

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
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先天性子宮形態異常の概要
先天性子宮形態異常とは、胎児期の子宮の発生過程においてミュラー管の癒合や退縮に異常が生じ、正常な子宮の形態が形成されない状態を指します。この異常は、生殖年齢の女性において月経異常、不妊症、反復流産、早産などの原因となることがあります。一部の形態異常は無症状のまま偶発的に発見されることもあり、診断されるまでに時間がかかることがあります。低形成や無形成子宮は、ロキタンスキー症候群として知られるもので、子宮が欠損または極端に発育不良な状態を示します。単角子宮は、一側のミュラー管の発育が不十分であり、片側のみの子宮が形成される状態です。双角子宮は、両側のミュラー管の癒合が不完全で、子宮腔が二分される形態をとります。中隔子宮は、ミュラー管の癒合後に中隔の吸収が不完全で、子宮内腔が部分的または完全に隔てられている状態を指します。弓状子宮は、中隔子宮と類似しますが、子宮腔のへこみが軽度な場合に分類されます。完全重複子宮は、両側のミュラー管が独立して発達し、それぞれが独立した子宮と腟を形成するものです。
先天性子宮形態異常の原因
この異常の主な原因は、胎生期のミュラー管の発育や癒合、退縮の異常です。遺伝的要因や内分泌的要因、環境的要因が関与していると考えられており、一部の形態異常は先天性腎尿路奇形や脊椎奇形を伴うことが多いです。これらの合併症は、胎児の初期発生過程における共通の発生異常が関与している可能性を示唆しています。また、母体が妊娠中に特定の薬剤に曝露された場合、胎児の生殖器系の発育に影響を及ぼすことが報告されています。
先天性子宮形態異常の前兆や初期症状について
多くの先天性子宮形態異常は出生時には無症状ですが、思春期以降に月経異常や不妊症、反復流産の形で症状が現れることがあります。中隔子宮や双角子宮では、妊娠後に流産や早産のリスクが高まることが知られています。弓状子宮や単角子宮では、自覚症状がほとんどない場合もありますが、妊娠経過に影響を及ぼす可能性があるため、適切な評価が必要です。
先天性子宮形態異常の検査・診断
診断には、患者の月経歴や妊娠歴を詳細に問診し、画像検査を行います。超音波検査では、子宮の形態を評価する初期検査として広く用いられます。子宮鏡検査では、子宮内腔の異常を詳細に観察し、中隔子宮や弓状子宮の診断に有用です。MRI検査は、より詳細な子宮の形態評価が可能であり、他の生殖器異常や腟異常との鑑別にも役立ちます。子宮卵管造影は、子宮腔の形態や卵管の通過性を評価し、双角子宮や中隔子宮の診断に有効とされています。
先天性子宮形態異常の治療
治療方針は、患者の症状や生殖機能への影響を考慮して決定されます。無症状で妊娠を希望しない場合には、経過観察が選択されることもありますが、不妊症や流産のリスクがある場合には、外科的治療が検討されます。中隔子宮の治療としては、内視鏡手術による子宮鏡下中隔切除術が行われることが多く、妊娠率の向上が期待されます。双角子宮の治療では、基本的に手術適応は少ないものの、重症例では手術が検討されることがあります。単角子宮では、無症状であれば経過観察が原則ですが、流産を繰り返す場合には外科的矯正が行われることがあります。完全重複子宮の治療は特に必要としないことが多いですが、症状に応じて手術が考慮されることがあります。
先天性子宮形態異常になりやすい人・予防の方法
現時点では、先天性子宮形態異常を完全に予防する方法は確立されていません。しかし、母体の健康管理が胎児の生殖器系の正常な発育に影響を与える可能性があるため、妊娠中の適切な栄養摂取や薬剤の使用に関する慎重な管理が推奨されます。特に、ホルモンに影響を及ぼす可能性のある薬剤の使用には注意が必要とされます。また、家族内に同様の生殖器異常の既往がある場合、遺伝カウンセリングを受けることで、早期診断や適切な管理が可能となることがあります。
参考文献
- 1. American Fertility Society. The American Fertility Society classification of adnexal adhesions, distal tubal occlusion secondary or tubal ligation, tubal pregnancies, mullerian anomalies and intrauterine adhesions. Fertil Steril 1988;49(6):944e55.
- 2. T. Saravelos, E. Cocksedge, and L. R. Li, “Prevalence and Diagnosis of Congenital Uterine Anomalies in Women with Reproductive Failure: A Critical Appraisal of the Literature,” Human Reproduction Update, vol. 14, no. 5, pp. 415-429, 2008.
- 3. A. Chan, S. Jayaprakasan, L. Zamora, et al., “The Prevalence of Congenital Uterine Anomalies in Unselected and High-Risk Populations: A Systematic Review,” Human Reproduction Update, vol. 17, no. 6, pp. 761-771, 2011.