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子宮頸管炎
佐伯 信一朗

監修医師
佐伯 信一朗(医師)

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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。

子宮頸管炎の概要

子宮頸管炎は、子宮の入り口(子宮頸部)に起こる炎症の病気です。1984年に、男性の尿道の炎症に相当する女性特有の重要な病気として初めて認識されました。炎症は主に子宮の入り口の内側にある細胞に影響を与えますが、外側の部分にも広がることがあります。多くの場合、この病気は細菌などの感染によって引き起こされ、その多くは性行為によってうつることが分かっています。
この病気は意外と多く見られ、性感染症の診療所を訪れる女性の5人に1人から2人に1人の割合で見つかります。特に注意が必要なのは、症状がないまま気付かずに過ごしていることが多いという点です。症状がなくても放っておくと、子宮や卵管などに炎症が広がり、より深刻な病気になることがあります。また、妊婦さんの場合は赤ちゃんにも影響が出る可能性があるため、早めの発見と治療が大切です。

子宮頸管炎の原因

原因となるものは大きく感染によるもの感染以外のものに分けられます。感染による原因の中で最も多いのは性行為でうつる細菌の感染です。特に「クラミジア」という細菌が主な原因として知られており、子宮頸管炎の患者さんの10人に1人から2人に1人で見つかります。ただし、クラミジアに感染しても、実際に炎症の症状が出るのは10人に1-2人程度です。これは人によって症状の出方が違うためと考えられています。感染以外の原因としては、まず女性ホルモンの変化による影響が挙げられます。特に閉経後や出産後、極端な低体重の方は、女性ホルモンが少なくなることで炎症を起こしやすくなります。また、腟を洗うための石鹸や避妊用のゼリー、デオドラントなどの刺激物による影響で炎症が起きることもあります。さらに、体の免疫反応が原因で炎症が起こることもあります。子宮頸管炎は適切な治療を受ければ治る病気です。症状がなくても定期的な検診を受けることで、早めに発見することができます。また、症状に気づいたら、恥ずかしがらずに医師に相談することが大切です。医師は患者さんの状況に合わせて、最も適切な治療法を選んでくれます。例えば若い方や新しいパートナーができた方、パートナーが感染症と診断された方などでは、性感染症の可能性を考えながら治療を進めていきます。

子宮頸管炎の前兆や初期症状について

子宮頸管炎の症状は、多くの場合、はっきりとした特徴的な症状が現れにくいことが特徴です。ただし、症状が出る場合には、主に2つの重要な変化が見られることがあります。一つは、普段より多めのおりものが出ること、もう一つは月経以外の時期に出血が見られることです。特に性行為の後に出血が起きることがあります。また、子宮頸管炎では、医師が診察したときに特徴的な状態が見られます。子宮の入り口の部分から粘り気のある分泌物が出ていたり、その部分が触れると簡単に出血しやすい状態になっていたりします。この2つの症状は、一緒に見られることもありますし、どちらか一方だけのこともあります。特に触れると出血しやすい状態は、分泌物が出ている状態よりも多く見られます。気をつけなければならないのは、このような症状がまったく現れない「無症状」の場合が多いということです。症状がないからといって安心はできません。なぜなら、症状が出ていなくても、気づかないうちに炎症が子宮の中や卵管に広がっていき、より深刻な病気に進行する可能性があるからです。特に妊婦さんの場合は、赤ちゃんに影響が出る可能性もあるため注意が必要です。このように子宮頸管炎は、症状だけでは判断が難しい病気です。そのため、定期的な婦人科検診を受けることが大切です。また、わずかな変化でも気になることがあれば、早めに医師に相談することをお勧めします。

子宮頸管炎の検査・診断

検査は主に三つの段階で行われます。まず最初に、医師は患者さんから詳しい症状や経過についてお話を聞き、内診で子宮頸部の状態を直接確認します。これは基本的な診察ですが、とても重要な情報が得られます。次に、より詳しい検査として、顕微鏡を使って子宮頸部からの分泌物を調べます。これをグラム染色検査と呼び、炎症の程度を詳しく確認することができます。具体的には、分泌物の中に含まれる白血球という細胞の数を数えます。この数が一定以上(視野あたり30個以上)の場合、炎症があると判断されます。
さらに、原因となる細菌やウイルスを特定するための検査も行われます。例えば、培養検査では、淋菌などの細菌が実際にいるかどうかを調べます。また、より精密な検査方法として、クラミジアやマイコプラズマなどの検査も行われます。これらの検査は、細菌のDNAを探し出す最新の技術を使用しており、とても正確な結果が得られます。場合によっては、HIVや梅毒の検査も推奨されることがあります。これは、一つの性感染症があると、他の感染症も同時に存在する可能性があるためです。検査のための検体(サンプル)採取は、医師が婦人科診察台で行います。まず腟内の分泌物を綿棒で丁寧に拭き取り、その後、子宮頸管の中から別の細い綿棒で検体を採取します。この時、できるだけ2本以上の検体を採取します。これは、異なる種類の検査にそれぞれの検体を使用するためです。

子宮頸管炎の治療

まず大切なのは、どのように治療を進めるかを決める際には、患者さんの状況をしっかりと確認することです。特に若い方や、新しい生活環境の変化があった方、またはパートナーの方に感染症が見つかっている場合などでは、性感染症の可能性を考えながら治療を進めていきます。治療の中心となるのは抗生物質による治療です。原因となる菌によって使用する薬が変わってきますが、多くの場合、クラミジアという菌や淋菌という菌に効果のある薬を使います。これらの薬は、一回で治療が終わるタイプのものと、一週間程度継続して服用するタイプのものがあります。医師は患者さんの状況を見ながら、最適な薬を選んで処方します。治療を受ける際に気をつけていただきたいのは、症状が良くなってきても、処方された薬は最後まできちんと飲み切ることです。途中で治療をやめてしまうと、完治せずに症状が再び悪化する可能性があります。また、治療中に気になることがあれば、遠慮せずに医師に相談することをお勧めします。治療後の経過については、ほとんどの方は検査を受ける必要はありません。ただし、妊娠中の方や、お薬を飲み終わっても症状が続く場合は、医師に相談の上で検査を受けることがあります。これは、より慎重な経過観察が必要な場合があるためです。

子宮頸管炎になりやすい人・予防の方法

特に注意が必要なのは、若い女性、特に25歳未満の方です。また、新しい性的パートナーができた方や、複数の性的パートナーがいる方も子宮頸管炎のリスクが高くなります。さらに、過去に性感染症にかかったことがある方も要注意です。これに加えて、経口避妊薬を使用している方や子宮頸部外反のある方も、子宮頸管炎になりやすい傾向があります。予防のために最も大切なのは、安全な性行為を心がけることと定期的に婦人科検診を受けることです。特に性感染症のリスクが高いと考えられる方は、年に1回以上の検診を受けることが推奨されています。また、日常生活での注意点として、腟洗浄剤や化学的な刺激物の使用は控えめにすることが重要です。これらの製品を過度に使用すると、子宮頸部に炎症を引き起こす可能性があるためです。さらに注意していただきたいのは、パートナーの方の健康状態です。もしパートナーの方に性感染症が見つかった場合は、自分も検査を受けることが大切です。感染の可能性がある場合は、症状がなくても医師に相談することをお勧めします。
このように子宮頸管炎は、適切な予防と早期発見、そして早期治療を行うことで、重症化や合併症の発生を防ぐことができます。気になる症状がある場合や、リスクが高いと思われる場合は、ためらわずに医療機関を受診することが賢明です。定期的な検診適切な予防措置を組み合わせることで、子宮頸管炎のリスクを大きく下げることができます。


関連する病気

参考文献

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