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老人性腟炎
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

老人性腟炎の概要

萎縮性腟炎は、女性ホルモンの低下によって起こる腟とその周辺部分の変化と、それに伴う不快な症状の総称です。主に閉経後の女性に多く見られ、中年以降の女性の約半数が経験するとされています。特に閉経後6年以上経過した女性では、80%以上の方が何らかの症状を感じていると報告されています。この状態は慢性的で、徐々に進行していく性質があり、適切な治療を行わないと症状は次第に悪化していく傾向にあります

老人性腟炎の原因

萎縮性腟炎は、主に女性ホルモンの低下によって引き起こされます。女性ホルモンは腟の粘膜を健康に保つために重要な役割を果たしています。ホルモンの減少により、まず腟の粘膜が本来持っている水分を保つ力が低下します。また、腟内の善玉菌である乳酸菌も減少し、腟内の環境が変化します。これにより腟の粘膜への血液の流れが悪くなり、弾力性が失われ、乾燥しやすい状態となります。このような変化は閉経後に徐々に進行しますが、この過程は自然なものであり、適切なケアと治療で快適に過ごすことが可能です。

老人性腟炎の前兆や初期症状について

最初の症状は、多くの場合、膣やその周辺の乾燥感や不快感として現れます。乾燥感は特に排尿後や入浴後に感じやすく、日常生活に支障をきたすことがあります。症状が進むと、腟やその周辺のヒリヒリ感や、かゆみなどの不快な症状が出てきます。また、おしっこに関する様々な症状も現れます。たとえば、おしっこがしづらい、頻繁にトイレに行きたくなる、突然強い尿意を感じる、膀胱炎を繰り返すなどの症状が見られます。パートナーがいる方の場合は、腟の潤いの減少により性行為の際の痛みを感じたり、その後に出血が起こったりすることがあります。これらの症状は一つだけ現れることもありますし、複数の症状が同時に現れることもありますが、いずれの場合も我慢せずに医療機関を受診することが大切です。

老人性腟炎の検査・診断

診断は主に症状についての詳しい問診と診察によって行われます。まず、症状がいつ頃から始まったのか、どのような不快感があるのかなど、医師が詳しくお話を伺います。診察では、外陰部や腟の入り口周辺の状態を確認します。健康な状態では、この部分は適度な潤いがあり、粘膜は薄すぎず厚すぎずちょうど良い状態です。しかし萎縮性腟炎では、この部分が乾燥し、赤みを帯びていたり、粘膜が薄くなっていたりします。 医師は特に尿道の入り口の形の変化に注目して診察を行います。また、腟の内部も診察し、膣壁の状態や弾力性、乾燥の程度、赤みなどを確認します。健康な状態では、腟の中は適度な潤いがあり、壁にはヒダがありますが、萎縮性腟炎ではこれらが減少または消失します。 必要に応じて、腟からの分泌物の検査が行われることもあります。また、類似の症状を示す他の病気との区別も重要です。特に、皮膚が白く硬くなる病気(硬化性萎縮性苔癬)との区別が必要で、この場合は皮膚科での専門的な診察が必要となることもあります。

老人性腟炎の治療

治療は症状の程度に応じて選択され、段階的に行われます。まず基本となるのが、腟やその周辺の保湿ケアです。一般的な全身用の保湿剤で十分な場合もありますが、症状が気になる場合は膣用に開発された専用の保湿剤の使用も検討します。 医療機関では、女性ホルモンを含む腟用の薬が処方されることが多く、これを定期的に使用することで症状の改善が期待できます。この治療は数週間で効果が現れ始めますが、十分な効果を得るために3ヶ月程度の継続が推奨されます。女性ホルモンの使用に不安がある方もいらっしゃいますが、腟に直接使用する薬は全身への影響が少なく、多くの場合安全に使用できます。 症状が更年期障害の一部として現れている場合は、全身的なホルモン補充療法が選択されることもあります。また、症状が重い場合や、これらの治療で十分な改善が見られない場合は、特殊なレーザー治療を行う場合もあります。 治療中は定期的な診察が必要で、症状の変化や治療の効果を確認します。また、不正な出血などの異常が見られた場合は、すぐに医師に相談することが大切です。

老人性腟炎になりやすい人・予防の方法

萎縮性腟炎は、閉経を迎えるすべての女性に起こる可能性がある状態です。特に若くして閉経を迎えた方や、手術で卵巣を摘出した方、骨盤の部分に放射線治療を受けた方では、より若い年齢での発症リスクが高まります。 予防のためには、日常的なケアが重要です。特に腟やその周辺の保湿を心がけることが大切です。入浴後などに保湿剤を使用することで、乾燥を防ぐことができます。また、パートナーがいる場合は、閉経後も適度な性生活を続けることで、腟の萎縮を予防する効果が期待できます。性行為の際は必要に応じて潤滑剤を使用することで、不快感を軽減することができます。 骨盤底の筋肉を鍛える体操も効果的です。毎日の生活の中で、禁煙、適度な運動、バランスの良い食事を心がけることも、予防に効果があります。 また、症状に気づいたら、恥ずかしがらずに早めに婦人科を受診することが大切です。早期発見・早期治療により、症状の進行を防ぎ、快適な生活を送ることができます。また、定期的な婦人科検診を受けることで、早期の段階で症状に気づくことができます。

関連する病気

参考文献

  • Portman DJ, et al:Genitourinary syndrome of menopause: new terminology for vulvovaginal atrophy from the International Society for the Study of Women's Sexual Health and the North American Menopause Society.
  • The NAMS 2020 GSM Position Statement Editorial Panel: The 2020 genitourinary syndrome of menopause position statement.
  • Angelou K, et al: The genitourinary syndrome of menopause: An overview of the recent data. Cureus 2020
  • Newson L, et al: Position statement for management of genitourinary syndrome of the menopause (GSM). BSSM. 2023
  • Buggio L, et al: Probiotics and vaginal microecology: fact or fancy? BMC Womens Health 2019

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