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骨盤腹膜炎
井林雄太

監修医師
井林雄太(井林眼科・内科クリニック/福岡ハートネット病院)

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大分大学医学部卒業後、救急含む総合病院を中心に初期研修を終了。内分泌代謝/糖尿病の臨床に加え栄養学/アンチエイジング学が専門。大手医学出版社の医師向け専門書執筆の傍ら、医師ライターとして多数の記事作成・監修を行っている。ホルモンや血糖関連だけでなく予防医学の一環として、ワクチンの最新情報、東洋医学(漢方)、健康食品、美容領域に関しても企業と連携し情報発信を行い、正しい医療知識の普及・啓蒙に努めている。また、後進の育成事業として、専門医の知見が、医療を変えるヒントになると信じており、総合内科専門医(内科専門医含む)としては1200名、日本最大の専門医コミュニティを運営。各サブスぺ専門医、マイナー科専門医育成のコミュニティも仲間と運営しており、総勢2000名以上在籍。診療科目は総合内科、内分泌代謝内科、糖尿病内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、精神科、整形外科、形成外科。日本内科学会認定医、日本内分泌学会専門医、日本糖尿病学会専門医。

骨盤腹膜炎の概要

骨盤腹膜炎は、腹腔内の臓器を覆う薄い膜である腹膜が炎症を起こしている状態です。 特に女性の下腹部である骨盤領域にある子宮や卵巣、卵管などを覆う腹膜に起こる炎症を指します。骨盤腹膜炎を起こす主な原因は、生殖器やその近くの臓器で起こった細菌感染症です。 腹膜は腹部にある臓器の外側を包むように保護し、臓器同士が滑らかに動けるように支える重要な役割を果たしています。しかし、感染や刺激により炎症が発生すると、強い痛みを起こします。治療が遅れると命にかかわる合併症を引き起こす恐れもあります。 骨盤腹膜炎は女性生殖器に感染する骨盤内炎症性疾患(以下、PID)と関係が深いことが知られています。 PIDは、膣や子宮頸部に侵入した細菌が上方へ広がり、子宮卵管卵巣といった女性の生殖器に炎症と感染を引き起こす疾患です。PIDは通常、クラミジア淋病といった性感染症が未治療のまま放置された場合に発症します。PIDは特に性的に活発な女性に多くみられる疾患で、適切な治療が行われなければ、永続的な不妊などの深刻な合併症を引き起こします。

骨盤腹膜炎の原因

骨盤腹膜炎の原因にはさまざまな要因があり、多くは隣接する臓器からの感染が腹膜に広がることが関係しています。主な原因には以下のようなものがあります。

骨盤内炎症性疾患(PID)

骨盤腹膜炎のもっとも一般的な原因で、細菌が生殖器に感染し炎症を引き起こします。性感染症であるクラミジア淋病が代表的な原因細菌ですが、月経や医療処置などをきっかけとして通常膣内に存在する細菌が生殖器に入り込みPIDを引き起こすこともあります。

臓器の破裂

虫垂の破裂や異所性妊娠などにより、本来はないはずの細菌や異物が腹腔内に漏れると腹膜炎を引き起こします。

手術や医療処置の合併症

子宮内避妊具(IUD)の挿入や中絶手術、生殖器や腹部への手術により細菌が生殖器内に入り込み骨盤腹膜炎が起こることがあります。

ほかの感染症

例えば、結腸の憩室炎(大腸内の小さな袋が炎症を起こす疾患)など、ほかの部位からの感染や炎症が広がることで骨盤腹膜炎を引き起こすことがあります。

外傷

腹部への物理的な損傷により、腹腔内に細菌が入り込み、感染を引き起こす場合があります。

これらのリスク要因を認識し、感染が発生した際には迅速に治療を受けましょう。

骨盤腹膜炎の前兆や初期症状について

骨盤腹膜炎の症状は幅広いですが、一般的には以下のものが含まれます。腹痛が激しかったり、発熱などの全身症状を伴ったりする場合は、早急に医療機関を受診してください。診療科としては婦人科救急科が良いでしょう。

主にPIDによる症状

下腹部痛

多くの場合、PIDで最も目立つ症状で、下腹部に鈍い痛み鋭い痛みを感じます。

性交時の痛み

一部の女性は、性交時に骨盤の奥深くで痛みを感じることがあります。

異常なおりもの

量が増え、臭いが気になる場合や、黄色や緑色などの異常な色になることがあります。

不規則な月経出血

生理以外の出血や、生理時の出血量が増えることがあります。

骨盤腹膜炎として一般的な症状

強い腹痛

持続的な痛みで、動いたり腹部に圧力がかかると悪化します。ときに、鋭い痛みけいれんのような痛みとして感じられることがあります。

発熱と悪寒

感染に対する体の反応として発熱が起こり、悪寒を伴う場合もあります。

吐き気と嘔吐

炎症による胃や腸の刺激で、吐き気や嘔吐が起こることがよくあります。

排便習慣の変化

便秘や下痢が生じることがあり、ガスが排出されにくい状態になることもあります。

骨盤腹膜炎の検査・診断

骨盤腹膜炎の診断には、以下の手順が含まれます。

1. 病歴の確認

症状、病歴、最近の感染や手術歴について医師が確認します。とくに性行歴や、過去に性感染症があったかどうかは重要な情報となります。

2. 身体検査

腹部の圧痛腫れ硬直を詳しく調べます。医師は、腹部のさまざまな場所を押して痛みの場所を特定します。とくに、骨盤部の痛み圧痛を確認する目的で内診を行います。

3. 血液検査

全血球計算や炎症反応などの血液検査を行い、炎症の有無と程度を確認します。また、クラミジアや淋病などのSTIを確認するため、膣や子宮頸部からのサンプルを採取します。

4. 画像検査

腹部の臓器や感染源を可視化するため、超音波(エコー)やCTスキャンが使用されます。これらの画像技術は、膿瘍液体の溜まりがある場合に確認や排出が必要かどうかを判断するのに役立ちます。

5. 腹腔鏡検査

必要に応じて、小さなカメラを腹部の小さな切開部から挿入し、直接生殖器を確認することがあります。腹腔内から組織サンプルを採取することも可能です。PIDが慢性化したFitz-Hugh-Curtis 症候群 (FHCS)と呼ばれる慢性肝炎があると、腹壁と肝臓の間に糸を引いた粘液がみえることがあります。

早期診断が重要であり、迅速な対応が求められます。症状やリスク要因からこの状態が疑われる場合、ためらわずに医療機関を受診してください。

骨盤腹膜炎の治療

骨盤腹膜炎の治療には以下が含まれます。

抗生物質

細菌感染に対しては、広域抗生物質を静脈注射で投与することが主な治療です。感染源の特定が行われた場合は、感受性検査の結果に基づき、より適切な抗生物質が使用されることがあります。

外科手術

膿瘍がある場合や臓器が破裂している場合、感染組織の除去損傷した臓器の修復が必要です。PIDやその他の腹膜炎の原因となる疾患からの合併症がある場合も手術が行われることがあります。

支持療法

脱水症状や電解質のバランスを保つため、点滴で水分と栄養を補給します。必要に応じて、栄養サポートを行うために経管栄養が使用されることもあります。

パートナーの治療

性感染症によるPIDが原因だった場合、再感染を防ぐために性的パートナーも検査・治療が必要です。

治療を速やかに行うことで、敗血症のような命に関わる合併症の予防が可能です。

骨盤腹膜炎になりやすい人・予防の方法

骨盤腹膜炎になりやすい人

骨盤腹膜炎のリスクが高い人は以下の通りです。 若い女性 特に15歳から24歳の女性(性的に活発な年齢)は性感染症の感染率が高いため、PIDの高リスクです。 複数の性的パートナーがいる人 パートナーが多いほど、PIDの原因となる性感染症のリスクが増加します。 コンドームを使用しない人 コンドームを使用しないと、PIDを引き起こす性感染症の感染リスクが大幅に高まります。 PIDの既往がある女性 過去の性感染症によって損傷を受けた場合、骨盤腹膜炎のリスクが高まります。 腹部骨盤の手術を受けた方 骨盤部での手術後は、感染が発生するリスクが高まります。 妊婦 異所性妊娠や出産関連の感染などが原因で骨盤腹膜炎のリスクが増すことがあります。

予防の方法

骨盤腹膜炎を予防するためには、以下の点に注意することが重要です。 安全な性行為の実践 新しいパートナーと性行為を行う前に、互いに性感染症の検査を受けましょう。また常にコンドームを使用するよう心がけてください。 定期的な健康診断 性的に活発な人は、性感染症の早期発見とPID予防のため、年に1回程度の定期検診を受けることが推奨されます。

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