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眼内異物
栗原 大智

監修医師
栗原 大智(医師)

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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。

眼内異物の概要

眼内異物とは、外傷によって角膜(黒目を覆う透明な膜)や強膜(白目の一部)が破れて眼球内部に異物が入り込み、残っている状態を指します。
例えば、金属片や木片、ガラス片などが高速で飛来し、目に突き刺さることで発生します。多くは作業中の事故や飛び散ったものが目に入ることで発症します。眼球内に異物が残ると眼球内部の組織が損傷され、重篤な感染症(眼内炎など)を起こすリスクもあり、適切な治療が行われない場合は失明に至る恐れもあります。そのため、眼内異物は眼科の緊急疾患に位置づけられ、早期発見と早期治療が視力を守る上で重要になります。

眼内異物の原因

眼内異物は主に職場や日常生活での事故によって発生します。
特に、金属加工や工事現場などで金属片が目に入るケースが頻繁に報告されています。
例えば、草刈機の金属刃が石に当たった際の破片や、ハンマーで釘やコンクリートなど硬い物を叩いた際に生じる火花状の鉄片は高速になることがあり、その破片が眼球に突き刺さることがあります。

また、ドリル作業中の切削片や粉塵、工場の爆発事故による飛散物なども原因となります。金属以外にもガラス片(例えば、破裂したガラス容器や事故時の飛び散ったガラス)、木片や植物のとげ(庭仕事中の木の破片や植物の枝)、さらにはまれに睫毛やプラスチック片などさまざまな異物が眼内に侵入しえます。眼内異物事故は若年から中年の男性労働者に多く、保護具なしでの金属作業が大きな危険因子となっています。

眼内異物の前兆や初期症状について

眼内異物の症状は異物の大きさや位置によってさまざまですが、一般的には以下のような症状が現れます。

異物感や目の痛み

目にゴロゴロする異物感や刺すような痛みが生じます。受傷直後の数時間は、角膜の擦り傷や表面の小さな異物が入った場合と似た症状になることもあり、強い異物感や流涙(涙が出る)、充血といった症状もみられます。

視力低下

異物が水晶体や網膜を傷つけたり、眼内で出血が起こった場合などには、急激な視力低下を自覚することがあります。特に、網膜剥離や硝子体出血を伴うと視界を遮るため、かすんで見えるようになります。

眼からの液体漏出

角膜や強膜に開いた傷が大きいと、眼球内から透明な液体(房水や硝子体液)が漏れ出ることがあります。ただし、異物が小さい場合や傷口が小さい場合は漏出がわずかで気づかないこともあります。

嘔気や嘔吐

受傷からしばらく経過して眼球内の圧力(眼圧)が上昇してくると、眼痛がさらに増強し、時に吐き気や嘔吐をもよおすこともあります。これは外傷による眼内の炎症や出血で眼圧が急激に上がるためです。

作業中や事故後に、このような症状があれば眼内異物の可能性があります。その場合はできるだけ速やかに眼科を受診するようにしましょう。夜間や休日であっても決して放っておくのではなく、受診可能な眼科を探すようにしましょう。
ただし、目以外にケガをしている場合はその対応が優先される場合もあるため、救急診療科を受診することも選択肢として挙げられます。

眼内異物の検査・診断

迅速な診断のため、眼内異物が疑われる場合は速やかに眼科医の診察を受けることが重要です。
診察ではまず視力検査と眼圧検査を行い、その後細隙灯顕微鏡(スリットランプ)という特殊な顕微鏡を用いて、目の表面や前房(角膜と虹彩の間の空間)を詳しく観察します。
傷がある場合には、フルオレセインという蛍光色素の目薬を用いた検査を行い、傷口からの液体漏出や眼球表面の状態を確認します。
眼球表面に付着している異物があれば可能な範囲でその場で除去します。

次に眼底検査を行います。瞳孔を開く目薬(散瞳薬)を点眼して水晶体や網膜まで眼球内部を調べ、異物がないか、網膜剥離などの合併症が起きていないか確認します。外傷による白内障の有無も評価します。

さらに、画像診断によって異物の位置や性状を特定します。眼球の超音波検査(Bモードエコー)、CT検査などを行います。中でもCTは眼内異物の検出に有用で、ある研究では最大95%の症例で異物を描出できたとされています。一方、異物が金属の可能性がある場合にはMRI検査は実施することができません。これはMRIの強い磁力で金属片が動いてしまい、眼内でさらなる損傷を招く恐れがあるためです。

これら検査結果を総合して診断が確定したら、眼内異物の治療方針を決定します。

眼内異物の治療

感染対策および対症療法

まず感染予防のため、広範囲の細菌に効果を持つ抗生物質の点滴静脈注射を開始します。併せて抗菌薬の点眼も行います。さらに、外傷による破傷風を予防するため、破傷風トキソイド(ワクチン)の筋肉注を行うこともあります。
痛みが強かったり吐き気がある場合は鎮痛薬や制吐薬で症状を和らげ、患者さんが無意識のうちに目をこすったり圧迫したりしないよう眼帯や眼球シールドを用いて眼を保護します。こうした初期対応により感染拡大や二次被害を防いだ上で、できるだけ早く異物摘出に移ります。

異物の摘出手術

眼内に入った異物は可能な限り速やかに手術で摘出します。異物の位置によって手術方法は異なりますが、角膜や前房内にある場合は角膜切開など前方からの手術で異物を取り出します。異物が水晶体まで達している場合には、濁ってしまった水晶体(外傷性白内障)を手術で摘出し、必要に応じて眼内レンズの挿入も同時に行います。
硝子体や網膜まで異物が入り込んでいる場合は、硝子体手術によって異物を除去します。手術の際、網膜剥離を合併していれば網膜復位術硝子体出血があればその除去など、損傷に応じた追加の処置も同時に施します。
手術後は異物による感染の危険が残っているため、抗菌薬の投与を継続し感染予防に努めます。また術後の炎症や眼圧上昇を抑えるため、抗炎症剤や眼圧降下剤の点眼治療が行われることがあります。

適切な治療介入により、多くの場合は視力の温存および回復が期待できます。ただし、網膜や視神経の損傷が大きい場合、治療後も視力低下などの後遺症が残る恐れがあります。

眼内異物になりやすい人・予防の方法

眼内異物は一度起これば重大な視力障害につながりかねないため、予防が何より重要です。職場や家庭で危険作業を行う際には、保護メガネやゴーグル、フェイスシールドなど適切なアイシールドを必ず着用して目を防護してください。

金属を削ったり打ち付けたりする作業、草刈り機やチェーンソーの使用、釘抜き作業、砕石作業などでは小さな破片が飛ぶリスクが高いため、防護具なしで作業しないことが大切です。

また、野外作業で木の枝が跳ねたり砂利が飛ぶような状況でも目を守る工夫をしましょう。実際、目の外傷の大半は予防が可能であり、スポーツや職業現場で適切なアイガードを使用するだけで大幅にリスクを減らせると報告されています。

日常生活でも子どもに危険物の取り扱いを教える、防護ネットを設置するなど環境を整えることで、眼内異物の事故を未然に防ぐことができます。もし目に強い衝撃を受けた場合や異物が入った疑いがある場合は、自分で無理に取り除こうとせず直ちに眼科を受診してください。適切な予防と迅速な対応によって、大事な視力を守ることができます。

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