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監修医師:
栗原 大智(医師)
目次 -INDEX-
眼球破裂の概要
眼球破裂とは、強い外傷や衝撃によって眼球の壁が破れ、眼球の内部構造や組織が損傷して、内部の組織が飛び出す外傷のことです。
眼球破裂が生じると、衝撃の痛みだけでなく、出血や涙が多く出るようになります。また、眼球の形を保つことができなくなるため、急激な視力低下を引き起こし、失明のリスクが高い病気です。そのほかにも交感性眼炎や眼窩底骨折など、さまざまな合併症もありうる病気です。
眼球破裂は緊急の治療を要し、早期に適切な対応が行われる必要があります。治療は、破れた組織を縫い合わせ、感染症対策を行います。基本的には視力が元の状態に戻ることはありません。また、強い感染や炎症が生じると、交感性眼炎と言って、もう片方の目にも同じように炎症が及ぶことがあり、注意して経過観察する必要があります。
眼球破裂の原因
眼球破裂の主な原因は、物理的な外傷です。具体的には、交通事故や転倒による顔面打撲、激しいスポーツ、または鋭利な物での突き刺しや衝突などによって引き起こされます。また、工事現場や日常生活でも飛来物や圧力の高い状況にさらされる場合も原因になりえます。眼球の組織が脆弱な高齢者、以前に眼疾患や手術を経験している人は、破裂のリスクが高いとされています。具体的に、破裂しやすい場所はいくつかあり、眼球に付着する筋肉近くや、白内障手術の傷跡から内容物が出てくる場合もあります。
眼球破裂の前兆や初期症状について
眼球破裂にはさまざまな症状がありますが、前兆となる症状はなく、基本的に外傷などが生じた後すぐに症状が現れます。眼球破裂後に球体の形が残っていれば、視力が少し出る場合はありますが、多くは視力は大きく低下する恐れがあります。また、外傷による痛みに加えて、眼球自体の痛みを感じる場合があります。
そのほかにも下記のような症状が生じる場合もあります。
- まぶたの腫れ
- 出血
- サラサラの液体、あるいはゼリー状の内容物が出てくる
まぶたの腫れは、まぶたに衝撃が直接加わることに加えて、炎症が波及することもありえます。また、眼球内外にある血管が損傷すれば出血しますし、眼球に穴があいている状態です。そのため、涙あるいはゼリー状の内容物(硝子体)が出てくる恐れがあります。
これらは眼球破裂自体による症状です。これらに加えて、眼球破裂後は感染症のリスクがあるため、眼脂の増加や発熱など、感染症の症状が出ることもあります。
さらに、眼球破裂に伴う炎症は、異常のない目にも波及することがあり、交感性眼炎にも注意する必要があります。交感性眼炎では、飛んでいるように見える飛蚊症、視界がかすむ、光がまぶしく感じる、目の充血、視力低下などの症状が現れることもあります。
また、強い衝撃による眼球破裂の場合、目の周りにある骨を骨折することもあります。特に自覚症状がない場合もありますが、眼球の周りにある筋肉を巻き込むと、二重に見えたり、嘔気・嘔吐などの迷走神経反射をきたすことがあります。
どの診療科目を受診すればよいか
眼球付近を強くぶつけた後、上記の症状で眼球破裂が疑われる場合は、緊急で眼科を受診する必要があります。夜間や休日でも受診するようにしましょう。早期治療によって視力が回復する可能性があり、感染予防など重症化にはできるだけ早期の対応が必要です。
眼球破裂の検査・診断
眼球破裂の診断自体は、細隙灯顕微鏡検査で容易に行えます。視力検査や眼圧検査などの基本的な検査も行います。また、眼内に異常がないか眼底検査や網膜光干渉断層計(OCT)を行い、網膜剥離や眼内異物などの有無を確認します。
そして、治療方針を決めるため、超音波検査やCT検査で眼球壁や眼球内部の状態を評価します。この際、ガラス片や金属片が目の中に入っていないかも合わせて調べます。これら異物が残っていると、組織を損傷するだけでなく、ここから感染が広がる恐れがあります。感染による炎症が反対の目に及ぶと、交感性眼炎のリスクになるため重要です。
また、強い衝撃が加わっている場合は、目の周りの骨の損傷などを伴うこともあります。嘔気・嘔吐などの迷走神経反射があったり、筋肉を巻き込んでいる場合は緊急で手術対応が必要になります。そのため、CT検査による骨折の有無の確認が重要となります。
そして、眼球破裂による感染の有無を調べるため、血液検査を行い、現時点の炎症の有無を確認します。
交感性眼炎とは
眼球破裂では、交感性眼炎という合併症が起こりうるため、解説します。交感性眼炎は、片方の眼球に対して損傷が生じた際に、数週間から数ヶ月後にもう片方の眼球にも炎症が生じる病気です。
眼球破裂に伴い、眼球内にある「ぶどう膜」組織に対して、自己免疫反応が起こります。交感性眼炎を発症すると、ぶどう膜炎と類似した症状が現れます。具体的には、視力低下やまぶしさ、飛蚊症などです。
交感性眼炎の予防として、交感性眼炎の原因となりうるため、眼球破裂が生じた場合、予防的に損傷を受けた眼球を摘出することもあります。それでも交感性眼炎を発症してしまった場合、 内服もしくは点滴などによる全身ステロイド治療が必要となります。症状が強い場合には、ステロイドパルスと呼ばれる大量のステロイドを点滴投与することがあります。
ステロイドの使用は長期間になることが多いため、ステロイドによる白内障や緑内障が起こらないことに注意が必要です。そういった合併症の懸念がある場合は、シクロスポリンなどの免疫抑制剤が代替薬として使用されることもあります。
交感性眼炎は眼球破裂後、数週間から数ヶ月後に発症します。そのため、眼球破裂後も継続して経過観察を行います。そして、早期発見と治療のために、患者さんに対して自覚症状で注意すべき点を教育することも重要となります。
眼球破裂の治療
眼球破裂の治療は、可能な限り元の状態に戻す、損傷部位の修復手術が行われます。しかし、長時間外部に出ている組織は、復位によって感染症のリスクもあるため、そのまま除去を行うこともあります。また、眼内に網膜剥離があれば硝子体手術を行ったり、眼内レンズ脱臼があればその加療も行います。感染症の程度が強かったり、眼球構造を維持するのが困難な場合は眼球内容除去術を行うことがあります。
このほかに、強い衝撃が加わっている場合は、目の周りの骨の損傷などを伴うこともあります。嘔気・嘔吐などの迷走神経反射があったり、筋肉を巻き込んでいる場合は緊急で手術対応が必要になります。その場合は眼窩底骨折の手術を行います。そして、眼窩周辺の感染症があれば、程度に応じて抗菌薬の局所あるいは全身投与を行います。
眼球破裂になりやすい人・予防の方法
眼球破裂のリスクが高いのは、激しい運動や危険な作業に従事する人、特にスポーツ選手や工事作業員です。また、転倒しやすい高齢者や白内障手術などの既往がある場合も注意が必要です。予防として、危険な環境下では保護メガネやフェイスシールドを着用することが推奨されます。また、転倒しやすい場合はその原因を治すことが重要です。
関連する病気
- 眼内炎
- 網膜剥離
- 外傷性白内障
- 視神経萎縮
参考文献
- 今日の眼疾患治療指針第3版
- 眼科学第3版