フリクテン性角結膜炎

フリクテン性角結膜炎の概要

フリクテン性角結膜炎（ふりくてんせいかくけつまくえん）は、角膜（黒目の表面）や結膜（白目とまぶたの裏の膜）に小さな炎症性の隆起（フリクテン）が生じる病気です。 この炎症は細菌などの微生物タンパクに対する免疫反応（遅延型アレルギー反応）によって起こり、感染症そのものではありません。 フリクテン性角結膜炎は小児から青年期にかけて発症しやすいとされており、特に10歳前後の子どもに多くみられ、女性にやや多いとの報告もあります。日本では有病率は高くありませんが、発展途上国や結核の流行地域ではみられることがあります。

フリクテン性角結膜炎の原因

フリクテン性角結膜炎の原因は、眼やその周囲に存在する細菌などに対する遅延型の免疫反応（IV型アレルギー反応）です。結核菌に対する結核アレルギーは古くから知られる典型例ですが、現在ではブドウ球菌の抗原に対する反応が一般的です。このため、慢性的な眼瞼縁炎（ブドウ球菌性眼瞼炎）や眼瞼炎を伴う酒さ様皮膚炎（皮膚の慢性炎症）など、まぶた周辺の炎症性疾患を持つ方でフリクテン性角結膜炎が起こることがあります。また、一部のケースではクラミジアや寄生虫感染、ウイルスなどほかの微生物が関与する例も報告されています。なお、アレルギー体質の方（喘息やアトピー性皮膚炎を持つ方）では免疫反応に変調をきたしやすく、本疾患を起こしやすい可能性も指摘されています。

フリクテン性角結膜炎の前兆や初期症状について

初期には眼の充血や異物感（ゴロゴロする感じ）といった症状が現れます。角膜と結膜の境目付近（輪部周辺）に直径1～2mm程度の小さな灰白色～黄色の隆起（フリクテン）が生じ、その周囲の結膜に充血がみられます。フリクテンは数日から2週間ほど持続した後、自然に消退することが多いです。主な自覚症状として次のようなものが挙げられます。

• 流涙
• 目のかゆみや不快感：ゴロゴロする異物感や軽いかゆみ
• 眼痛：特に病変が角膜に及ぶと、ズキズキする痛みを感じることがあります
• 羞明（しゅうめい）：光を見るとまぶしく感じることがあります
• 視力低下

フリクテンが結膜のみに存在している場合、症状は軽度で異物感や充血程度で済み、隆起した病変はやがて浅い潰瘍となっても瘢痕を残さず治癒します。しかし、角膜側に及ぶ場合は症状が強く、激しい痛みや眩しさ、視力低下を伴うことがあります。 このような症状がある場合は眼科を受診するようにしましょう。

フリクテン性角結膜炎の検査・診断

フリクテン性角結膜炎が疑わしい場合、眼科では細隙灯顕微鏡検査によって典型的な結膜あるいは角膜病変を確認することで診断します。病変の一部が潰瘍化していれば、フルオレセインという染色液を点眼して角膜表面の傷を確認することもあります。

フリクテン性角結膜炎は特徴的な所見を示すため眼の所見のみで診断可能ですが、原因の特定や他疾患との鑑別のため追加検査を行うことがあります。例えば結核の関与が疑われる場合、ツベルクリン反応やインターフェロンγ遊離試験などの免疫学的検査を実施して結核感染の有無を調べます。結核が陽性であれば胸部X線検査などで活動性の有無を確認します。同様に、クラミジア感染が疑われる場合は結膜の分泌物検査、寄生虫感染が疑われる場合は便検査など、原因を調べるための検査を行う場合もあります。

フリクテン性角結膜炎の治療

治療の基本方針は、炎症反応を抑え、原因と考える菌の影響を減らすことです。

点眼治療

まず炎症を抑えるためにステロイド点眼薬（副腎皮質ステロイドの目薬）を用います。ステロイド点眼により免疫反応を抑制し、充血や痛みなどの症状を改善します。ただし、ステロイドの長期使用は眼圧上昇や白内障など副作用のリスクがあるため、必要最低限の期間使うようにします。炎症が強い初期には1日数回の頻回点眼を行い、症状改善とともに徐々に減量します。併せて、炎症の原因となった菌の治療として、抗菌薬の点眼を行います。抗菌点眼薬はブドウ球菌などをカバーするものが選択され、二次感染の予防および原因菌の治療に有効です。

炎症が何度も再発しステロイド点眼が必要な難治例では、ステロイドに代わる免疫調節薬の使用も検討されます。例えばシクロスポリンA点眼液（免疫抑制作用を持つ）は、ステロイド依存性のフリクテン性角結膜炎に有効であることが報告されており、長期使用による副作用リスクが少ないことからステロイドの代わりに用いられることがあります。 近年ではタクロリムス点眼液（免疫抑制作用を持つ）も難治性角結膜炎の維持療法に用いられ始めており、少数例ながらフリクテン性角結膜炎の再発予防に有効だったとの報告があります。

原因除去

現在の状況を治療するために点眼治療が有効な場合も多いですが、再発や速やかな改善のためには原因除去も重要です。例えば、まぶたの慢性的な炎症（ブドウ球菌性眼瞼炎）がある場合では、まぶたを清潔に保ち、炎症のコントロールが再発防止に不可欠です。具体的には、涙や目やにで固まったまつ毛の根元をアイシャンプーやベビーシャンプーなどで優しく洗浄したり、温かいタオルでまぶたを温めて皮脂の詰まりを解消する温罨法（おんあんぽう）を行ったりします。

さらに、抗菌作用と抗炎症作用を併せ持つマクロライド系抗菌薬の点眼液が有効だったという報告もあり、まぶたの炎症を抑える目的で用いることがあります。また、テトラサイクリン系抗生剤の内服（ミノサイクリンやドキシサイクリンの少量投与）は、眼瞼炎の改善とともに角膜の血管侵入を抑制し、フリクテンの再発を減らす効果が報告されています。実際、再発性のフリクテンに対し小児ではエリスロマイシン、成人ではドキシサイクリンを用いて長期寛解が得られたとの研究結果もあります。

そして、原因が結核菌であると判明した場合には、眼の治療に加えて抗結核薬による全身治療が必要です。結核そのものの治療（複数の抗結核薬の内服を半年～1年行う）によって、結核に対する過敏反応であるフリクテン性角結膜炎も次第に治まっていきます。また、クラミジア感染が確認された際にはマクロライド系抗生剤（経口アジスロマイシンなど）を用いて全身的な治療を行います。

フリクテン性角結膜炎になりやすい人・予防の方法

フリクテン性角結膜炎そのものを完全に予防する方法は確立されていませんが、原因となりうることに対して対処することで発症リスクや再発リスクを下げることが期待できます。

まぶたの衛生管理

まぶたのふちの清潔を保つことが重要です。洗顔の際にアイシャンプーやベビーシャンプーでまつ毛の根元を拭うなど、日常的に眼瞼を保つとまぶたの炎症軽減につながります。

アレルギー対策

花粉症やハウスダストなど、目の炎症を起こしうるアレルギー疾患を持つ場合は、治療によって症状をコントロールすることが望ましいです。アレルギーで結膜炎症状が悪化すると、フリクテンの誘発につながる恐れがあります。

結核予防

日本での発症は少ないですが、結核はフリクテン性角結膜炎の重要な原因菌です。日本では乳幼児期にBCGワクチン接種が行われていますが、結核患者さんとの濃厚接触リスクがある場合には定期的な健診で早期発見・早期治療を心がけます。日本の結核罹患率は2023年で人口10万対8.1人と低い水準ですが、油断せず感染予防策を行うことが大切です。