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糖尿病網膜症
栗原 大智

監修医師
栗原 大智(医師)

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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。

糖尿病網膜症の概要

糖尿病網膜症は糖尿病の三大合併症の一つで、網膜の血管に障害が生じる疾患です。 自覚症状がないまま進行し、最悪の場合、失明にいたることもあります。 糖尿病を放置すると、細い血管を傷つけます。しかし痛みなどはありません。血糖をコントロールしなければ静かに病状が進行し、ある日突然視力障害を起こします。 そのため、糖尿病と診断された方は自覚症状がなくても定期的に眼科を受診し、早期発見・早期治療に努めることが重要です。

糖尿病網膜症の原因

糖尿病網膜症を含め、糖尿病が原因で発症する疾患を糖尿病合併症と呼びます。 糖を多く含む血液は血管を傷つけ、炎症を起こし血管を塞いでしまいます。 血管が詰まり、臓器に十分な血流が流れなくなることで合併症を引き起こします。脳の血管を傷つければ脳梗塞や脳出血、腎臓の血管が詰まると糖尿病性腎症を起こし、足指に起これば足指の壊死など、合併症は全身におよびます。 糖尿病網膜炎は目のいちばん奥にある網膜の血管を詰まらせ、出血し、やがて失明にいたらせます。網膜は光を画像にして脳へ届ける重要な器官で、網膜が機能しなければ目に入った光を映像化することができません。 特に眼球の血管は細い毛細血管で、すぐに詰まってしまいます。 血管が詰まり、酸素と栄養不足に陥ると、それを補うために新しい血管(新生血管)を伸ばします。新生血管はとてももろく、すぐに破れ出血してしまいます。 眼球内で出血する、増殖膜という異常な膜が生まれ、網膜を引っ張り剥離を起こす(牽引性網膜剥離)など、深刻な症状を引き起こします。 血糖コントロールがうまくいかなければ5~10年ほどで発病します。自覚症状が出た時点で重症化していることも珍しくありません。

糖尿病網膜症は、進行度に応じていくつかの病期に分類されます。

  • 単純糖尿病網膜症
  • 前増殖糖尿病網膜症
  • 増殖糖尿病網膜症
上記の段階を踏み、症状が悪化します。

初期段階の単純糖尿病網膜症では、高血糖によって網膜の毛細血管が障害され、点状または斑状の出血、血液中のたんぱく質や脂質が網膜に沈着することがあります(硬性白斑)。 光を視神経に伝達する黄斑部に出血がなければ自覚症状はありません。しかし黄斑部にトラブルがあると、この時点で視力が悪化することがあります。 血糖管理ができれば症状が改善することもあります。

病状が進行すると前増殖糖尿病網膜症になります。毛細血管が広い範囲で詰まり、網膜の神経細胞に酸素や栄養が行き届かなくなります。新しい血管を作る準備が始まり、かすみ目の症状が出ることがあります。しかし自覚症状がないことも珍しくありません。

さらに進行すると増殖糖尿病網膜症になります。血糖コントロールをしても、この段階になると症状の悪化が止まらなくなります。(④参照)硝子体出血や網膜剥離を起こし、急激な視力低下などの自覚症状が現れることがあります。手術をしても視力の回復が難しいことがあります。

糖尿病網膜症の前兆や初期症状について

糖尿病網膜症は原則、重症化するまで自覚症状がありません。そのため自覚症状が出る前に糖尿病を見つけ、眼科を受診する必要があります。 糖尿病が見つかるきっかけの一つは定期検診です。定期検診で血糖値の数値悪化を指摘されたら、ただちに内科を受診してください。できれば内分泌科、糖尿病科を標榜する医療機関をおすすめします。

糖尿病の診断がつき次第、眼科を受診します。総合病院では、そのまま院内の眼科で眼底検査を受けることもあります。 定期検診の眼底検査で異常が見つかることもあります。異常が指摘されたら、ただちに眼科を受診してください。

糖尿病網膜症の検査・診断

糖尿病網膜炎の検査、診断は眼底検査です。より詳しく診るために網膜の血管造影を行うこともあります。

眼底検査

瞳孔を通して、眼の奥にある網膜の血管や視神経を観察する検査です。 散瞳薬を点眼して瞳孔を広げ、詳細な観察を行います。微細な出血や血管の異常を確認できますが、新生血管などは見えにくい傾向があります。

蛍光眼底撮影(フルオレセイン蛍光眼底造影)

眼底検査の一種で、フルオレセインという蛍光色素を腕の静脈から注入して、網膜の血管を造影します。 蛍光色素が毛細血管瘤や血管の閉塞、新生血管の有無など、網膜の詳細な血管を浮かび上げ、より詳細に観察しやすくなります。

糖尿病網膜症の治療

糖尿病網膜症は、糖尿病を改善しなければほとんど効果がないとされています。糖尿病治療と、網膜症を悪化させない治療が欠かせません。

血糖コントロール

軽度から重度まで、すべての段階で必要な治療です。治療は内科(内分泌科、糖尿病科)で行います。食事療法、運動療法、血糖降下薬やインスリンの処方などを複合的に行い、適正な血糖値を目指します。 特に初期症状では血糖コントロールが重要で、血糖値が十分に下がれば病状が改善することもあります。

レーザー光凝固療法(網膜光凝固術)

レーザーを網膜にあて、血管を凝固させて出血を防ぎます。新しい血管の発生を抑え、すでにできた異常な血管を減らす効果があります。レーザーをあてた部分の網膜はダメージを受けますが、病気が進行して失明をするリスクを大幅に下げる治療です。 前増殖糖尿病網膜症の段階で行うと効果が高く、病気の進行を抑えます。外来通院で治療でき、点眼麻酔で行います。

硝子体(しょうしたい)手術

レーザー治療でも病気の進行を止められなかった場合や、すでに網膜剥離や硝子体出血が起こってしまった場合に行います。 目に小さな穴を開け、そこから細い手術器具を入れて行う繊細な手術です。目のなかの出血や異常な組織を取り除き、はがれた網膜をもとに戻します。高度な手術のため入院で行われることが多いです。

糖尿病網膜症になりやすい人・予防の方法

糖尿病の患者さん、特に血糖値コントロールが悪い患者さんは糖尿病網膜症のリスクが大変高いといえます。ほかの合併症リスクも上がるため、日々の血糖コントロールが欠かせません。 内科と眼科が連携して、悪化を食い止める必要があります。

糖尿病の罹患期間が長いほど、網膜症のリスクが高まります。血糖コントロールが不良な状態が続くと網膜の血管にダメージを与え、網膜症の進行を促進します。 高血圧を放置すると網膜の血管に追加の負担をかけ、網膜症のリスクを高めます。高脂血症になると血管内にプラークが付着し、高血圧を引き起こします。これらの治療も併せて行います。

予防方法はただ一つ、血糖値の適切な管理です。 医師の指導のもと、食事療法や運動療法、薬物療法を組み合わせて、血糖値を適切な状態まで下げ続けることで、リスクを大幅に減らせます。 血圧や脂質管理も重要です。脂っこいものはなるべく控え、日々の生活に適度な運動を取り入れましょう。 定期的な眼科検診も欠かせません。糖尿病と診断されたら、たとえ自覚症状がなくても定期的に眼科検診を受けましょう。早期発見、早期治療につながり、視力低下を防ぐことができます。

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