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早発月経
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

早発月経の概要

早発月経は、女の子の月経が標準的な年齢より早く始まる状態を指します。日本人の女の子の場合、通常は12歳前後(おおよそ10歳から14歳の間)で初めての月経(初経)を迎えますが、10歳6か月より前に月経が始まる場合を早発月経と呼びます。この状態は、5,000人から10,000人に1人の割合で発生します。女児は男児の8倍発症が多いとされており、早期に適切な評価と対応が必要な場合があります。思春期早発症の一症状として現れることが多く、他の思春期の徴候とともに包括的な評価が必要とされます。

早発月経の原因

早発月経が起こる原因は多岐にわたります。脳の中で性ホルモンの分泌を調整する部分(視床下部-下垂体-性腺系)が早く活性化されることで起こることが最も多く見られます。この系統は通常、思春期までは性ホルモンによる抑制がかかっていますが、様々な要因でこのバランスが崩れることで早期に活性化されます。特に、脳の発達に関わる物質であるキスペプチンやグルタミン酸、上皮細胞成長因子などの働きが活発になることで、性ホルモンの分泌が促進されると考えられています。 原因の多くは特定できない(特発性)ものですが、脳の腫瘍(視神経膠腫など)、視床下部過誤腫、頭部の怪我、脳の感染症、水頭症、頭部への放射線治療歴なども重要な原因となります。また、先天性副腎過形成症という副腎の病気で治療が十分でない場合や、遺伝子の異常によっても起こることが最近の研究で分かってきています。

早発月経の前兆や初期症状について

思春期の体の変化には一定の順序があります。通常は最初に乳房が発育し始め(標準は9歳頃)、次に陰毛が生え始め(標準は11歳頃)、その後に初経を迎える(標準は12歳頃)という順序で進みます。早発月経の場合、これらの変化が標準より早く現れます。具体的には、7歳より前での乳房の発育、8歳より前での陰毛の発生、10歳より前での月経開始が診断の目安となります。また、身長の急激な伸びや骨の成熟の促進が見られることもあります。

早発月経の検査・診断

診断は詳しい問診と診察から始まります。これまでの成長の記録や体の発育状態を確認し、家族歴なども聴取します。身長や体重の測定では、標準的な成長曲線から大きくずれていないかを評価します。また、年間の成長速度が標準値の1.5倍以上である場合や、骨の成熟が暦年齢より2歳6カ月以上以上進んでいる場合なども重要な所見となります。 検査としては、手首のレントゲン写真による骨年齢の評価、血液検査による性ホルモンの値の確認、頭部MRI検査による脳の状態の確認、超音波検査による子宮や卵巣の状態の確認などを行います。これらの検査結果を総合的に判断して、早発月経の原因を特定し、適切な治療方針を決定します。

早発月経の治療

治療が必要かどうかは、心理的な影響や最終的な身長への影響などを考慮して慎重に判断します。治療が必要な場合は、性ホルモンの分泌を抑える注射薬(LH-RHアナログ)による治療が一般的です。リュープロレリン酢酸塩という薬を4週間に1回、体重に応じた量で皮下注射します。効果が不十分な場合は増量することができます。 治療開始後は定期的な経過観察が重要です。身長の伸び、骨の成熟度、二次性徴の進行状況などを確認しながら、治療の効果を評価します。治療中止の時期については、女児では骨年齢が12歳頃を目安としますが、個々の状況に応じて判断します。治療中止後は3〜6か月以内に月経が再開することが多く、将来の妊娠能力にも問題がないことが報告されています。

早発月経になりやすい人・予防の方法

早発月経そのものを予防することは難しいですが、早期発見と適切な対応が重要です。家族に早い思春期の人がいる場合や、頭部の怪我や感染症の既往がある場合、特定の副腎の病気がある場合などは、特に注意が必要です。定期的な健康診断を受け、成長や発育の状態を確認することをお勧めします。また、気になる変化があった場合は、早めに小児科医や小児内分泌専門医に相談することが大切です。 早発月経の子どもたちへの心理的なサポートも重要です。年齢より早く体の変化が起こることで、心理的な負担を感じることがあります。家族や学校の理解と支援が必要で、必要に応じて心理専門家によるケアも検討します。

関連する病気

参考文献

  • 大山建司:思春期の生理学. 日本小児内分泌学会(編):小児内分泌学,診断と治療社,2009
  • 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究」班:中枢性思春期早発症の診断と治療の手引き(平成30年度改訂)
  • 鹿島田健一:思春期早発症 -1.ゴナドトロピン依存性思春期早発症. 日本小児内分泌学会(編):小児内分泌学,改訂第2版,2016

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