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不育症
佐藤 綾華

監修医師
佐藤 綾華(医師)

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北海道大学医学部医学科卒業。宮城県の急性期病院で初期研修修了後、産婦人科を専攻し、宮城県の複数の総合病院で勤務したのち産婦人科専門医を取得。生殖医療分野と女性医学分野に興味を持ち、日本女性心身医学会認定更年期指導士の資格も取得。

不育症の概要

妊娠後の流産または死産を2回以上繰り返す状態を「不育症」と呼びます。
生児獲得の有無は関係なく、流産や死産が連続していない状態も含まれます。

不育症の流産は、超音波検査で胎嚢(たいのう)が確認できた後の流産を対象とします。妊娠反応が陽性で胎嚢が確認される前に流産する生化学妊娠や異所性妊娠、胞状奇胎などの絨毛性疾患は含まれません。

流産は全妊娠の10〜20%の確率で起こるため、偶発的に流産を繰り返していることも考えられます。
しかし、2回以上の流産や死産がある場合は、検査によって不育症のリスク因子を確認することがすすめられます。

不育症

不育症の原因

不育症の原因(リスク因子)は胎児や夫婦の染色体異常、抗リン脂質抗体症候群、子宮形態異常、内分泌異常などです。
妊娠初期の流産の原因は約80%が胎児(胎芽)の染色体異常ですが、流産や死産を繰り返す場合はそれ以外のリスク因子を調べる必要があります。

胎児染色体異常

胎児染色体異常は胎児が正常な染色体数や構造を持たない状態で、加齢とともに割合が上昇します。
不育症の半数は胎児染色体異常による偶発的な流産や死産によるもので、それらは治療をしなくても次回以降の妊娠の予後は良好です。

夫婦染色体異常

夫婦どちらかに均衡型転座(2〜3種類の染色体が交差した状態)などの染色体の構造異常があると、不育症につながる可能性があります。
均衡型転座があっても夫婦は健康ですが、減数分裂(染色体数が半分となる)という過程で作られる卵子や精子に染色体の過不足が生じることがあるため流産の原因になります。

抗リン脂質抗体症候群

抗リン脂質抗体症候群は血液中に特定の抗体が存在することによって引き起こされる病気で、血液の凝固異常を引き起こします。
血液の流れが遅い胎盤のまわりに血栓症が起きやすく、血管が詰まって流産や死産につながることがあります。

子宮形態異常

子宮に中隔子宮や双角子宮などの形態異常がある場合は、流産や早産を繰り返すことがあります。
中隔子宮は子宮内を隔てる壁が形成されている状態、双角子宮は子宮体部が2つの角にわかれている状態で、実際の症例は中隔子宮が最も多いです。 
これらの形態異常が起きていると、受精卵の着床障害が起きたり、胎児や胎盤を圧迫させる可能性があります。

内分泌異常

甲状腺機能の亢進症や低下症、糖尿病がある場合は、流産の可能性が高くなります。
甲状腺ホルモンは受精してできた胚の成長や、妊娠を継続させるためにはたらく黄体ホルモンに影響することから、正常値でコントロールされないと流産の原因になります。
糖尿病は高血糖によって、胎児の染色体異常が起こりやすくなります。

血液凝固異常

体内の凝固第XII因子やプロテインCおよびSが欠乏していると、血液が固まりやすくなります(血液凝固異常)。また前述の抗リン脂質抗体症候群により血液凝固異常が起こることもあります。
血液凝固異常がある方は、胎盤に血栓(血のかたまり)が生じやすくなり、胎児へ十分な栄養が運ばれず、流産や死産を引き起こすことがあります。

不育症の前兆や初期症状について

不育症の前兆や初期症状はありません。

不育症の検査・診断

2回以上の流産や死産を繰り返した場合は、胎児や夫婦の染色体異常、抗リン脂質抗体の測定、子宮の形態、内分泌の異常を調べる検査を検討します。
検査をおこなっても、リスク因子がわからないこともあります。
特に、加齢とともに胎児染色体異常による流産の割合が上昇するため、夫婦に原因が特定されない場合も多くあります。

流死産児(絨毛)染色体検査

流死産児(絨毛)染色体検査は、流産や死産したときにおこない、流死産の原因が胎児の染色体異常によるものであったか調べる検査です。
胎児の染色体異常があることが判明すれば、流産がほぼ偶発的に起こったものであると診断されます。
また、染色体異常の種類によっては両親のどちらかに均衡型転座があると推測されることもあり、その場合は夫婦の染色体検査を行うこともあります。

夫婦染色体検査

夫婦染色体検査は、採血した血液から染色体の数や構造の異常を調べる検査です。
検査をする前に遺伝カウンセリングを設けており、染色体異常があった場合、夫婦どちらかを特定せずに結果を伝達してもらう選択もできます。

抗リン脂質抗体検査

抗リン脂質抗体を測定する検査で、採血によってループスアンチコアグラントや抗カルジオリピン抗体、抗β2グリコプロテイン抗体のどれかを測定します。
12週間の期間を空けて2回検査し、どちらも陽性だった場合に抗リン脂質抗体症候群と診断します。

子宮形態検査

子宮形態の確認は、子宮に造影剤を入れてレントゲン撮影する子宮卵管造影検査と、生理的食塩水を入れた子宮を超音波で確認する子宮腔内液体注入法、2・3次元の超音波検査をおこないます。 
中隔子宮と双角子宮の鑑別には、MRI検査や3次元超音波検査が適用されます。

内分泌検査

甲状腺機能の亢進症や低下症、糖尿病のリスクを確かめるために、血液検査をおこないます。
甲状腺のホルモンの値であるFree T4やTSH、糖尿病の診断材料になる空腹時血糖やHbA1cを調べます。

血液凝固検査

血液を固まらせる働きに異常がないかを調べるために、血液検査をおこないます。
不育症と関連が深いと考えられている血栓性素因の凝固第XII因子活性、プロテインCおよびS抗原・活性などを測定します。

不育症の治療

不育症の治療は原因にあわせて、低用量アスピリン・ヘパリン療法や子宮形態の手術、内分泌異常の治療をおこないます。
原因不明や胎児染色体異常による流産や死産の場合は有効な治療がありませんが、偶発的なものである可能性が高く、次回以降の妊娠で過度の心配をする必要もありません。
しかし、加齢では流産リスクが上昇するため、高年齢の女性ほど早めに次の妊娠を考えた方が良いと考えられます。

低用量アスピリン・ヘパリン療法

低用量アスピリン・ヘパリン療法は、抗リン脂質抗体症候群に対して用いられる治療法です。
血小板のはたらきを抑えるアスピリンと、血液の凝固因子を低下させるヘパリンという2種類の薬剤を妊娠初期から投与します。

子宮形態の手術

中隔子宮や双角子宮などの形態異常がある場合では手術をおこなうことがあります。
中隔子宮に適応となるのは子宮中隔切除術で、腹部を切開する方法(開腹術)と、切開しない方法(子宮鏡下中隔切除術)があります。
双角子宮に対しては形成手術をおこない、子宮の形状を修正します。 

内分泌異常の治療

甲状腺機能亢進症では抗甲状腺剤によって甲状腺のはたらきを抑え、甲状腺機能低下症では甲状腺ホルモン製剤によって体内の甲状腺ホルモンを補充させます。
糖尿病の場合は、食事や運動などの生活指導、インスリンなどの血糖降下薬によって血糖値をコントロールしていきます。

不育症になりやすい人・予防の方法

不育症にはさまざまな原因がありますが、なりやすい人の特徴は明確にはわかっていません。
しかし、加齢(特に35歳以上)や喫煙、肥満は流産の危険因子です。

禁煙や規則正しい食事、適度な運動を日頃から心がけましょう。


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