監修医師:
柳 靖雄(医師)
目次 -INDEX-
角膜びらんの概要
角膜びらんは、いわゆる黒目の部分の表面を覆う角膜において、その一部分が損傷を受けてはがれ、眼に違和感や痛みなどの症状が出現する病気です。角膜は表面から上皮層、実質層、内皮層の3層構造になっており、角膜びらんは最も表面の上皮層が欠損した状態を指します。
主な原因は外傷や異物の侵入ですが、角膜ジストロフィーや春季カタルなどの眼疾患、感染症などに伴って発症することもあります。その他、加齢や糖尿病などの全身疾患も角膜びらんのリスクを高める要因となります。
治療には抗生物質の点眼や眼軟膏を利用します。改善が見られない場合は、損傷した角膜上皮を除去し、専用のソフトコンタクトレンズを装着して治療することもあります。
角膜びらんは「眼の擦り傷」のようなものです。症状は一過性のことが多く、適切な治療を施せば数日で治癒します。ただし、一部のケースでは、軽度な刺激でもびらんを繰り返してしまう「再発性角膜上皮びらん」に移行することがあります。再発性角膜上皮びらんは、角膜上皮の接着性が不十分なためにおこると考えられています。
角膜びらんを繰り返さないためには、日頃から目をこすらないようにすることやコンタクトレンズ等を適切に使用することが大切です。
角膜びらんの原因
角膜びらんは、外傷、感染、疾患などの要因により角膜が損傷することで引き起こされます。
多く見られる原因は外傷で、眼に異物が入ったり、指の爪や紙の端で眼をこすったりしたときに発症することがあります。粉塵や飛沫が目に入りやすい環境では特に注意が必要です。
ウイルスや細菌感染も原因となり得ます。コンタクトレンズの不適切な使用や長時間の装用は、角膜びらんの発症リスクを高めます。
ドライアイ、あるいは角膜ジストロフィーや春季カタル、糖尿病などの疾患も、角膜を弱くさせ、びらんを合併させる原因になります。
角膜びらんの前兆や初期症状について
角膜びらんは急性で発症することが多いため、前兆を自覚するのは難しいでしょう。
軽度の角膜びらんの初期症状は、眼に関する不快感です。
主な症状は、眼の痛みや充血、ゴロゴロとした異物感、光の過敏性(まぶしさ)、などで、涙がたくさん出るのも特徴です
角膜びらんの検査・診断
角膜びらんの診断には、細隙灯顕微鏡検査が使用されます。
他の眼疾患の感染や全身性の病気が疑われる場合は、検体検査や血液検査をおこなうこともあります。
細隙灯顕微鏡検査
細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査は、光を当てながら顕微鏡で角膜の状態を確認する検査です。
より正確に診断するために、フルオレセインという蛍光試薬を点眼してから検査することがあります。
フルオレセインにより、角膜の傷や異常が鮮明に浮かび上がるため、びらんの範囲や程度を正確に把握できます。
検体検査
検体検査は角膜にウイルスや細菌の感染が疑われた場合におこないます。
疑われる病変部位から角膜の一部を採取して、顕微鏡による観察や培養検査をおこないます。
原因となる病原体を特定することで、感染症の診断だけでなく、治療法の選択にも重要な役割を果たします。
血液検査
角膜びらんの原因や関連疾患を確かめるために血液検査をおこなうことがあります。
血液検査では角膜ジストロフィーや糖尿病などの病気を調べるために、病気の原因だと考えられる遺伝子や血糖値、HbA1cなどの値を測定します。
検査結果から適切な治療方針や、再発予防の生活指導の内容を決めていきます。
角膜びらんの治療
角膜びらんの主な治療は、眼の洗浄や、点眼薬や眼軟膏による薬物療法になります。
薬物療法をしても再発する場合は、治療用コンタクトレンズの装着や角膜表層穿刺、レーザー治療なども選択されます。
眼の洗浄
できるだけすみやかに眼を洗浄することで、角膜の損傷の進行を防ぎます。
生理食塩水で眼球表面を洗浄し、異物や有害な液体を除去します。
アルカリ性の液体が入った場合は、より慎重な対応が必要で中性になるまで10分以上洗浄します。
薬物療法
軽症の場合は、感染を予防するための抗菌点眼薬や、はがれた上皮を再生させるためのヒアルロン酸点眼薬を投与して経過を見ます。
症状が強い場合は、抗菌薬の眼軟膏を塗布して眼帯を装着します。
治療用コンタクトレンズの装着
治療用コンタクトレンズは、接着の弱い上皮を保護するためにおこない、びらんが再び発生するのを防ぎます。
角膜がはがれ落ちるのを防ぐことで、正常な上皮を再生させる効果も期待できます。
角膜表層穿刺
角膜表層穿刺はがれた角膜の上皮を、27G針という細い針で角膜に埋め込む治療です。
再発時にある程度上皮が再生した頃におこなうと、接着機能が産生される効果があります。
レーザー治療
エキシマレーザーを当てて異常な上皮を切除する手術です。
接着力が落ちている上皮を切除することで、再発を防ぐ効果が期待できますが、自費診療であるため、患者の費用負担が大きくなります。
角膜びらんになりやすい人・予防の方法
角膜びらんになりやすい人は、ドライアイの人やコンタクトレンズを不適切に使用する人、糖尿病や角膜ジストロフィーの人などが挙げられます。
眼をこする癖があったり、マスカラなどの化粧をしたりする人も、誤って指や化粧品が眼に入ったときに発症することがあります。
予防法としては、意識的なまばたきや角膜を保湿する点眼薬によって、眼の乾燥を防ぐことが大切です。
コンタクトレンズは使用した後に正しく洗浄し、就寝時に必ず外して適切な使用と管理を心がけましょう。
日常生活では眼をできるだけこすらないように意識し、異物が入った場合は清潔な水で洗い流してください。
化粧品を使用するときは、眼に入らないように注意を払い、就寝前に必ず落とすことが重要です。
参考文献