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VDT症候群
柳 靖雄

監修医師
柳 靖雄(医師)

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東京大学医学部卒業。その後、東京大学大学院修了、東京大学医学部眼科学教室講師、デューク・シンガポール国立大学医学部准教授、旭川医科大学眼科学教室教授を務める。現在は横浜市立大学視覚再生外科学教室客員教授、東京都葛飾区に位置する「お花茶屋眼科」院長、「DeepEyeVision株式会社」取締役。医学博士、日本眼科学会専門医。

VDT症候群の概要

VDT症候群は、パソコンやスマートフォンなどのデジタルデバイス(VDT:Visual Display Terminal)を長時間使うことで起こる眼や身体の筋肉、精神的な症状です。

パソコンやスマートフォンの作業で眼を使い続けると、全身に疲れが生じる眼精疲労が起こります。
VDT症候群でよく見られる症状は、眼の疲れや痛みのほか、肩こり、腰痛、頭痛、吐き気、イライラ感、不安感などです。
疲労がたまって慢性化すると、仕事の効率が悪くなったり、気分の落ち込みが見られる原因にもなります。

VDT症候群

VDT症候群の原因

VDT症候群の原因は、デジタルデバイスによる作業時間の増加です。
スマートフォンやタブレットなどの普及により、VDT作業に従事する労働者は増えています。
インターネットでさまざまな物を遠隔操作したり、状態を把握することも可能となったため、VDTの使用は現代の生活においては欠かせません。

パソコンなどの作業で集中して眼を使い続けると、まばたきの回数が減ったり、眼球を動かす筋肉の緊張が高まったり、眼のなかのさまざまな機能が鈍くなったりします。
眼を保護する涙の量が減ったり、眼のまわりの筋肉が固くなるため、眼の乾きや疲れ、痛みが現れるほか、物がかすんで二重に見えることもあります。

長い作業時間によって同じ姿勢が続くことで、全身の筋肉の緊張も高まるため、首や肩のこり、腰痛、頭痛、足腰のだるさも起こりやすいです。
さらに症状が慢性化すると視力が低下したり、自律神経の不調によって吐き気やイライラ感、不安感、食欲不振などの精神的な症状が起こる原因になります。

VDT症候群の前兆や初期症状について

VDT症候群の初期症状は主に眼の症状です。
眼の疲れによってまぶたが重くなったり、外が眩しく見える、対象物が二重に見える、見え方がかすむなどの症状が現われます。
眼の表面が乾くことによって、赤みや痛み、涙がでることもあります。

VDT症候群の検査・診断

VDT症候群の検査では、問診で労働や日常生活のVDT作業時間や自覚症状などを伺った後、以下の検査で視力の状態や眼位のずれ、肩や腕などの筋骨格系に異常が起きていないか確かめます。
VDTを使用する時間が多く眼や身体にさまざまな症状がでている場合は、VDT症候群が疑われ、適切な指導が入ったり、医療機関の受診をすすめられることがあります。

視力検査

左右の視力を普段VDT作業しているときの状況(眼鏡やコンタクトレンズの装着など)で検査して、近視や遠視が起きていないか確認します。
5m視力検査で、眼の水晶体によるピント調節機能がはたらかない状態の視力を測定します。
それに加えて、眼から対象物まで30cmもしくは50cmの距離を離した近見視力の検査をおこなうこともあります。

屈折検査

屈折検査はオートレフケラトメーターという測定機を用いて、外から眼に入る光の屈折の程度を調べます。
眼の屈折機能にどの程度異常があるかがわかることによって、近視や遠視、乱視の度数を測定できます。

眼位検査

眼位は両眼の位置関係のことで、ずれが生じていると斜位や斜視になります。
両眼をペンライトで照らしたときの角膜の反応(角膜反射法)や、片眼を閉じたときの眼球の動き(遮閉試験)を見て、両眼にずれが起きていないか確認します。

調節機能検査

調節機能の検査では専用の測定機を用いて、対象物を見るときに焦点を合わせられる最も近い距離(近点距離)を測定します。
近点距離が40cmを超えた場合は、近視用の眼鏡を使用したり、ディスプレイを大きい物に変更して眼から画面までの距離を確保することが必要です。

筋骨格系の検査

腕を持ち上げたときの運動異常や、肩や首の筋肉を指で押したときの痛みの検査をおこないます。
VDT作業の影響で、腕や肩、首の筋肉などの症状がでているか確かめます。

VDT症候群の治療

VDT症候群の治療では眼の表面を保湿する点眼薬や、眼の負担を抑えた眼鏡の使用がすすめられます。

薬物療法

薬物療法では眼の表面を潤すために、人工涙液が入った点眼薬や、保湿効果が高いヒアルロン酸が入った点眼薬を使用します。 
点眼薬は医師や薬剤師に指定された回数と量を守って使用し、点眼した後は眼を閉じて薬が眼の表面に広がるようにしてください。 

眼鏡の処方

VDT症候群の症状を抑えるために、ドライアイ用やブルーライトカット用の眼鏡の使用をすすめることがあります。
ドライアイ用の眼鏡は、手持ちの眼鏡に保湿用のカバーや濡らしたスポンジを装着した物です。
作業中に保湿効果が得られることによって、眼の乾きを抑える効果があります。
パソコンやスマートフォンのブルーライトをカットするレンズが入った眼鏡は、眼の疲れを軽減させるはたらきがあります。
ブルーライト用の眼鏡は眼科の処方箋をもらった後、眼鏡販売店で作成可能です。

VDT症候群になりやすい人・予防の方法

VDT症候群を予防するには、パソコンやスマートフォンで作業する環境や時間、姿勢を改善することが大切です。
作業環境を適切に整えながら休息をこまめにとることで、眼や身体に疲労がたまるのを防ぎ、VDT症候群の予防効果が期待できます。

作業環境

作業する部屋ではカーテンやブラインドで太陽光を遮断して、まぶしさを感じさせないようにしましょう。
眼に入る過剰な光を抑えることで、眼や身体の負担を減らせます。
ディスプレイの位置や角度を変えて、反射や映り込みがないようにするのも大切です。

作業時間

連続しておこなう作業時間は1時間以内にとどめましょう。
1時間のうちに10〜15分もしくは1〜2回程度の休憩を設けて、パソコンやスマートフォンから適度に眼を離すことが重要です。

作業姿勢

作業をするときは椅子に深く腰をかけて背もたれに背中を当て、足の裏を床に着いた状態で座りましょう。
長時間同じ姿勢にならないように、定期的に立ち上がるのも重要です。
眼とディスプレイの距離は40cm以上、高さはできるだけ同じ位置に設定することで、作業中の視線や頭の動きを減らせます。
身体に負担のかからない姿勢を維持できると、肩や腕、腰などの疲労も起こりにくくなります。


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