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偽性アルドステロン症
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

偽性アルドステロン症の概要

偽性アルドステロン症とは、体内でアルドステロンというホルモンの量が増えていないにもかかわらず、「原発性アルドステロン症」のような症状があらわれる疾患です。

アルドステロンは副腎から分泌されるホルモンで、ナトリウムや水分の再吸収を促進し、血圧や体内の水分バランスを調整する重要な役割を担っています。アルドステロンが過剰になると、高血圧やむくみ、血液中のカリウムが少なくなる低カリウム血症などを引き起こす「原発性アルドステロン症」となります。偽性アルドステロン症では実際にアルドステロンの量が増えているわけではありませんが、原発性アルドステロンと症状が似ていることから「偽性」と呼ばれています。

偽性アルドステロン症の主な原因は、「甘草」やその主成分である「グリチルリチン」を含む医薬品の服用によるものです。甘草は多くの漢方薬に含まれており、風邪薬や解熱鎮痛薬、胃腸薬などにも広く使われています。

初期には、手足のしびれや体のだるさ、筋肉のこわばり、脱力、こむら返りといった症状があらわれ、徐々に進行していきます。症状が進行すると、立ちあがることや歩くことが難しくなったり、意識障害や不整脈がみられたりすることもあります。

治療の基本は、原因となっている薬の使用を中止することです。甘草やグリチルリチンを含む医薬品をやめることで、多くの場合症状が改善します。必要に応じて、アルドステロンの作用を抑える薬が使われることもあります。適切な治療を行えば、治療後の経過は比較的良好な疾患です。

偽性アルドステロン症の原因

偽性アルドステロン症の主な原因は、甘草やその主成分であるグリチルリチンを含む医薬品の服用です。甘草は日本で認可されている漢方薬の70%以上に含まれており、風邪薬や解熱鎮痛薬、胃腸薬など一般的な医薬品にも多く使用されています。

以前は、甘草やグリチルリチンを大量に使用した場合に偽性アルドステロン症が発症する例が多数報告されていましたが、近年では比較的少量の使用でも発症するケースが多く確認されています。

また、先天的に特定の酵素の働きに異常がある人や「デキサメタゾン」や「ベタメタゾン酢酸エステル」といったフッ素を含む外用ステロイド薬を長期間使用した場合にも、同様の状態が引き起こされることがあります。

偽性アルドステロン症の前兆や初期症状について

偽性アルドステロン症の初期には、手足のしびれや筋肉のつっぱり、こわばり、こむら返り、高血圧など、さまざまな症状がみられることがあります。

偽性アルドステロン症の約4割が、原因となる薬の使用を開始してから3ヶ月以内に発症すると報告されていますが、発症までの期間には個人差があり、明確な関連性は認められていません。薬を使用して10日以内に発症することもあれば、数年以上使用を続けた後に発症する場合もあります。 出典:厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル 偽アルドステロン症

また、初期段階では症状があまり目立たず、他の病気と似た症状が出ることも多いため、診断が遅れることがあります。

病状が進行すると、手足に力が入らなくなる脱力感や筋力の低下、筋肉痛などがあらわれることがあり、これらが診断の手がかりとなることもあります。さらに、全身のだるさ、むくみ、頭痛、口の渇き、嘔吐などの症状がみられることもあります。

重症化すると、立ちあがることや歩くことが難しくなるケースや、手足を動かせなくなる運動麻痺や意識障害などが起こるケースがあります。

また、血液中のカリウムが減ることで腎機能が低下し、尿の量が増える「多尿」になることがあります。逆に、神経や筋肉の障害が生じた場合は、尿が出なくなる「尿閉」が起こることもまれにあります。さらに重症になると、筋肉が壊れる「横紋筋融解症」が生じ、赤褐色の尿が出る場合もあります。

偽性アルドステロン症の検査・診断

偽性アルドステロン症には明確な診断基準はありませんが、主に血液検査や尿検査が診断に用いられます。

血液検査では、血中のカリウム濃度が低下することが特徴です。また、血液がアルカリ性に傾く「代謝性アルカローシス」と呼ばれる状態がみられることもあります。

通常、血中カリウム濃度が下がると、腎臓からはレニン、副腎皮質からはアルドステロンというホルモンの分泌が増加するはずですが、偽性アルドステロン症ではそのどちらも低くなっていることが特徴です。これは、原発性アルドステロンとの鑑別に重要な所見になります。

尿検査では、体内のカリウムが不足しているにも関わらず、尿に排出されるカリウムの量が増加していることが確認されます。

また、医薬品が原因となっている場合には、血液中に含まれる副腎皮質由来のホルモン「デオキシコルチコステロン(DOC)」の値が正常であることも、他の病気との鑑別において重要になります。

偽性アルドステロン症の治療

偽性アルドステロン症の治療では、まず原因となっている医薬品の使用を中止することが基本となります。甘草やグリチルリチンを含む薬の服用をやめることで、数週間以内に症状が改善し、血液中のカリウム濃度も正常に戻るケースが多く報告されています。

また、「スピロノラクトン」という抗アルドステロン薬が使われることもあります。この薬は体内のミネラルバランスを調整する作用があり、症状の改善に有効とされています。

適切な治療を受ければ、偽性アルドステロン症の経過は基本的に良好です。ただし、腎臓から分泌されるホルモンであるレニンの値が元に戻るまでには時間がかかることがあるため、治療後もしばらくは経過観察を続け、慎重に対応する必要があります。

偽性アルドステロン症になりやすい人・予防の方法

偽性アルドステロン症は、甘草やその主成分であるグリチルリチンを含む医薬品の服用が主な原因であるため、これらの成分を含む薬を服用している人は発症のリスクがあります。甘草やグリチルリチンの含有量が比較的少量でも発症するケースも多くみられるため、含有量に関係なく注意が必要です。

日本国内の統計によると、偽性アルドステロン症は女性に多く、特に50〜80歳代で発症していることが報告されています。また、低身長や低体重の人、高齢者では、発症リスクが高まることが指摘されています。

さらに、高血圧症や心不全の治療に使われるチアジド系の降圧利尿薬やループ利尿薬を服用している人、糖尿病でインスリン治療を受けている人は、低カリウム血症になりやすく、偽性アルドステロン症が重症化しやすいとされています。

そのほか、ステロイド薬、甲状腺ホルモン薬、一部の抗菌薬や抗がん剤、気管支拡張薬、経口避妊薬なども低カリウム血症を引き起こす可能性があるため、これらを併用している場合にも特に注意が必要です。

現時点では、偽性アルドステロン症を完全に防ぐ方法は確立されていませんが、体調の変化を見逃さないことが重要です。特に、手足の脱力感や筋力低下、高血圧といった症状は、偽性アルドステロン症が見つかるきっかけとして最も多くなっています。そのため、自宅で血圧を定期的に測定し、異常があれば早めに医療機関を受診することが早期発見につながります。

また、偽性アルドステロン症の発症リスクがある医薬品を服用している場合には、定期的に血液検査を受けて血中のカリウム濃度を確認することが、重症化の予防や適切な対応に役立ちます。

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