

監修医師:
栗原 大智(医師)
目次 -INDEX-
眼瞼裂傷の概要
眼瞼裂傷とは、眼瞼(まぶた)に生じた裂傷(切り傷)のことです。
何らかの衝撃でまぶたの皮膚や組織が裂けてしまった状態を指し、目の外傷の一種です。まぶたには毛細血管が豊富にあるため、裂傷が起こると出血が多く見られるのが特徴です。実際、目の周りの外傷では眼球そのものよりもまぶたが切れるケースの方が多く、眼瞼裂傷は起こりやすい眼のケガと言えます。
ある報告では、まぶたの外傷はすべての眼外傷の約10%を占めるともされています。まぶたは本来目を保護するための構造であり、とっさのときには瞬きをして眼球へのダメージを和らげます。そのため軽度の衝撃であれば眼瞼裂傷のみで眼球は無事ということも多くあります。しかし、衝撃が強い場合や鋭利な物による外傷では、まぶたの裂傷と同時に眼球や眼窩(眼の周囲の骨)にも損傷が及ぶことがあります。眼瞼裂傷は程度によっては視力やまぶたの機能に影響を及ぼすことがあるため、適切な治療と対処が重要です。
眼瞼裂傷の原因
眼瞼裂傷の多くは外傷に伴うものです。日常生活からスポーツまでさまざまな状況で起こり得ます。例えば、転倒して地面や家具に顔をぶつけたり、喧嘩で拳が当たったり、ボールが顔面に直撃したりしてまぶたが引き裂かれるケースがあります。また、割れたガラス片や金属片がまぶたに刺さったり、ナイフやカッターなど刃物で誤って切ってしまったりすることもあります。統計的には眼瞼裂傷は若い世代の男性に多い傾向が報告されています。
一方、医原性(医療行為に伴う偶発的な損傷)による眼瞼裂傷はまれですが、可能性はゼロではありません。例えば、眼瞼の手術中に意図しない切開が入ってしまったり、眼の処置中に器具でまぶたを傷つけてしまったりすることがあります。
眼瞼裂傷の前兆や初期症状について
典型的な症状として、まず出血が起こります。まぶたの血流は豊富なため、裂傷部位から出血することがあります。次に腫れと皮下出血が起こります。傷の周囲が腫れて赤く膨らみ、いわゆる青あざのような内出血が生じることもあります。
傷が大きい場合や上まぶたの筋肉まで達する場合には、まぶたが垂れ下がる(眼瞼下垂)症状やまぶたの重さで目が開けにくい状態になることもあります。また、傷が目頭側(鼻側)で涙の排出路に近いと、涙が常にあふれる(流涙)状態になることもあります。
痛みも伴いますが、まぶた自体の痛覚は鋭敏ではないため、出血や見た目の変化ほど強い痛みを感じない方も少なくありません。
このような症状があれば眼科を受診するようにしましょう。ただし、外傷に伴うことが多いため、頭や顔などほかの場所にもケガをしている場合は救急診療科を受診するようにしましょう。
眼瞼裂傷の検査・診断
眼瞼裂傷が疑われる場合、眼科では下記のような検査を行い、診断をします。
問診と視診
何で切ったか、どの方向からどの程度の力が加わったか、眼鏡の破片が入った可能性はあるかなど、どのような状況でケガをしたのかを詳しく問診します。次に視診としてまぶたと眼の状態を観察します。出血の量や傷の位置・深さを確認し、必要に応じて細隙灯顕微鏡という眼科用の顕微鏡を用いて詳しく調べます。同時に眼球自体の損傷の有無を確認する検査も行います。
画像検査
眼瞼裂傷では、眼窩にある骨の骨折や異物の混入を伴うこともあるため、追加の検査としてレントゲンやCT検査を行うことがあります。また、CT検査では骨折などの確認と同時に、傷口にガラス片などの異物が残存していないかも確認できます。裂傷が深く眼球内の損傷が疑われる場合や、軟部組織の評価が必要な場合にはMRI検査を行うこともあります。ただし、金属片が目に入っている疑いがある場合はMRIは行えません。
通水検査
眼瞼裂傷が目頭側にある場合や、受傷直後から涙が止まらない場合には涙道(涙の通り道)の損傷が疑われます。その場合、通水試験といって生理食塩水を涙点から注入し、鼻に抜けるかを確認する検査などを行います。下まぶた・上まぶたのいずれかの涙小管が断裂していると通水が途中で漏れ出たり、鼻に抜けなかったりするため、診断の参考になります。
眼瞼裂傷の治療
眼瞼裂傷はその程度と合併症に応じて治療は異なります。
止血と洗浄
眼瞼裂傷の治療では、まず止血と創傷部位の洗浄を行います。清潔なガーゼや布で傷口をしっかり圧迫し、出血を止めます。同時に、生理食塩水や希釈した消毒液で傷口を十分に洗浄し、砂やガラス片などの異物が入り込んでいないか確認し、あれば除去します。
手術治療
裂傷が小さく浅い場合は、まぶたの皮膚を数針縫合するだけで治療できます。一方、傷が深い場合は複数層にわたる縫合が必要です。皮膚の下の筋肉層や瞼板(まぶたの支持組織)まで達している裂傷では、それぞれの層ごとに解剖学的に正しい位置で縫い合わせます。眼瞼裂傷が重症である場合は、術後の整容面を考慮して形成外科医や眼形成外科医による治療を行います。そして、感染予防のため、抗菌薬の眼軟膏や点眼薬、場合によっては内服薬が処方されることもあります。
涙小管チューブ挿入術
眼瞼裂傷が涙小管に及んでいた場合には、涙小管チューブ挿入術と呼ばれる処置を行います。シリコンなどでできた細いチューブを涙の通り道に置き、断裂した涙小管の両端を繋いで固定する方法です。こうすることで涙の通路を確保し、組織の自然治癒を待つことができます。涙小管の断端は時間が経つと瘢痕組織の中に埋もれてしまい見つけにくくなるため、できるだけ早期(受傷後できれば48時間以内)に涙道再建を行うことが望ましいとされています。
眼瞼裂傷になりやすい人・予防の方法
眼瞼裂傷は不慮の事故で起こることが多いものの、いくつかの対策で発生リスクを減らすことが可能です。以下に日常生活で注意すべきポイントを挙げます。
スポーツ時の目の保護
スポーツ中は予期せぬボールの直撃や接触プレーによる眼のケガが起こり得ます。野球やソフトボール、テニス、バドミントンなどではボールやシャトルが高速で飛び、まぶたを含む顔面に当たります。
こうしたスポーツによる外傷から目を守るため、保護メガネの着用が推奨されます。実際、適切な保護メガネを使用することでスポーツ中の眼のケガの90%は防げるとも言われています。プロの競技でもゴーグルをかけてプレーする選手もおり、安全のためにぜひ習慣づけたい対策です。
高齢者の転倒防止
高齢になると転倒による顔面のケガが増えます。家の中では段差を無くしたり手すりを設置したりして転ばない工夫をしましょう。
夜間は照明を十分につけ、暗い中でつまずかないようにします。
眼瞼裂傷は眼鏡の破損に伴って生じることも多いので、普段から割れにくい素材の眼鏡レンズ(ポリカーボネート製など)を選ぶのも有効です。たとえ転倒してもレンズが飛び散りにくく、眼瞼裂傷リスクを下げられます。
作業時の安全対策
工具を使うDIY作業や草刈り機の使用などでは、防護メガネやフェイスシールドで目を保護してください。金属の破片や小石が飛んで顔に当たる事故を防げます。
職場でも危険物を扱う際は必ず保護具を着用しましょう。
また、自動車に乗る際はシートベルトを正しく締め、エアバッグ作動時に身体が前方へ投げ出されないようにすることも重要です。交通事故ではダッシュボードやハンドルに顔面を強打して眼瞼裂傷が起きる例もあるため、日頃からシートベルトの着用を徹底しておくと安心です。
参考文献




