

監修医師:
大坂 貴史(医師)
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京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学大学院医学研究科修了。現在は綾部市立病院 内分泌・糖尿病内科部長、京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・糖尿病・代謝内科学講座 客員講師を務める。医学博士。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医。
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ヒトパピローマウイルス感染症の概要
ヒトパピローマウイルス (HPV) 感染症は、HPV というウイルスによって引き起こされる感染症です。HPV は非常に一般的なウイルスで、性行為を介して多くの人に感染します。感染した場合、ほとんどのケースでは免疫力によって自然に排除され、症状が出ることはありません。しかし、一部の HPV型 、特に 16型 や 18型 などの高リスク型ウイルスに持続感染すると、子宮頸がんやその前段階の異常 (子宮頸部上皮内腫瘍:CIN) を引き起こすことがあります。 HPV感染 の予防には、HPVワクチン が効果的です。このワクチンは、子宮頸がんの原因となる HPV型 への感染を防ぎます。また、子宮頸がん検診を定期的に受けることで、早期発見と治療が可能になります。これらの対策を通じて、HPV感染 がもたらす健康リスクを大幅に減らすことが期待されています。 (参考文献1)ヒトパピローマウイルス感染症の原因
ヒトパピローマウイルス (HPV) 感染症の主な原因は、HPV というウイルスへの感染です。HPV は非常に一般的なウイルスであり、主に性行為を介して広がります。性交渉の経験がある人なら、大半の人は生涯に一度は感染する可能性があるとされています。多くの場合、感染は自然免疫によって 1〜2年以内に排除され、健康への影響はほとんどありません。 しかし、高リスク型と呼ばれる特定の HPV型 (16型や18型など) に持続的に感染すると、子宮頸がんの発がんリスクが高まる場合があります。HPV に持続的に感染すると子宮頸がんの前駆病変である子宮頸部上皮内腫瘍 (CIN) または上皮内腺がん (AIS) が生じます。前駆病変となったとしても自然に消失する場合もありますが、15〜20年 程度ウイルス感染が持続していると子宮頸がんに進展すると考えられています。さらに、免疫力が低下している女性の場合はより早期に発がんする可能性が高くなります。また、前駆病変からがん化するまでの過程には喫煙や性交渉パートナーの数なども関与すると考えられていますが、詳細ながん化のメカニズムはわかっていません。 (参考文献1)ヒトパピローマウイルス感染症の前兆や初期症状について
ヒトパピローマウイルス (HPV) 感染症は感染した部位に炎症反応を起こすことがありません。そのため、HPVに感染しただけ、さらには子宮頸がんの前駆病変である子宮頸部上皮内腫瘍 (CIN) や初期の子宮頸がんの段階では自覚症状がほとんどありません。そして多くの場合、症状の現れないまま自然免疫によってウイルスは排除されます。 進行した子宮頸がんでは不正出血や性交時の性器出血が見られたり、茶褐色やにおいのあるおりものや粘液が増えたりすることがあります。また、骨盤内のリンパ節や子宮を支える靱帯にがんが進展したり、肺や脳、大動脈付近のリンパ節、骨などにがんが転移することもあります。そのような場合は、下腹部痛や腰痛、血尿・血便が出現したり、静脈やリンパ管が閉塞して足が腫れたりすることがあります。 (参考文献1)ヒトパピローマウイルス感染症の検査・診断
ヒトパピローマウイルス (HPV) 感染症の検査と診断には、まずスクリーニング検査として細胞診検査が用いられます。これは子宮頸がん検診で用いられる検査でもあり、子宮頸部をヘラやブラシで擦って細胞を採取し、異常の有無を調べる検査です。検診の場合は検査で異常が見つからなければ精密検査は不要で、2年 後に再び細胞診検査を受けることが勧められます。細胞診検査だけでは判定できなかった場合はハイリスク HPV検査 が行われることもあります。 そして、細胞診検査で子宮頸がんの前がん病変や上皮内がんの疑いがある場合は、さらなる精密検査としてコルポスコピーが行われます。この検査では、子宮頸部をコルポスコープ (膣拡大鏡) で拡大して観察し、異常が疑われる部分から組織を採取して顕微鏡で詳しく調べます。子宮頸がんと診断された場合は、がんの広がりや転移の有無を確認するために、内診や直腸診などの触診や、超音波検査、CT検査、MRI検査、PET検査などの画像検査を行います。また、血液検査で腫瘍マーカーを確認することもあります。 (参考文献1,2)ヒトパピローマウイルス感染症の治療
ヒトパピローマウイルス (HPV) 感染症に関連する治療は、感染自体に対するものではなく、持続感染によって引き起こされる異常や病変の治療が中心です。多くの場合、HPV感染 そのものは免疫力によって自然に排除されるため、治療は必要ありません。ただし、感染が持続し、子宮頸部に異常が生じた場合には、適切な治療が必要です。 がんの前段階である子宮頸部上皮内腫瘍 (CIN) に対しては、病変の程度に応じて治療方針が決定されます。軽度の場合は経過観察を行い、中等度以上の異常が認められる場合には、異常な組織を切除する手術 (円錐切除術など) が選択されます。ただし、子宮頸管を切除すると早産や低出生体重児のリスクが高まる可能性が指摘されています。そのため、進展する割合が 2割 程度で多くは消退する中等度の異常の場合も若年女性や妊娠女性では経過観察することが原則となります。 高度の異常に対しては円錐切除術を行い、前がん病変だけなのか子宮頸がんが発生しているのかを確かめます。前がん病変だけの場合は円錐切除術のみで治療終了となります。一方で子宮頸がんが発生している場合、進行度に応じて治療が異なります。初期のがんでは、がん部分のみを切除する手術が行われることが多いですが、進行がんでは子宮全体の摘出や、周辺のリンパ節も含めた摘出手術が必要になることもあります。放射線治療、化学療法が用いられることもあります。 (参考文献1,3)ヒトパピローマウイルス感染症になりやすい人・予防の方法
ヒトパピローマウイルス (HPV) 感染症は、世界中で非常に一般的なウイルス感染症で、性交経験のある人の大半は生涯に一度は感染していると考えられています。HPVの持続感染で発生する子宮頸がんは日本で年間 約11000人 の女性が診断され、年間 約3000人 が亡くなっています。また、HPV と関連していると考えられている中咽頭がん (舌根、口蓋、扁桃などのがん) は日本で年間 約4800人 が診断され、約1300人 が亡くなっています。 子宮頸がんは比較的予後の良いがんの一つであり、特にがんが子宮頸部に限局している場合は 5年相対生存率 が 90% を超えます。一方で遠隔の臓器やリンパ節に転移のあるものでは 20% 前後と低くなるため、早期発見・早期治療が非常に重要と考えられます。 HPV感染 を予防するためには、HPVワクチン が有効です。このワクチンは、がんを引き起こす高リスク型の HPV感染 を防ぐことができ、日本では小学校 6年生 から高校 1年生 相当の女子を対象に定期接種が行われています。また、希望すれば対象外の年齢でも接種が可能です。ただし、既に感染している人からウイルスを排除する効果はないため、性交渉開始前にワクチン接種を受けておくことが重要です。 さらに、子宮頸がんの予防という観点では、子宮頸がん検診を定期的に受けることでがんやその前段階である異常を早期に発見する可能性が高まります。そのため、厚生労働省は 20歳 以上の女性を対象に 2年 に 1回 の検診受診を推奨しています。 そして、HPV は性交渉により感染するため、その他の性感染症予防と同様にコンドームの正しい使用など安全な性行動を心がけることが重要となります。また、喫煙は HPV感染 および HPV感染 に起因する子宮頸がんや中咽頭がんのリスクを上昇させるため、禁煙することも重要です。 (参考文献1)参考文献




