監修医師:
阿部 一也(医師)
子宮体がんの概要
子宮体がんは、子宮に発生するがん(悪性腫瘍)です。
子宮は妊娠した際に胎児を育てる器官で、外側は筋肉で構成され、内側は内膜と呼ばれる粘膜で覆われています。子宮体がんは、内膜の一部が悪性化することによって発症します。
子宮体がんの発症には、女性ホルモン(エストロゲン)の影響が大きく関わっています。通常、子宮内膜はエストロゲンの作用を受け、妊娠に向けた環境を整えるために増殖して厚くなります。妊娠に至らなかった場合には月経が発来し、内膜は剥がれ落ちて血液と一緒に排出されます。
しかし、子宮体がんを発症する人では、肥満や閉経、ホルモン治療、遺伝的な体質などによってエストロゲンが過剰に分泌され、内膜が過度に増殖して悪性化することがあります。
病状が進行すると、がんが子宮内膜から隣接する臓器や離れた臓器にまで転移する可能性があります。子宮体がんは早期に発見できれば治療の成功率が高いとされるものの、進行すると治癒が困難になる傾向があります。
特に妊娠を希望する場合には、発見が遅れると妊娠できなくなる恐れもあるため、注意が必要です。重症化を予防するためには、早期発見・早期治療が重要です。
子宮体がんの原因
子宮体がんの主な原因は、女性ホルモンであるエストロゲンの影響です。エストロゲンは子宮内膜の増殖を促すホルモンで、過剰に分泌されると子宮内膜が異常に増殖して悪性化するリスクが高まります。
エストロゲンの分泌に異常をきたし、子宮体がんのリスクを高める要因には以下のものが挙げられます。
- 出産経験がない
- 肥満である
- 月経異常がある
- 家族内にがんを発症した人がいる
- 更年期障害や乳がんに対してのホルモン治療を受けている
- 糖尿病や高血圧がある
子宮体がんの前兆や初期症状について
子宮体がんの発症前は、エストロゲンの数値が基準値より高い状態が続き、「子宮内膜増殖症」を経てがんへと移行します。子宮内膜増殖症の段階では、一般的に不正出血や月経異常、月経痛などがみられます。
進行するにつれて足のむくみや腰痛、性行痛、下腹部の痛みなどを認めることがあります。
子宮体がんの検査・診断
子宮体がんが疑われる場合には、病理検査や身体診察、画像検査などが行われます。
病理検査
病理検査では「細胞診」や「組織診」が行われます。細胞診は腟に細い器具を挿入し、子宮内膜の細胞を採取して顕微鏡でがん細胞の有無を調べる検査です。一方、組織診では、子宮内膜を一部採取してがん細胞の有無などをさらに詳しく調べます。組織診では、子宮体がんの確定診断のほか、がんの種類を診断することもできます。
身体診察
子宮体がんの身体診察では、内診や直腸診が行われます。内診は、医師が腟の中に指を挿入し、子宮の状態や周囲の臓器との癒着がないかなどを確認する検査です。一方、直腸診では、肛門に指を挿入して子宮の状態を調べます。
画像検査
超音波検査やCT、MRI検査などが行われます。超音波検査では、腟の中に超音波を発する機器を挿入し、がんとその周辺臓器の状態を調べます。CT検査は、X線を利用して身体内部の状態を観察する検査です。子宮体がんの診断では、CTで子宮の周囲や全身を確認することで転移の有無を把握することができます。一方、MRI検査は磁気を用いて身体内部の状態を調べる検査です。子宮体がんの場合には、がんの進み具合のほか、卵巣への転移がないかなどを確認することができます。
通常のCTやMRI検査で転移の有無などを正確に調べられない場合には、がん細胞の周囲に集まる性質を持つ放射性物質を利用した「PET-CT検査」が行われることもあります。
その他
他には「子宮鏡検査」が行われることもあります。子宮鏡検査では、腟に内視鏡を挿入してがんの状態を観察します。一般的に、子宮体がんでの子宮鏡検査は病理検査と併用して行います。
子宮体がんの治療
子宮体がんの治療法には、手術療法と放射線療法、化学療法(抗がん剤治療)があります。
治療方針はがんの進行度(ステージ)や患者の年齢、健康状態、妊娠希望の有無などを考慮して決定されます。
子宮体がんのステージはⅠ期(ⅠA期・ⅠB期)・Ⅱ期・Ⅲ期(ⅢA期・B期・C1〜2期)・Ⅳ期(Ⅳ期A期・B期)に分けられます。
ステージごとの治療法は以下の通りです。
Ⅰ期〜Ⅱ期
手術が可能な場合には、第一選択として手術が考慮されます。基本的に開腹手術ですが、早期がんではロボット手術や腹腔鏡手術など身体への侵襲が少ない方法で行うこともあります。術式には、子宮と卵巣、リンパ節を摘出するものや、子宮を残して卵巣と卵管を摘出するものなどがあり、妊娠希望の有無などによって選択されます。
また、若年者の初期の子宮体がんで妊娠を希望する場合には、ホルモン療法が考慮されるケースもあります。一方、手術ができない場合には、放射線療法が考慮されます。
Ⅲ期〜Ⅳ期
Ⅲ期〜Ⅳ期でも、可能な場合には手術が考慮されます。手術ができない場合には、化学療法や放射線療法を単独で行なったり、併用して行なったりすることがあります。また、がんの進行に伴い痛みを呈する場合には、麻薬性鎮痛薬などを用いた緩和ケアも並行して行われます。
子宮体がんになりやすい人・予防の方法
子宮体がんにはエストロゲンの影響が大きく関わっているため、エストロゲンの分泌に異常をきたす要因がある人は子宮体がんになりやすいといえます。以下に該当する場合には、子宮体がん発症のリスクが高まると考えられています。
- 閉経している
- 出産経験がない
- 月経異常がある
- ホルモン治療を受けている
- 肥満である
- 家族内にがんを発症した人がいる
- 糖尿病や高血圧の既往がある
現在のところ、子宮体がん特有の検診や予防法は存在しません。
がん全体の予防としてバランスの良い食生活や禁煙、節度ある飲酒、感染予防、適正体重の維持が有効とされています。そのため、生活習慣を整えることで子宮体がんを含むさまざまながんの予防につながります。
また、子宮体がんや発症前の子宮内膜増殖症の段階では、不正出血や月経異常などの症状が現れることがあります。そのため、月経に関して何らかの異常を認めた場合には、放置せず速やかに医療機関を受診することが重要です。
参考文献