

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。
乳管拡張症の概要
乳管拡張症とは、乳房の大乳管が拡張し、内部に分泌物や細胞片が蓄積することによって発生する良性の炎症性疾患です。主に乳頭や乳輪の周囲に影響を及ぼし、乳頭からの分泌や乳頭周囲のしこり、圧痛などの症状が現れることがあります。症状がない場合も多く、検診などで偶然発見されることもあります。 この疾患は一般に非増殖性の病変であり、乳がんのリスクを高めるものではありません。しかし、乳がんと似た症状を呈することがあるため、正確な診断が求められます。特に乳頭分泌や乳房のしこりがみられる場合には、乳がんの可能性を慎重に検討する必要があります。乳管拡張症の原因
乳管拡張症の明確な原因はまだ解明されていませんが、加齢に伴う乳管の変化が主な要因と考えられています。乳管の壁が弾力を失い、拡張しやすくなることで、内部に分泌物がたまり、炎症が起こるとされています。また、喫煙が乳管の炎症を促進し、乳管拡張症の発症リスクを高めることが指摘されています。さらに、先天的な乳頭陥没や乳管の奇形がある場合、乳管の閉塞が生じやすくなり、乳管拡張症が発生しやすくなる可能性があります。 閉経前後の女性に多くみられることから、エストロゲンやプロゲステロンといったホルモンの影響も関与していると考えられています。妊娠や授乳を経験した女性のほうが乳管拡張症を発症しやすい傾向があるものの、因果関係は明確にはなっていません。 乳管の炎症は、慢性的な乳管の閉塞や細菌感染によってさらに悪化することがあります。乳管内に長期間分泌物がたまると、免疫反応が活性化し、炎症細胞が乳管の周囲に集まり、線維化が進行することがあります。その結果、乳管の拡張が持続し、症状が長引くことがあります。乳管拡張症の前兆や初期症状について
乳管拡張症の症状は個人差があり、多くの場合、乳頭分泌が最も一般的な症状としてみられます。分泌物の色は白、黄色、緑、黒などさまざまで、多くの場合、単一の乳管から分泌されます。また、乳輪周囲にしこりや腫れが生じることがあり、炎症が進行すると、赤みや腫脹を伴うこともあります。 慢性的な炎症が進むと、乳頭が引き込まれたり変形したりすることがあります。痛みや違和感を伴うこともありますが、無症状のケースも少なくありません。細菌感染が合併すると、膿瘍が形成されることがあり、発熱を伴うこともあります。 症状が進行すると、乳頭の形が変わったり陥没したりすることがあり、皮膚に瘢痕を残すこともあります。乳管の壁が硬くなり、触れるとしこりのように感じることもあります。そのため、乳がんとの区別が難しくなることがあり、慎重な診断が必要です。また、乳頭分泌の性質が時間とともに変化することがあり、特に血性の分泌がみられた場合には、他の疾患の可能性を考慮しなければなりません。乳管拡張症の検査・診断
診断には問診、視診、触診が行われます。乳房超音波検査は、乳管の拡張や分泌物の蓄積を確認するために有効な検査です。特に35歳以下の女性では第一選択となります。 マンモグラフィは乳がんとの鑑別に役立ち、乳管の拡張や石灰化の有無を確認するために用いられます。MRIは、乳管の詳細な構造を把握するのに適しており、より正確な診断を行う際に有用とされています。乳管造影は乳管内の病変を評価するための検査であり、細胞診や組織生検は、悪性病変を除外するために実施されることがあります。乳管拡張症の治療
治療は症状の程度によって異なります。軽症の場合は、乳房を圧迫したりマッサージしたりするのを避け、分泌物が自然に排出されるのを待つことが推奨されます。温めることで症状が和らぐこともあり、必要に応じて鎮痛薬が使用されます。 感染を伴う場合には、抗生剤を投与することで炎症を抑えることができます。膿瘍が形成されている場合は、穿刺吸引や切開排膿が必要となることがあります。再発を繰り返す場合や症状が重い場合には、乳管を部分的または完全に切除する手術が検討されます。 手術が必要な場合、乳頭下乳管切除術が一般的に行われます。この手術では、病変のある乳管のみを除去し、乳頭の形をなるべく維持します。より広範囲に乳管が影響を受けている場合は、主要乳管全摘出術が選択されることもあります。手術後の再発を防ぐため、生活習慣の見直しも重要になります。乳管拡張症になりやすい人・予防の方法
乳管拡張症は閉経前後の女性に多くみられますが、喫煙歴のある方や乳頭の形態異常を持つ方、授乳経験のある方、ホルモン変動が大きい方は発症しやすいと考えられています。 予防のためには、禁煙をすることで乳管の炎症を抑えることが推奨されます。また、乳頭や乳輪の衛生管理を徹底することも重要です。乳房の定期的な自己検診を行い、異常がみられた場合は早めに医療機関を受診することが望ましいです。 さらに、ストレス管理や規則正しい生活習慣を維持することで、乳管の健康を保つことができます。ホルモンバランスを整えるため、適度な運動やバランスの取れた食事を心がけることも大切です。乳房に負担をかけるような過度なマッサージや圧迫を避けることも予防に役立ちます。参考文献
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