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子宮がん
阿部 一也

監修医師
阿部 一也(医師)

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医師、日本産科婦人科学会専門医。東京慈恵会医科大学卒業。都内総合病院産婦人科医長として妊婦健診はもちろん、分娩の対応や新生児の対応、切迫流早産の管理などにも従事。婦人科では子宮筋腫、卵巣嚢腫、内膜症、骨盤内感染症などの良性疾患から、子宮癌や卵巣癌の手術や化学療法(抗癌剤治療)も行っている。PMS(月経前症候群)や更年期障害などのホルモン系の診療なども幅広く診療している。

子宮がんの概要

子宮がんは女性の子宮に発症するがん(悪性腫瘍)です。子宮は入り口にあたる「子宮頸部」と、その上部に位置する「子宮体部」で構成され、それぞれに発生するがんを「子宮頸がん」「子宮体がん」と呼びます。

子宮体部は妊娠した時に胎児を育てる部位です。子宮体部の外側は筋肉で構成され、内側は内膜と呼ばれる粘膜で覆われています。子宮内膜は、女性ホルモン(エストロゲン)の働きによって増殖し、妊娠時に受精卵を着床させるよう厚みを増します。しかし、妊娠に至らなかった場合には内膜は剥がれ落ち、血液と一緒に排出されます(月経)。

子宮体がんは、子宮内膜から発生するため「子宮内膜がん」とも呼ばれています。発症にはエストロゲンの影響が大きく関わっており、出産経験のない人や無排卵月経がある人は発症リスクが高まると考えられています。進行すると、がん細胞が内膜から子宮頸部や腟、卵巣などの隣接臓器や、肺などの離れた臓器まで移行し、腫瘍が転移することがあります。

一方、子宮頸部は妊娠した時に胎児が通過する部位です。子宮頸がんのほとんどは「ヒトパピローマウイルス」というウイルスへの感染が原因で発症します。子宮頸がんは子宮がん全体の約70%を占め、国内では年間1万人に発症し、そのうち3000人の人が亡くなっています。
(出典:公益社団法人日本産婦人科学会 「子宮頸がん」)

いずれの子宮がんも増加傾向にあり、進行することで妊娠が望めなくなったり命に関わったりする恐れがあります。そのため、発症予防のための感染対策や早期発見・早期治療が重要です。
子宮がん

子宮がんの原因

子宮がんの原因は子宮体がん・子宮頸がんで異なります。

子宮体がん

子宮体がんには、ホルモンの影響が関わって発症するものと、その他の原因で発症するものがあります。

ホルモンが関与するものは、エストロゲンの数値が高く、子宮内膜が過剰に増殖することが原因で発症します。出産経験がない人や「無排卵性月経」などの月経異常がある人、肥満の人、更年期障害のホルモン補充療法や乳がん治療のホルモン療法を受けている人は発症リスクが高まります。

ホルモン以外の原因で発症するものには、遺伝子の異常や糖尿病、高血圧、家族内にがんを発症した人がいることなどが挙げられます。

子宮頸がん

子宮頸がんはほとんどがヒトパピローマウイルス感染によって発症します。ヒトパピローマウイルスは性行為によって伝播するウイルスで、男女ともに感染します。

通常、ヒトパピローマウイルスに感染しても、免疫機能によって排除されます。しかし、全体の約10%の人では感染状態が持続し、子宮頸がんを発症することがあります。
(出典:公益社団法人日本産婦人科学会 「子宮頸がん」)

子宮がんの前兆や初期症状について

子宮体がんでは、エストロゲンの数値が高い状態が続き、子宮内膜が過剰に増殖して厚くなる「子宮内膜増殖症」という段階を経て発症します。子宮内膜増殖症では、月経痛や月経異常、不正出血などを認めます。

一方、子宮頸がんは、発症前の「異形成」という段階を経て発症します。発症初期にはほとんどが無症状で経過し、進行するにつれて不正出血や性行時の出血、腹痛などがみられます。

子宮がんの検査・診断

子宮がんが疑われる場合には、それぞれ以下のような検査が行われます。

子宮体がん

子宮内膜の一部を採取し、がん細胞の有無や広がりを顕微鏡で調べる「病理組織検査」が行われます。子宮体がんの発症が認められた場合には、腫瘍の位置や転移の有無などを把握するために、医師が腟や肛門に指を挿入し、内部の状態を調べる「内診・直腸診」や、超音波検査、CT検査、MRI検査などが行われることもあります。

子宮頸がん

子宮頸部の細胞を綿棒や専用のブラシで採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を調べる「細胞診」が行われます。異形成や子宮頸がんが認められた場合には、ヒトパピローマウイルスへの感染を調べる「ハイリスクHPV」という検査を行うこともあります。子宮頸がんと確定診断された場合には、子宮体がんと同様に腫瘍の位置や転移の有無などを把握するため内診・直腸診や、超音波検査、CT検査、MRI検査などが行われます。

子宮がんの治療

子宮がんでは、進行度(ステージ)や年齢、妊娠希望の有無などを考慮のうえ治療法が選択されます。

子宮体がんのステージは、Ⅰ期(ⅠA期・ⅠB期)・Ⅱ期・Ⅲ期(ⅢA期・B期・C1〜2期)・Ⅳ期(Ⅳ期A期・B期)に分けられます。

一方、子宮頸がんのステージは、Ⅰ期(ⅠA1〜2期、ⅠB1〜3期)・Ⅱ期(ⅡA1〜2期、ⅡB期)、Ⅲ期(ⅢA期・B期・C1〜2期)・Ⅳ期(Ⅳ期A〜B期)に分けられ、それぞれ以下のような治療が選択されます。

子宮体がん

子宮体がんの治療には、手術、抗がん剤治療、放射線治療の3つがあります。一般的に、手術が可能であれば、子宮・卵巣・リンパ節を切除する術式が考慮されます。近年では、早期がんにおけるロボット手術や腹腔鏡を用いた手術など身体への侵襲が少ない手術も行われています。

一方、手術を行なってもがんを取り除くことが困難な場合などは、抗がん剤治療や放射線治療が考慮されます。妊娠を希望する場合には、子宮を温存するためホルモン剤での治療が考慮されるケースもあります。ただし、ホルモン剤での治療は発症初期の一部の子宮体がんのみが適応となります。

子宮頸がん

子宮頸がんの治療では、手術・抗がん剤治療・放射線治療を単独または併用で行われます。

子宮頸がんを発症する前の「高度異形成」の段階や、ステージがⅠA1期の場合には、一般的に手術の適応となります。妊娠の希望がある場合には、子宮の入り口付近のみを切除する術式(子宮頸部円錐切除術)が考慮されます。異形成の段階では、患部をレーザーで焼く治療が行われるケースもあります。一方、妊娠の希望がない場合には、子宮を摘出する術式(単純子宮全摘術)が考慮されます。

ステージⅠA2期〜2B期の場合には、子宮や腟の一部、卵巣、リンパ節などを広範囲に切除する術式(広範子宮全摘術)が考慮されます。妊娠の希望があり、可能な場合には子宮体部を残して子宮頸部とその周囲のみを摘出する術式(広範子宮頸部切除術)が選択されることもあります。

手術を希望しない場合には、放射線治療を単独で行なったり、放射線治療と抗がん剤治療を併用して行なったりすることもあります。

ステージⅢ期・Ⅳ期、再発した時の治療では、一般的に手術は行わず、抗がん剤治療や放射線治療を単独で行なったり、併用して行なったりする治療が考慮されます。病状が進行したことで痛みなどの苦痛を伴う場合には、麻薬などを用いた緩和治療が行われることもあります。

子宮がんになりやすい人・予防の方法

以下のような人は子宮がんになるリスクが高まります。

  • 出産経験がない
  • 月経異常がある
  • ホルモン治療を受けている
  • 肥満である
  • 家族内にがんを発症した人がいる
  • ヒトパピローマウイルスに感染している

今のところ、子宮体がん特有の検診や予防法はありません。

しかし、がん全体の予防としてバランスの良い食生活や節度ある飲酒、禁煙、適正体重の維持、感染予防が有効といわれています。また、不正出血などの異常を認めた場合には、速やかに医療機関を受診することで子宮体がんの早期発見と早期治療につながります。

一方、子宮頸がんには検診があり、原因となるヒトパピローマウイルスの感染を予防するためのワクチンも存在します。一度でも性行為をしたことがある人は、定期的に子宮頸がんの検診を受けることが推奨されています。


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