

監修医師:
柿崎 寛子(医師)
目次 -INDEX-
トキソプラズマ性網脈絡膜炎の概要
トキソプラズマ性網脈絡膜炎は、トキソプラズマが目の網膜と脈絡膜に感染して生じる目の疾患です。
網膜や脈絡膜に炎症が起きると、視力低下やかすみ目、飛蚊症(ひぶんしょう:小さなごみのようなものが見える)や目の痛み、まぶしさなどの症状が生じます。
トキソプラズマ性網脈絡膜炎は母親から胎児に感染する「先天性トキソプラズマ性網脈絡膜炎」と、生まれた後に感染する「後天性トキソプラズマ性網脈絡膜炎」に大別されます。
早期に治療を受ければ症状の改善が期待できますが、適切に治療しなければ重い視力障害につながる可能性があるため、少しでも目の症状を感じたら医療機関を受診しましょう。
トキソプラズマ性網脈絡膜炎の原因
トキソプラズマ性網脈絡膜炎は、トキソプラズマという病原体が目に入り、網膜や脈絡膜に感染することで発症します。ネコ科の動物が宿主(しゅくしゅ)で、多くの哺乳類や鳥類などの生物に感染する特徴があります。
感染経路の1つに、妊娠中の女性がトキソプラズマに感染し胎盤を通じて胎児に感染する「先天性感染」があります。
胎児期に感染すると目の疾患を抱えた状態で生まれてきたり、生後しばらくして症状が現れたりすることがあります。
一方、トキソプラズマに感染した動物の肉を生や加熱不十分な状態で食べることなどが原因による「後天性感染」もあります。
後天性感染には他にも、トキソプラズマに感染したネコの糞便に含まれる虫卵で汚染された土や水からの感染も原因として挙げられます。
過去に感染したトキソプラズマが休眠状態となり、免疫力が低下したときなどに再び活性化して発症するケースもあります。
トキソプラズマ性網脈絡膜炎の前兆や初期症状について
トキソプラズマ性網脈絡膜炎は感染経路によって先天性と後天性に分けられ、どちらにも共通する初期症状がいくつかみられます。
共通する症状
一般的な初期症状として視力障害や霧視(むし:視界がかすむこと)、眼痛や飛蚊症(ひぶんしょう:小さな黒い点や糸くずのようなものが視界に浮かぶこと)、羞明(しゅうめい:光をまぶしく感じること)や流涙(りゅうるい:涙が流れてくること)などがあります。
先天性の場合
先天性の場合、眼球が揺れ動く眼振(がんしん)や目が斜めを向く斜視(しゃし)、眼球が通常より小さい小眼球症(しょうがんきゅうしょう)を生じることがあります。
とくに視力を司る黄斑部と呼ばれる部分に炎症が及ぶと、視力の著しい低下を招くことがあります。
これらの症状は両眼に現れることがほとんどで、生まれつき症状がある場合と数年後に症状が現れる場合があります。
後天性の場合
後天性の場合も、主な症状は先天性のトキソプラズマ性網脈絡膜炎と同様ですが、片方の目に症状が出る特徴があります。
トキソプラズマ性網脈絡膜炎の検査・診断
トキソプラズマ性網脈絡膜炎は、問診をはじめ目の検査や血液検査などによって診断します。
目の検査
目の検査では主に眼底検査をおこないます。専用の検査機器で網膜や脈絡膜を観察し、トキソプラズマ性網脈絡膜炎の特徴とされる黄斑部の病変の有無を確認します。
血液検査
血液検査でトキソプラズマに対する抗体を調べ、感染の有無を評価します。
h3:その他 よりくわしい検査が必要な場合、目から少量の液体(前房水や硝子体液)を採取し、PCR法でトキソプラズマのDNAを検出する検査をおこなうこともあります。
なお、診断において似た症状を示すほかの目の疾患との鑑別が重要です。
これらの検査結果や所見を総合的に判断し、適切な治療につなげることが求められます。
トキソプラズマ性網脈絡膜炎の治療
トキソプラズマ性網脈絡膜炎は、病変が小さく視力に大きな影響がない場合は、経過観察をおこなうこともあります。一方で視力に大きく影響が出ている場合や炎症が強い場合は積極的に治療します。
基本的な治療は抗トキソプラズマ薬の内服です。現在広く扱われている薬剤は、トキソプラズマの増殖を効果的に抑えられるため、眼科領域での第一選択薬となっています。
数週間内服し、経過によってはほかの薬剤を併用することもあります。
また、トキソプラズマ性網脈絡膜炎は免疫不全状態(エイズなど)の場合において重症化しやすい傾向があるため、より積極的な治療や慎重な経過観察が必要です。
トキソプラズマ性網脈絡膜炎になりやすい人・予防の方法
トキソプラズマ性網脈絡膜炎になりやすいのは何らかの理由で免疫機能が低下している人です。
HIV感染症やエイズを患っている場合や免疫抑制剤を服用している場合、がんの治療中などはトキソプラズマ感染が重症化し、網脈絡膜炎として現れる可能性があります。
また、妊娠中の女性は、胎児に感染が及ばないよう、十分に注意が必要です。
妊娠前や妊娠初期にトキソプラズマ抗体検査を受けて、免疫があるかどうかを確認することが、胎児の先天性トキソプラズマ症の予防につながります。抗体がない場合は感染予防を徹底することが重要です。
これらを踏まえて、主に食品からの感染やペットからの感染を予防することが重要です。
h3:食品からの感染予防 予防の基本は食肉の適切な取り扱いです。生肉や加熱不十分な肉の摂取は避け、中心部まで十分に加熱することが大切です。また、生肉を処理した後は調理器具をよく洗浄し、手洗いも忘れないようにしましょう。
h3:ペットや周囲の環境からの感染予防 ネコを飼っている場合、猫砂などの処理に注意が必要です。トキソプラズマに感染したネコの糞便には、トキソプラズマの卵が含まれることがあります。妊娠中はなるべく他の人に掃除をお願いし、自身で掃除する際は手袋を使用し、掃除後は必ず手を洗いましょう。
また、屋外の砂や土にトキソプラズマに感染した猫の糞便が混入している可能性もあります。
ガーデニングや土いじりの際は手袋を着用し、作業後はよく手を洗いましょう。野菜や果物はよく洗ってから食べることも重要な予防策です。
関連する病気
- 先天性トキソプラズマ症
- 後天性免疫不全症候群




