監修医師:
柿崎 寛子(医師)
網膜色素変性の概要
網膜色素変性は、網膜に異常がみられる遺伝性の疾患で、暗い場所で物が見えにくくなったり(夜盲)、視野が狭くなったりする(視野狭窄)などの症状を引き起こします。
日本では、4000〜8000人に1人の割合で発症すると報告されており、2015年から指定難病のひとつに認定されています。
網膜色素変性は一般的に、ゆるやかに症状が進行する進行性の疾患です。数年から数十年かけて進行することが多く、病気の進行にともない視力が低下し、失明に至ることもあります。2019年度全国視覚障害者新規認定者調査によると、網膜色素変性は、緑内障に次いで中高年の失明原因の第2位となっています。
網膜は光を感じる部分で、大きく分けて「錐体(すいたい)細胞」、「杆体(かんたい)細胞」の2種類の視細胞が存在しています。
錐体細胞は視力や色覚に関する働きを担っており、網膜の中心部である黄斑(おうはん)とよばれる部分に集中して存在しています。
杆体細胞は黄斑以外に多く分布しており、わずかな光を感知することが出来るので、暗い場所での物の見え方や視野の広さなどに関係する働きを担っています。網膜色素変性では杆体細胞から障害されることが多く、やがて病気が進行すると錐体細胞も障害されることが一般的です。
網膜色素変性の治療では、症状の進行を遅らせることを期待して、内服薬やサプリメントによる治療が行われることがあります。しかし、治療効果は証明されておらず、確立した治療法はありません。
そのため、現在も国内外で数多くの研究が行われており、遺伝子治療や視細胞を保護する治療法の開発など、新たな治療法の可能性も探求されています。
網膜色素変性の原因
網膜色素変性の原因は、遺伝子の異常だと考えられています。網膜色素変性の原因遺伝子は、これまでに60種類以上報告されています。しかし、いまだに原因となる遺伝子異常が不明の方がほとんどで、今もなお新たな原因遺伝子の報告が続いています。
網膜色素変性に関連する遺伝子は、物を見るしくみ(視覚サイクル)、光を感じるしくみなどの機能や視細胞の構造・維持に関連するもの、視細胞や視細胞に密着する網膜色素上皮細胞で働くものが多いですが、機能が解明されていないものも少なくありません。
家系内に誰も網膜色素変性を発症していない方(孤発例)も、全体の半数以上にのぼることが報告されています。しかし孤発例のように見えるものの多くも、実際は何らかのかたちで遺伝が関係していると考えられています。
網膜色素変性の前兆や初期症状について
網膜色素変性の一般的な初期症状は、暗い場所で物が見えにくくなる「夜盲(やもう)」です。夜盲は、生活環境によっては夜盲に気づきにくいこともあり、視野が狭くなっていること(視野狭窄)に最初に気づくこともあります。
これらの症状が初期にみられることが多いのは、通常、網膜色素変性では、暗い場所での物の見え方や視野の広さに関係する杆体(かんたい)細胞から障害されることが多いためです。人や物にぶつかりやすくなる、物が見えたり消えたりする、車の運転に支障がでるなどがきっかけで気づくことがあります。進行した網膜色素変性では、周囲の視野が失われて中心部のみが見えることもしばしばあります。
さらに網膜色素変性が進行すると、錐体(すいたい)細胞も障害され、視力の低下や色の見え方が通常とは異なって見える色覚異常を自覚するようになります。視力障害のあらわれ方はさまざまで、コントラストの低い印刷物や罫線が読みづらくなることや、目のかすみ、物の見え方が一部欠ける、歪んで見えるなどの症状があります。また、通常の生活環境で眩しさを感じたり(羞明)、全体が白っぽく感じられたりすることもあります。これらの症状は、両方の眼に生じることが一般的です。
網膜色素変性は進行性の疾患で、一般的に数年から数十年かけて、ゆるやかに症状が進行します。しかし、進行速度には個人差があり、症状の種類や程度もさまざまです。
夜盲や視野狭窄、視力低下、色覚異常などの症状があらわれた場合は、早めに眼科を受診することをおすすめします。
網膜色素変性の検査・診断
網膜色素変性の診断には、眼底検査、視野検査、網膜電図(ERG)、眼底自発蛍光(FAF)、光干渉断層計(OCT)などの検査が行われます。
眼底検査は、網膜や視神経の状態を調べる検査です。網膜色素変性に特徴的な色素沈着などが確認できれば、網膜色素変性と診断されます。視野検査は物が見える範囲を調べる検査で、網膜色素変性の進行状況を確認します。
このほか、網膜色素上皮の変化を調べる「眼底自発蛍光」や、網膜の断層を撮影することで視細胞や網膜色素上皮の状態を確認する「光干渉断層計」などがあり、網膜色素変性の症状や進行を把握するために重要な検査です。
網膜色素変性の治療
現在のところ、網膜色素変性を完治させる確立された治療法はありません。症状の進行を遅らせることを期待して、サプリメント(ビタミンA、ビタミンE)や循環改善薬などを用いた内服治療が行われることがあります。
また、根本的な治療ではありませんが、日常生活を送りやすくするため、まぶしさをやわらげて見やすくする遮光眼鏡、ルーペや拡大読書器などを使用することもあります。
国内外で網膜色素変性の研究が行われており、遺伝子治療、網膜神経保護、網膜移植、人工網膜なども将来的な新しい治療法として期待されています。
また、網膜色素変性では、白内障を合併することが多くみられます。白内障は水晶体というレンズが濁ってくる病気で、通常は高齢の方に多くみられますが、網膜色素変性ではより若いうちから白内障を発症することがあります。白内障によってさらに視力が下がっていると考えられる場合は、白内障の手術を行う場合があります。
網膜色素変性になりやすい人・予防の方法
網膜色素変性は遺伝性疾患であるため、家系内に網膜色素変性を発症した方がいる場合は、そうでない場合と比べると網膜色素変性を発症するリスクが高いといえます。
現時点では、発症を予防する方法はありませんが、家族歴などで網膜色素変性の発症リスクが高いと考えられる方は、定期的な診察や検査を実施することをおすすめします。
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参考文献