FOLLOW US

目次 -INDEX-

中里 泉

監修医師
中里 泉(医師)

プロフィールをもっと見る
2008年宮崎大学卒業後、東京都立大久保病院にて初期研修。東京大学医学部付属病院産婦人科に入局。東京大学医学部付属病院、東京北医療センター、JR東京総合病院などの勤務を経て、現在は生殖医療クリニックに勤務。日本産科婦人科学会専門医。

黄体機能不全の概要

黄体機能不全とは、排卵後に形成される黄体から分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌期間の短縮、濃度の低下、受容する内膜側の感受性の低下などにより、黄体期の期間が10日以内となることを言います。
黄体機能不全という概念は1949年に初めて報告され、不妊や流産との関連が示唆されていますが、この疾患が単独でそれらの原因となるかはわかっていません。未だその病態の解釈について議論がなされており、明確な定義がなされておらず、過剰治療も懸念されています。
2021年のAmerican Society for Reproductive Medicine(ASRM)からのcommittee Opinionでも、不妊や初期流産の原因として黄体機能不全は注目されているものの、診断基準や処置に関する質の高い報告がなく、現状は様々な研究を積み上げている段階です。そのため、現時点での限られたデータでは、黄体機能不全の不妊の原因としての意義は明確ではないとしています。

黄体機能不全の原因

黄体機能不全の原因ははっきりとはわかっていませんが、関連する要因として、加齢、内分泌異常(多嚢胞性卵巣症候群、視床下部性無月経、21-水酸化酵素欠損症、甲状腺機能障害、高プロラクチン血症など)、摂食障害、肥満、過度の運動、著しい体重減少、ストレス、体外受精が挙げられます。
また、特発性黄体機能不全というはっきりした原因が認められないものもあります。

黄体機能不全の前兆や初期症状について

正常な黄体期の持続期間は12-14日とするのが一般的ですが、11-17日の場合もあります。黄体機能不全は、臨床的に「高温期(黄体期)が10日以内であること」と定義されますが、11日以内や、9日以内とする場合もあります。
高温期が短くなることで、月経周期が短縮したり、不正出血が生じることがあります。
上記のような症状が見られたら、産婦人科を受診しましょう。

黄体機能不全の検査・診断

これまで、黄体機能不全については様々な検査、定義が用いられてきました。

  • 月経周期、基礎体温:高温期が10日未満
  • 高温期の血中プロゲステロン濃度:高温期7日目前後で10ng/ml未満
  • 子宮内膜日付診:黄体期中期から後期の子宮内膜を採取し、得られた組織の日付と排卵日または次回月経開始日から算出した日付を比較する。両者に3日以上のずれがあると異常と診断する。診断確定には2回以上の検査が必要とされている。

しかし、上記の検査についてはそれぞれ問題があり、現状黄体機能不全を診断する明確な検査法は存在しません

① 月経周期、基礎体温

そもそも基礎体温が正確に計測できていない可能性があります。また、血中プロゲステロン値や子宮内膜組織診の成績と比較すると、黄体機能を正確に反映できているとは言えないため、検査として限界があります。

② 高温期の血中プロゲステロン濃度

排卵の6-8日後で>3ng/mlが排卵の指標とされています。ただし、妊娠していないときのプロゲステロンの正常値、妊娠時の最低値ははっきりしていません。また、プロゲステロンは黄体化ホルモンに反応して5-40ng/mlの間でパルス状に分泌される(90分間以内に8倍に増加する可能性がある)ため、1回の測定で診断は困難です。
血中プロゲステロン濃度>10ng/mlのカットオフ値については、排卵がある女性のうち、黄体期が10日未満の場合を黄体機能不全とすると、そのほとんどが10ng/mlであったというデータから基準値として設定されたという経緯があります。ただし、この基準値も通常排卵周期の31.3%において当てはまるとされており、また先に述べたパルス状分泌の問題や、周期ごとに異なることから、この基準値のみで黄体機能不全と診断することはできません。
さらに、プロゲステロンに対する子宮内膜の反応性低下が原因となっていることがあり、この場合は血中プロゲステロン濃度が正常であるにもかかわらず、着床に適した子宮内膜に変化していないことがあります。

③ 子宮内膜組織診

診断の精度を高めるために、基礎体温、LHサージ、卵胞計測などを総合して排卵日を確定させる必要がありますが、それ自体が難しく、また子宮内膜の評価は容易ではなく、評価自体も問題があるとされ、現在では検査としての意義は低いとされています。妊孕性との関連も明らかになっていません。

黄体機能不全の治療

さまざまな施設で治療が試みられていますが、現状、一般不妊治療(タイミング法や人工授精)においては、明確なエビデンスのある妊娠率を向上させる黄体機能不全の治療法はありません
背景に高プロラクチン血症や、甲状腺機能異常がある場合はそれらの治療を行います。
また、黄体補充としての厳密なランダム化比較試験はないものの、試み的な「提案されている対応処置」として、クロミフェンやゴナドトロピンによる排卵刺激法、プロゲステロン製剤投与、hCG投与などがあります。

ただし、体外受精では卵巣刺激により、下垂体からの黄体化ホルモン(Luteinizing hormone:LH)の分泌が低下し、黄体期間が短縮されるため妊娠率の低下につながると考えられています。そのため、新鮮胚移植を行う場合(採卵して得られた受精卵を一旦凍結せず、その周期内に移植する治療法)においてはプロゲステロン製剤を用いた黄体補充を行うことは有効であるとされています。2020年の欧州生殖医学会( European Society of Human Reproduction and Embryology,ESHRE)ガイドラインにおいても強く推奨されています。

上記治療において、プロゲステロン製剤の投与経路は、経腟投与の報告が多いものの、未だ最も効果的な投与経路の結論は出ていません。経口投与、筋肉注射、皮下注射、経腟投与などがありますが、臨床的妊娠率に差はないとされています。

投与開始については、採卵前、採卵日、採卵後から移植日、移植日以降など施設によりさまざまで一定の見解はありません。また、投与期間も妊娠判定までの2-3週間から、妊娠8-9週まで、あるいは妊娠12週までとさまざまです。

多施設からの報告をまとめると、採卵日以降から開始し、少なくとも妊娠判定まで継続することが推奨されますが、何週まで継続するべきかという明確なエビデンスはありません。

  • 天然型プロゲステロン






薬品表


一般名 薬品名
※筋注剤 プロゲステロン プロゲステロン注
経口 マイクロナイズドプロゲステロン 国内販売なし
膣用剤 マイクロナイズドプロゲステロン ルティナス膣錠
ウトロゲスタン膣用カプセル
ルテウム膣用坐剤
ワンクリノン膣用ゲル


  • 合成型プロゲステロン






薬品表


一般名 薬品名
※筋注剤 ヒドロキシプロゲステロンカプロン酸エステル プロゲデポー、プロゲストンデポーなど
クロルマジノン酢酸エステル ルトラール
経口 ジドロゲステロン デュファストン
メドロキシプロゲステロン ヒスロン、プロベラなど
ノルエチステロン ノアルテン


黄体機能不全の概要

黄体機能不全とは、排卵後に形成される黄体から分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌期間の短縮、濃度の低下、受容する内膜側の感受性の低下などにより、黄体期の期間が10日以内となることを言います。
黄体機能不全という概念は1949年に初めて報告され、不妊や流産との関連が示唆されていますが、この疾患が単独でそれらの原因となるかはわかっていません。未だその病態の解釈について議論がなされており、明確な定義がなされておらず、過剰治療も懸念されています。
2021年のAmerican Society for Reproductive Medicine(ASRM)からのCommittee Opinionでも、不妊や初期流産の原因として黄体機能不全は注目されていますが、診断基準や処置に関する質の高い報告が少なく、現状では黄体機能不全の不妊の原因としての意義は明確ではないとされています。

黄体機能不全の原因

黄体機能不全の原因ははっきりとはわかっていませんが、関連する要因として、加齢、内分泌異常(多嚢胞性卵巣症候群、視床下部性無月経、21-水酸化酵素欠損症、甲状腺機能障害、高プロラクチン血症など)、摂食障害、肥満、過度の運動、著しい体重減少、ストレス、体外受精が挙げられます。また、特発性黄体機能不全という原因が不明なものもあります。

黄体機能不全の前兆や初期症状について

通常、黄体期の持続期間は12-14日とされますが、黄体機能不全では高温期が10日以内と定義され、月経周期が短縮することがあります。不正出血も生じることがあります。
上記のような症状が見られる場合は、産婦人科を受診しましょう。

黄体機能不全の検査・診断

これまで、黄体機能不全の診断には以下の方法が試みられてきました。

  • 月経周期・基礎体温:高温期が10日未満
  • 高温期の血中プロゲステロン濃度:高温期7日目前後で10ng/ml未満
  • 子宮内膜日付診:黄体期中期から後期の内膜組織を検査し、排卵日などと比較し3日以上のずれがあれば異常と判断する。

ただし、これらの検査はそれぞれ問題があり、明確な診断方法は現時点では存在しません

黄体機能不全の治療

一般不妊治療において、黄体機能不全に対する治療法で明確なエビデンスがあるものはありません。背景に高プロラクチン血症や甲状腺機能異常がある場合には、その治療が行われます。
また、試み的な対応として、排卵刺激法やプロゲステロン・hCGの投与が提案されています。

体外受精では、卵巣刺激によりLH分泌が低下し黄体期が短縮されるため、新鮮胚移植時にプロゲステロン製剤で黄体補充を行うことは有効とされています。2020年のESHREガイドラインでも推奨されています。

合成型プロゲステロン
黄体補充のためには天然型プロゲステロンが主に用いられ、合成型プロゲステロンは一般的に不妊治療には使用されません。
※いずれも筋注剤は2024年時点で製造・販売が中止されています。

黄体機能不全になりやすい人・予防の方法

生理周期が短い、基礎体温で高温期が短い方は黄体機能不全である可能性があります。黄体機能不全の明確な治療法はないものの、排卵障害や内分泌疾患が隠れている場合はその治療が必要です。まずは自身の生理周期や基礎体温を把握しましょう。

参考文献

この記事の監修医師