完全に予防する方法は確立されていませんが、母体の健康管理が胎児の生殖器系の正常な発育に影響を与える可能性があります。妊娠中の適切な栄養摂取や薬剤使用の管理が重要とされており、ホルモンに影響を及ぼす可能性のある薬剤の使用には注意が必要です。また、家族内に同様の生殖器異常の既往がある場合、遺伝カウンセリングを受けることで、早期診断や適切な管理が可能となることがあります。
後天性の子宮発育不全に対しては、過度なダイエットを避け、適切な栄養を摂取することが推奨されます。特に思春期の女性においては、極端な体重減少がホルモン分泌に影響を及ぼし、子宮の発育に支障をきたす可能性があります。また、甲状腺機能の評価を定期的に行い、異常があれば適切な治療を受けることが重要です。
参考文献
- 1. Morcel K, Camborieux L, Guerrier D. “Mayer-Rokitansky-Küster-Hauser (MRKH) syndrome.” Orphanet J Rare Dis. 2007;2:13.
- 2. Templeman CL, et al. “Surgical management of vaginal agenesis.” Obstet Gynecol Surv. 1999;54:583-591.
- 3. 榊原秀也, et al. “当科「女性健康外来」におけるターナー女性の包括的健康管理.” 思春期学. 2005;23(3):339-343.