慢性乳腺炎

慢性乳腺炎の概要

慢性乳腺炎とは、非産褥期に発生する乳腺の慢性的な炎症性疾患です。産褥期の急性乳腺炎とは異なり、乳癌との鑑別が重要となるケースが多く、診断には慎重な評価が必要です。乳輪下膿瘍、乳管拡張症、モンドール病、肉芽腫性乳腺炎、糖尿病性乳腺炎など、さまざまな疾患が含まれます。これらの病態は明確な原因が特定されていないものも多く、標準的な治療法が確立されていないのが現状です。

慢性乳腺炎の原因

慢性乳腺炎の原因は多岐にわたりますが、主に以下のような要因が関与していると考えられています。 乳管の閉塞や拡張による炎症が代表的な病因の一つとされており、特に乳輪下膿瘍や乳管拡張症はその典型です。細菌感染が関与する場合もありますが、乳腺炎の一部は無菌性であり、炎症の持続や再発が問題となります。自己免疫反応が関与している可能性が指摘される疾患もあり、肉芽腫性乳腺炎や糖尿病性乳腺炎では免疫系の異常が示唆されています。 ホルモンの影響も無視できません。特に閉経前後の女性では、乳腺の退縮に伴う乳管の拡張が慢性乳腺炎を引き起こす要因となることがあります。さらに、喫煙やストレスが炎症の慢性化に関与していると考えられています。

慢性乳腺炎の前兆や初期症状について

慢性乳腺炎の症状は、疾患の種類によって異なりますが、共通する特徴として以下のようなものが挙げられます。 乳房のしこりや硬結は比較的よくみられる症状です。炎症が進行すると、痛みを伴うことがあり、特に乳輪下膿瘍では波動を伴う腫瘤が形成されることがあります。乳管拡張症では、乳頭からの分泌物がみられ、緑色や白色の粘稠性の分泌が特徴的です。 また、炎症が慢性化すると、乳頭や乳輪の変形を引き起こすことがあります。例えば、乳管の閉塞や周囲の線維化により乳頭が陥没したり、乳輪が硬くなったりすることがあります。肉芽腫性乳腺炎では、炎症が進行すると乳房の皮膚に潰瘍を形成することがあり、乳がんとの鑑別が困難になることがあります。

慢性乳腺炎の検査・診断

慢性乳腺炎の診断には、視診・触診に加えて、以下のような画像検査や病理検査が用いられます。 超音波検査は、膿瘍や炎症による乳管の拡張を評価するために有用です。特に、乳管拡張症では、拡張した乳管内に貯留した分泌物が観察されることがあります。また、乳輪下膿瘍の場合は、低エコーの液体貯留がみられ、膿瘍の形成が確認されます。 マンモグラフィは、特に閉経後の女性で有用です。乳管の拡張や石灰化の有無を評価することができ、乳がんとの鑑別に役立ちます。乳管拡張症では、石灰化が線状に分布することが特徴的です。 MRIは、より詳細な組織の変化を評価するために用いられます。特に、肉芽腫性乳腺炎や糖尿病性乳腺炎では、炎症の広がりや線維化の程度を評価するために役立つことがあります。 細胞診や組織生検は、悪性疾患との鑑別を行うために必要となる場合があります。特に、乳房のしこりが持続する場合や、炎症が長期間続く場合には、組織生検による診断が推奨されます。

慢性乳腺炎の治療

慢性乳腺炎の治療は、その原因や病態によって異なります。 細菌感染が関与する場合には、抗生剤が使用されることがあります。乳輪下膿瘍のように膿が貯留している場合は、穿刺吸引や切開排膿が必要になることがあります。しかし、無菌性の炎症が主体となる場合には、抗生剤の効果は限定的であり、炎症のコントロールが治療の中心となります。 ステロイド療法が有効とされる疾患もあります。特に肉芽腫性乳腺炎では、ステロイドが炎症を抑える効果を示すことがあり、一部の症例では免疫抑制剤の使用が検討されることもあります。 手術療法が必要になることもあります。乳管拡張症や乳輪下膿瘍が再発を繰り返す場合には、病変乳管の切除が行われることがあります。特に、乳管の閉塞が強い場合や、炎症が慢性化して乳房の変形を引き起こす場合には、手術が推奨されます。

慢性乳腺炎になりやすい人・予防の方法

慢性乳腺炎は、特定の条件を持つ人に発生しやすいとされています。 喫煙者は乳管の炎症リスクが高く、乳輪下膿瘍や乳管拡張症の発症率が高いとされています。乳頭の形態異常（陥没乳頭など）を持つ人も、乳管の閉塞が生じやすく、乳腺炎を発症しやすいと考えられています。 予防策としては、禁煙が最も重要な要素とされます。また、乳頭の衛生管理を徹底し、乳管の閉塞を防ぐために適切なスキンケアを行うことが推奨されます。乳房の自己検診を定期的に行い、異常を早期に発見することも重要です。