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上強膜炎
栗原 大智

監修医師
栗原 大智(医師)

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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。

上強膜炎の概要

上強膜炎(じょうきょうまくえん)を理解するために、まずは上強膜炎が起こる強膜について解説します。強膜は、眼球の外側を覆っている白い膜です。眼球の白目の部分ですが、結膜と同じ場所にあり、強膜の上を結膜が覆っています。強膜の主な役割は、その名の通り眼球の構造を強くし、衝撃が加わっても大丈夫なように眼球の穿通や破裂を防ぐことです。 そして、この強膜の表面上強膜(じょうきょうまく)と呼びます。上強膜に起きた炎症を上強膜炎と呼び、強膜全層に起きた炎症を強膜炎と呼んでいます。この2つは似ているようですが、原因や症状、治療などが大きく異なるため、両者を混同しないよう注意する必要があります。

上強膜炎には、単純性上強膜炎結節性上強膜炎の2つの型があります。結節性上強膜炎よりも単純性上強膜炎の方が一般的で、単純性上強膜炎では、明らかに隆起した結節はなく、充血を認めます。一方、結節性上強膜炎は炎症部位に隆起した強膜上組織を認めます。

上強膜炎の発生率は年間10万人あたり41.0人とされています。

上強膜炎の原因

上強膜炎の原因は不明なことが多いとされますが、患者さんの約26-36%は全身性疾患を合併しています。原因となる全身性疾患は多岐に渡りますが、主には膠原病といわれる病気が原因となります。その中でも特に、関節リウマチが多いとされています。

そのほかに、クローン病、潰瘍性大腸炎、乾癬性関節炎、全身性エリテマトーデス、反応性関節炎(ライター症候群)、再発性多発性軟骨炎、強直性脊椎炎および掌蹠膿疱症性骨関節炎、 結節性多発動脈炎、巨細胞性動脈炎、Cogan症候群、Churg-Strauss症候群、多発血管炎性肉芽腫症、ベーチェット病、酒さ、壊疽性膿皮症、Sweet症候群などがあります。また、痛風やアトピー性皮膚炎が原因になることもあります。悪性腫瘍、通常はT細胞白血病およびホジキンリンパ腫は、上強膜炎を伴うことがあります。異物や化学的損傷によっても誘発されることがあります。細菌およびマイコバクテリアなどの感染症、稀ですが、梅毒、ライム病、クラミジア、放線菌、真菌、帯状疱疹および単純疱疹、流行性耳下腺炎、およびチクングニアなどが原因になることもあります。さらに、トピラマートやパミドロネートなどの薬剤が上強膜炎を引き起こすことがあります。

このように、上強膜炎の原因は多岐に渡るため、原因を特定できないこともあります。

上強膜炎の前兆や初期症状について

上強膜炎は前兆となる所見はありませんが、急速に進行する場合と徐々に進行する場合があります。急速に進行する場合に予見する所見は少ないですが、徐々に進行する場合は充血が出始めたり、広がってくると注意が必要です。その後に上強膜炎の症状が増す恐れがあります。

また、上強膜炎では、強膜に炎症が起こるため、赤く充血することがあります。多くは一部の強膜が充血しますが、中には全体的に充血を認める場合があります。結節性上強膜炎であれば、充血に加えて、一部が隆起していることがあります。目の痛みや目やにが増えたりすることはほとんどありません。そのほか、目の違和感や涙目などの症状があらわれることもあります。 上強膜炎は強膜の浅い部分に生じる炎症ですが、より深くに炎症が生じた場合を強膜炎と呼びます。強膜炎では症状が大きく異なり、特徴としては強膜炎では痛みが強く、目やにの量も多いことが挙げられます。自覚症状は上強膜炎よりも強く、充血も赤よりも紫色に近くなります。ただし、自覚症状だけで判断するのは難しく、また、ほかの目の病気のこともあるため、症状があればできるだけ早めに眼科を受診するようにしましょう。

上強膜炎の検査・診断

上強膜炎の診断のためには問診細隙灯顕微鏡検査を行い、原因を探るために採血などいくつかの検査を行います。

問診

自覚症状が出た時期悪化する経過を確認します。単純性上強膜炎は急性に、結節性上強膜炎は徐々に発症します。また、過去に同様の症状がないか、ほかに自覚症状がないかなどを確認します。特に、痛みが強い、目やにが多い場合は強膜炎だけでなく、流行性角結膜炎などの病気と鑑別する必要があります。

視力検査

視力の測定を行い、ほかの病気との鑑別や重症度などの判断に用います。

眼圧検査

眼圧上昇がないか、また治療に際してステロイド点眼薬を用いるため、副作用の有無の確認のため眼圧測定を行います。

細隙灯顕微鏡検査

上強膜炎の診断や型の判定に重要なだけでなく、ほかの眼科疾患の鑑別のために行います。

眼底検査

散瞳薬を用いて、眼内に炎症所見の波及がないか、ほかの所見がないかを確認します。

光干渉断層計(OCT)

上強膜炎であれば所見はありませんが、ほかの眼科疾患の鑑別に有用です。

上強膜炎との鑑別として、虹彩炎やぶどう膜炎などがあり、それら鑑別に必要な検査を行うことがあります。 さらに、上強膜炎の原因を調べるために、抗核抗体やリウマチ因子に関する検査を行ったり、結核や梅毒などの感染症の有無を確認するため、血液検査や細菌学的検査を行う場合があります。

上強膜炎の治療

上強膜炎は通常、治療を行わなくても自然治癒することがあります。しかし、強膜炎との鑑別が困難な場合や原因となる疾患の病勢が強い場合などには、点眼薬内服薬にて治療を行うことがあります。点眼薬はステロイド薬を用い、内服は経口のNSAIDSを主に用います。ステロイド点眼薬は眼圧上昇に伴う緑内障などのステロイドが懸念されるため、使用開始後はこまめな経過観察が必要となります。上強膜炎は基本的には良性の疾患であるため、通常は数週間以内に完全に回復するとされています。

上強膜炎になりやすい人・予防の方法

上強膜炎になりやすい人とその予防方法についてです。

膠原病がある場合

関節リウマチをはじめ、上記で列挙した膠原病があると、上強膜炎を合併することがあります。また、膠原病はぶどう膜炎や角膜炎など、そのほかの目の病気を合併することもあるため、その場合は注意して経過観察を行う必要があります。特に、膠原病の持病が悪化したり、新たな治療を導入したりする場合は、充血などの上強膜炎の症状が出ないかどうかを確認する良いタイミングです。

感染症がある場合

頻度は多くはありませんが、梅毒クラミジアなど、感染症もまた上強膜炎の原因になりやすくなります。特に、梅毒やクラミジアは性感染症でもあるため、性行為やそれに類する行為をする場合には、適切な予防が重要です。また、もし感染の懸念がある場合は早期発見と治療で合併症が起こりにくくなるため、泌尿器科や婦人科などを受診して検査を行うと予防になります。

痛風

痛風などの生活習慣に起因する代謝性疾患もまた上強膜炎の原因になります。特に、数値が著しく上昇したり、痛風発作が見られたりする場合は注意が必要です。適度な運動はもちろん、バランスの取れた食事を徹底し、必要であれば内服薬での治療を行うことが上強膜炎などを未然に防げる可能性が上がります。

このように上強膜炎の原因がわかっている場合は、予防方法を講じることができます。しかし、上強膜炎の原因は分からないことも多いので、病気の特徴的な症状を知っておき、症状があれば眼科を受診することができれば安心です。

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