監修医師:
柳 靖雄(医師)
目次 -INDEX-
黄斑円孔の概要
黄斑円孔(おうはんえんこう)とは、目のなかの網膜上にある黄斑部に小さな穴ができ、視力が低下する疾患です。
主に50歳以上の中高年に好発し、若年での発症はほとんどありません。男性と比較して女性の発症率が2〜3倍高く、強度の近視がある場合や高齢者に多く発症することが分かっています。
網膜は目の底(眼底)を覆う薄い膜で、視細胞や視細胞とつながる神経線維で構成されています。
目をカメラに例えると網膜はフィルムに当たり、目に入る光を感知する機能があります。私たちは、網膜のはたらきによって目に入る光を感知し、それが電気信号として脳に伝わることで初めて物を見ることができます。
網膜の中心に位置する黄斑部は、他の部位と比較して優れた視力を持っているため、障害されると視力が著しく低下します。黄斑円孔では、加齢や強度の近視などさまざまな原因によって黄斑部に穴が開き、物が歪んで見えたり視力が著しく低下したりします。
黄斑円孔に対して有効な内服薬や点眼薬はなく、外科的手術を行う必要があります。しかし、手術を行なっても視力が完全に回復することは少なく、特に外傷や近視に伴う黄斑円孔は症状の回復が困難なケースもあります。
治療せず放置した場合には視力が0.1以下になるケースもあるため、注意が必要です。
黄斑円孔の原因
黄斑円孔は原因によって「特発性黄斑円孔」「外傷性黄斑円孔」「近視性黄斑円孔」に分けられます。
特発性黄斑円孔
特発性黄斑円孔は、加齢によって硝子体が収縮することが原因で発症するものを指します。
硝子体とは、目に入る光を網膜に繋げる水晶体と網膜の間に位置するゼリー状の組織です。
特発性黄斑円孔では加齢に伴って網膜とくっついている硝子体が収縮して、その結果、網膜が引っ張られて穴が開きます。
外傷性黄斑円孔
外傷性黄斑円孔は、眼球の打撲など、外傷によって黄斑に穴が空くことで生じます。
外傷の程度によって視力の回復が難しくなるケースもあります。
近視性黄斑円孔
近視性黄斑円孔は、強度の近視によって黄斑円孔を発症するものを指します。
近視の原因には遺伝的なものと環境的なものがあり、近くを見る作業が多いことや、屋外での活動が少ないことなどによっても起こります。
黄斑円孔の前兆や初期症状について
黄斑円孔を発症すると視力が低下し、物が歪んで見えたり、見えにくくなったりします。
黄斑円孔の検査・診断
黄斑円孔の診断では、以下のような検査が行われます。
眼底検査
眼底検査は、目の奥にある眼底を直接検眼鏡を用いて医師が覗いたり、専用のカメラを用いて撮影する検査です。眼底に存在する血管のほか、網膜や視細胞の状態を観察できます。
黄斑円孔を発症している場合は、黄斑部に穴が空いていることが確認できます。
光干渉断層計(OCT)
光干渉断層計(OCT)は、近赤外光を用いて網膜を輪切りにした状態(断面像)を観察できる検査です。
黄斑円孔が疑われる場合は、網膜の断層像に穴が空いているか確認します。
黄斑円孔の治療
黄斑円孔の治療には、外科的手術が適応されます。
黄斑円孔に対する手術では「硝子体手術」が行われ、多くの場合白内障の手術も同時に行われます。
硝子体手術は局所麻酔をした後に、白目の部分から細長い器具を挿入して黄斑部を引っ張る硝子体を取り除く手術です。硝子体を取り除いた後は、眼球の中の水分を医療用のガスと入れ替えます。
眼球にガスを注入するため、術後はうつ伏せ姿勢などを取って目を刺激しないように注意が必要です。黄斑部の穴が閉じれば徐々に視力が回復していきますが、完全に回復することはありません。
外傷性黄斑円孔や近視性黄斑円孔、黄斑円孔を発症してから時間が経過している場合、黄斑部に空いた穴が大きい場合には、手術を行なっても視力の回復が困難なケースがあります。
黄斑円孔になりやすい人・予防の方法
近視がある人は黄斑円孔になりやすくなります。近視の発症や進行を予防することが、黄斑円孔の予防にもつながります。
近視の予防
近視は近くのものを見る作業が多い人や、屋外での活動が少ない人に多く認められます。近視を予防するには、屋外での活動量を増やし、近くの物を見過ぎないようにすることが重要です。
近視を予防するためには、晴れた日に散歩をするなど、無理のない範囲で屋外での活動量を増やすと良いでしょう。
近くの物を見る機会は日常の中に多くありますが、完全になくすことは困難です。近視の予防には、書き物や読書などをする際に、30cm以上離れて作業をすることが効果的といわれています。30分に1度は目を休めることも有効です。作業をする時は部屋の照明を十分に明るく保つよう心がけましょう。
近視がある場合
近くの物を見過ぎたり屋外活動が少なかったりするとさらに近視が進行する恐れがあります。
近視の進行予防には屋外活動を行うことが重要で、1日2時間以上の屋外活動により進行が抑えられることが分かっています。近視がある場合も、無理のない範囲で屋外での活動量を増やしてみましょう。
近視の進行そのものを抑える治療として、国内で承認されているものはありません(2024年9月現在)。しかし、近年さまざまな治療法が研究されており、今後の発展が期待されています。
参考文献