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網膜症
柳 靖雄

監修医師
柳 靖雄(医師)

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東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。

網膜症の概要

網膜症(糖尿病網膜症)は糖尿病が原因で目の網膜に起きる病気です。長期間にわたり高血糖の状態が続くと、網膜に広がる毛細血管が傷ついたり破れたりします。重症化すると視力低下や失明につながる危険性のある病気です。

網膜症は糖尿病の三大合併症である、網膜症、腎症、神経症の中の1つです。日本における失明の原因で3番目に多いといわれています。網膜症は糖尿病発症後、数年から10年以上経過して発症するケースが多いです。

網膜症は病状がかなり進行しない限り、症状が自覚されづらいのが特徴です。視力低下等の自覚症状がでてきた頃には、病状全体が相当に悪化している場合がほとんどです。そのため、定期的な検査による早期発見や、糖尿病を含む生活習慣病の予防、医療による早期介入が、網膜症の発症予防と治療におけるポイントとなります。

網膜症

網膜症の原因

網膜症は糖尿病による血糖コントロール不良状態が長く続くことで発症しやすくなります。

一般的に、糖尿病の病状が進むと、体内の血管に異常が現れます。特に毛細血管などはダメージを受けやすく、傷つきやすくもろくなり、出血、変形、詰まりなどの障害が引き起こされます(細小血管症)。

網膜は光や色を感じる神経細胞の集まりで、それらに酸素や養分を届けるために非常に多くの毛細血管が張り巡らされている、とても繊細な組織です。この網膜で細小血管症がおきると網膜症となり、さまざまな症状を引き起こします。

網膜症の前兆や初期症状について

網膜症は初期だけでなく、ある程度進行した段階でも自覚症状には乏しいことが知られています。
したがって、網膜症の前兆や初期症状に気がつけるかどうかは、定期的あるいは早めに検査を受けられたかどうかにもよるでしょう。
病状が進行し、黄斑浮腫(おうはんふしゅ)、硝子体出血(しょうしたいしゅっけつ)、牽引性網膜剥離(けんいんせいもうまくはくり)などが出現した際に、はじめて症状を自覚するケースも見られます。

以下に、網膜症が進行することで併発しやすい疾患を紹介します。

黄斑浮腫

網膜症により毛細血管の壁が傷つき水分が漏れ出すと、網膜にある黄斑(視力に最も大切な錐体細胞が集まった部位)にむくみや水ぶくれを生じることがあります。これを黄斑浮腫と呼び、視力低下や、物がかすんだりゆがんで見えたりする症状を引き起こします。

硝子体出血

網膜症が進行すると、正常に機能しなくなった毛細血管の働きを補うために、新生血管という新たな血管状の組織が網膜上に作られます。新生血管は異常に発達した組織であり非常にもろい性質を持つため、容易に出血してしまいます。その出血による血液が、網膜に隣接する硝子体(眼球の体積の大半を占める透明な組織)に流れ込んでしまった状態が、硝子体出血です。

軽度の硝子体出血は自覚症状なしに繰り返され、さらに新生血管を増やす悪循環となる場合もあります。また、出血量が多くなると突然視界の一部が曇ったり、遮られたりする症状が出ます。

牽引性網膜剥離

網膜周辺の毛細血管の異常や新生血管の増加、あるいは出血などを繰り返していると、網膜の周辺に増殖膜というかさぶたのような組織が発達してしまいます。さらにその増殖膜によって網膜が引っ張られたり、押し上げられたりする力が働き、網膜が剥がれかけてしまう状態が牽引性網膜剥離です。牽引性網膜剥離は放置すると短期間で失明に至る可能性のある、たいへん危険な状態です。

網膜症の検査・診断

網膜症の診断ではいくつかの検査があります。糖尿病の病歴や患者の状態に合わせ、医師の判断でおこなわれます。主な検査を以下に紹介します。

視力検査

裸眼視力や矯正視力を測定し、視力に異常がないか検査します。

眼底検査

眼底検査は、眼底にある網膜や血管、視神経の状態を直接的に観察する検査です。網膜症の診断においてもっとも基本となる検査です。出血や新生血管の有無、網膜剥離の有無がわかります。

眼圧検査

眼圧検査は、目に一瞬風を吹き付けて眼の硬さ(眼圧)を測定する検査です。空気を目に吹き付けると角膜がへこむため、このへこみ具合で眼圧を調べることができます。新生血管がある場合は眼圧が高くなります。

細隙灯顕微鏡検査(スリットランプ検査)

糖尿病患者は網膜症だけでなく、角・結膜障害やぶどう膜炎、白内障、血管新生緑内障など、他の眼球の異常を併発していることもあります。そのため細隙灯顕微鏡(さいげきとうけんびきょう)で角膜、結膜、房水、虹彩、隅角、水晶体、硝子体などをくわしく観察します。

光干渉断層計(OCT)

網膜の断層像を得る画像検査です。黄斑部付近の網膜に浮腫があるかなどを観察します。

網膜症の治療

網膜症の治療の目的は、障害された目の機能を出来るかぎり回復させること、完全に失明するのを避けることです。網膜症の進行を予防する一番の治療は血糖コントロールです。そのほかの治療としては、網膜症光凝固、硝子体手術、抗VEGF治療などが挙げられます。

血糖コントロール

網膜症の原因である糖尿病の治療を継続し、血糖コントロールをおこなうことが、網膜症の治療法の基本となります。医師や医療機関の指示に従い、食事療法や運動療法、薬物療法などを続けることで、網膜症の進行を止める、あるいは遅らせることができます。

網膜症光凝固(レーザー治療)

網膜にできた新生血管の周囲にレーザーを当てる治療です。視力低下を防ぎ、網膜症の進行を抑えるのに有効だとされています。

硝子体手術

硝子体の中に特殊で微細な器具を差し入れ、視力障害の原因となっている病変を直接的に治療します。重度の硝子体出血をおこした場合や、網膜剥離の疑いがあるケースでは、緊急で手術がおこなわれることもあります。

抗VEGF治療

網膜症が進行して併発する黄斑浮腫の治療法の1つに、抗VEGF治療があります。網膜の血管から血液成分が漏れるのを防ぐ効果が期待できます。

網膜症になりやすい人・予防の方法

糖尿病に加え、生活習慣病を抱える人や、妊娠糖尿病がある人は、網膜症を発症するリスクがあります。
したがって、網膜症の予防の方法は以下のようなものが挙げられます。

糖尿病の発症予防

網膜症の原因となる、糖尿病を発症させないようにしましょう。食事や運動を見直し、生活習慣を改善することが大切です。網膜症は糖尿病を発症してから、数年から十数年という期間を経て発症するケースが多いため、糖尿病を発症させない、あるいは発症を遅らせることは、網膜症の根本的な予防策となります。

血糖コントロール

すでに糖尿病を発症していたとしても、糖尿病の治療による適切な血糖コントロールが網膜症の予防につながります。

定期的な眼科受診

網膜症が初期症状や自覚症状に乏しい疾患であることを鑑みて、定期的に眼科を受診し、必要な検査を受けることは、網膜症の予防と早期発見に有効です。


関連する病気

  • 眼底出血
  • 牽引性網膜剝離(けんいんせいもうまくはくり)
  • 血管新生緑内障
  • 失明
  • 糖尿病黄斑浮腫(とうにょうびょうせいおうはんふしゅ)
  • 糖尿病腎症

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