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甲状腺髄様がん
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

甲状腺髄様がんの概要

甲状腺髄様がん(こうじょうせんずいようがん)は甲状腺に発生する悪性腫瘍の1つで、甲状腺がん全体の数パーセント程度の割合で発生する比較的珍しいがんです。

甲状腺髄様がんの原因は非遺伝性のものと遺伝性のものとに大別され、遺伝性の場合は血縁者も同じ病気になる確率が高くなります。非遺伝性の原因は現在も解明されていません。

また、遺伝性の甲状腺髄様がんは、甲状腺以外の内分泌腺にも異常が認められることがあり、とくに副腎の褐色細胞腫(かっしょくさいぼうしゅ)や副甲状腺機能亢進症を合併することがあります。

主な治療方法は手術療法と薬物療法です。手術により甲状腺を全摘出、あるいは部分切除すると甲状腺ホルモンが分泌されにくくなるため、術後はこれらを補うための薬剤を服用する必要があります。

甲状腺髄様がんは進行度によって予後が異なります。初期段階の甲状腺髄様がんは治療後の経過が良いものの、周囲の臓器や広範囲のリンパ節に広がっている段階においては予後が厳しい傾向があります。

少しでも症状を感じた場合は、できるだけ早く医療機関を受診することが重要です。

甲状腺髄様がんの原因

甲状腺髄様がんの原因は、非遺伝性と遺伝性によって大別されます。

非遺伝性の甲状腺髄様がん

非遺伝性の甲状腺髄様がんの原因は現在のところ特定されていません。ほかのがんと同様に、何らかの要因が関連している可能性や偶発的な異常などが関与していると考えられていますが、詳細なメカニズムは解明されていません。

遺伝性の甲状腺髄様がん

遺伝性の甲状腺髄様がんは「RET遺伝子」の変異が原因です。RET遺伝子の変異は「常染色体顕性遺伝」によって、血縁者も同じ遺伝子変異を起こす可能性があります。

また、髄芽腫は「多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)」の症状として現れる場合があります。

MEN2は甲状腺髄様がんのほかに、副腎の褐色細胞腫や副甲状腺機能亢進症などの内分泌系の異常をともなう場合があり、さまざまな疾患が複雑に絡み合う特徴があります。

甲状腺髄様がんの前兆や初期症状について

甲状腺髄様がんの初期症状は自覚しにくいことが多く、ごくわずかに首のしこりを感じる程度です。腫瘍が徐々に大きくなってくると、より分かりやすくしこりや腫れを感じるようになることがありますが、痛みをともなわないため気づきにくいことも少なくありません。

甲状腺髄様がんの検査・診断

甲状腺髄様がんは症状の確認をはじめ、甲状腺超音波検査や病理検査、血液検査、遺伝子検査、画像検査によって診断します。

甲状腺超音波検査

甲状腺超音波検査(エコー)では腫瘍の位置や大きさなどを確認します。検査で腫瘍を確認した場合、性質を調べるために細胞を採取し、顕微鏡で観察する検査をおこないます。

病理検査

病理検査では腫瘍がある場所に直接針を刺して腫瘍細胞の一部を採取します。甲状腺髄様がんに特異的な所見の有無などを調べ、適切な診断や治療の立案に役立てます。

血液検査

血液検査ではカルシトニンやCEA(腫瘍マーカー)などの値を測定します。甲状腺髄様がんはカルシトニンの値が著しく上昇することが特徴的で、診断の重要な判断材料となります。

遺伝子検査

遺伝性の甲状腺髄様がんの疑いがある場合、とくに重要なのは遺伝子検査です。遺伝性か非遺伝性かを判断するためにRET遺伝子の変異を調べることがあります。仮に遺伝性の甲状腺髄様がんと判明した場合は、血縁者も遺伝子検査の受診を推奨します。

画像検査

画像検査ではX線検査やCT検査、MRI検査、PET検査によって頸部リンパ節や肺、肝臓、骨などほかの部位への転移の有無を確認します。

甲状腺髄様がんの治療

甲状腺髄様がんの主な治療方法は手術療法や薬物療法です。ほかの甲状腺がんと同様に、腫瘍の広がり具合によって甲状腺を全摘出する場合や部分切除する場合などがあります。

甲状腺の切除後は甲状腺ホルモンが分泌されなくなる、あるいは分泌されにくくなるため、薬物療法によって甲状腺ホルモンを補うことが多いです。

手術療法

手術療法では腫瘍の大きさや浸潤の程度に応じて、甲状腺の一部を部分的に切除する場合や甲状腺全体を摘出する場合があります。

また、甲状腺髄様がんはリンパ節へ転移しやすい傾向があるため、頸部のリンパ節郭清(かくせい:切除すること)を同時におこなうことが多いです。

薬物療法

甲状腺の切除後は甲状腺から分泌されていたホルモンが出にくくなるため、甲状腺ホルモン剤の服用を要します。切除した範囲や術後の経過によって服用するホルモン剤の量を決定します。

甲状腺髄様がんになりやすい人・予防の方法

遺伝性の甲状腺髄様がんは、血縁者のなかに甲状腺髄様がんを患っている人がいる場合になりやすい傾向にあります。一方で非遺伝性の甲状腺髄様がんについては、現在のところ明確なリスク因子は特定されていません。

これらを踏まえて甲状腺髄様がんの予防方法として大切なのは、遺伝のリスクがある人に対する早期発見と早期治療です。遺伝子検査などを受けて、RET遺伝子の変異の有無を調べることが重要です。

非遺伝性の甲状腺髄様がんに関しては、特定の予防法は確立されていませんが、定期的な健康診断で甲状腺を組む全身状態を確かめることや、首に異常を感じた場合は早めに医療機関を受診することが大切です。

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