

監修医師:
上田 莉子(医師)
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関西医科大学卒業。滋賀医科大学医学部付属病院研修医修了。滋賀医科大学医学部付属病院糖尿病内分泌内科専修医、 京都岡本記念病院糖尿病内分泌内科医員、関西医科大学付属病院糖尿病科病院助教などを経て現職。日本糖尿病学会専門医、 日本内分泌学会内分泌代謝科専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本医師会認定産業医、日本専門医機構認定内分泌代謝・糖尿病内科領域 専門研修指導医、内科臨床研修指導医
目次 -INDEX-
副甲状腺機能低下症の概要
副甲状腺機能低下症は、副甲状腺から分泌される副甲状腺ホルモン(PTH)の分泌が低下し、血液中のカルシウム濃度が低下する病気です。血中リン濃度が相対的に上昇するのも特徴の一つです。 副甲状腺は、甲状腺とは異なる役割があります。 甲状腺は、気管の前に広がる蝶型の器官で、全身の恒常性を保つ甲状腺ホルモンを分泌します。副甲状腺は甲状腺の裏にある米粒大の器官で、甲状腺の上下4ヶ所にあります。血中カルシウム濃度を調整するPTHを分泌します。 骨には新しい骨を造る骨芽細胞と、古い骨を破壊する破骨細胞があります。PTHは破骨細胞に働きかけ、骨を壊して血中にカルシウムを入れます。 PTHは腎臓でビタミンDを活性化させ、尿に排出されるはずのカルシウムを再吸収して血中に戻す働きもあります。 カルシウムは筋肉の正常な動作や神経伝達に欠かせない栄養素です。 副甲状腺機能低下症が原因で発症する低カルシウム血症の症状は多岐にわたります。身体のけいれん、しびれ、歯の発育不良、白内障などが代表的な症状です。けいれんは重症化すると全身に広がり、てんかんに似た発作を起こすことがあります。低カルシウム血症と因果関係は不明ですが皮膚の白斑や脱毛、心臓の奇形、顔貌異常、内耳や脳が原因の難聴(感音性難聴)、O脚、X脚などが起こることがあります。カンジダ症も発症しやすくなります。 なお、似た名称の甲状腺機能低下症とは異なる病気です。甲状腺機能低下症は推計で約240万人の患者さんがいますが、副甲状腺機能低下症は珍しい疾患です。令和元年時点で医療受給者証の交付者は全国で254人に留まっています。副甲状腺機能低下症の原因
副甲状腺機能低下症の原因には外科手術によるもの(術後性)と、明確な原因がわからないもの(特発性)があります。術後性副甲状腺機能低下症
甲状腺の手術や放射線治療で発症します。甲状腺がん、良性腫瘍など甲状腺のしこり、重度のバセドウ病などの治療で甲状腺を取り除いた後に発症することがあります。 副甲状腺は甲状腺の裏に付着している器官です。手術で副甲状腺が傷つく、または取り除かれると副甲状腺機能低下症の発症リスクになります。 発症率は高く、手術後6.9〜46%の割合で発症すると報告されています。しかし症状は一過性で、やがてPTH分泌が回復することがほとんどです。回復するまで加療を行い、血中カルシウム量をコントロールします。 回復しない頻度は0.9〜1.6%と報告されています。特発性副甲状腺機能低下症
以前は原因不明とされていた副甲状腺機能低下症の総称です。近年ではいくつかの要因が関わることがわかってきました。しかし、いまだに原因不明の症例もあります。- 免疫異常 免疫は病原菌やウイルスから身体を守りますが、誤って自分を攻撃してしまうことがあります。副甲状腺に免疫が攻撃すると副甲状腺の機能が低下し、PTHの分泌が減ります。HAM症候群やAIRE遺伝子の異常などが原因で発症します。
- 身体の構造 内耳や脳などが原因の難聴(感音性難聴)、腎臓や心臓の奇形、顔貌異常などがある方に、発症リスクがあります。
- カルシウム感受性受容体(CaSR)の異常 血中カルシウムの量を感じ取る仕組み(CaSR)がうまく働かないと、カルシウムの量が十分あっても低カルシウム血症と同じ症状を起こします。(偽性副甲状腺機能低下症)
副甲状腺機能低下症の前兆や初期症状について
口周囲や手足などのしびれやチクチクした感覚、自分の意思と関係なく身体がピクピク動く(テタニー)、けいれんなどが初期症状として見られます。イライラが続くなど、情緒不安定になることもあります。 手指がこわばる、顔が引きつるなどの症状が続く際は、できるだけ早く内分泌代謝科専門医が在籍する内分泌内科を受診しましょう。 低カルシウム血症でも無症状のことがあります。もし健康診断などで血中カルシウム濃度の不足を指摘されたら、症状がなくても早めに内分泌内科を受診しましょう。副甲状腺機能低下症の検査・診断
副甲状腺機能低下症の検査では、血液検査でカルシウムやリン、副甲状腺ホルモン(PTH)の数値を調べます。副甲状腺ホルモンの負荷試験、除外診断などでほかの疾患との鑑別を行います。血液検査
低カルシウム血症、高リン血症、PTHの量の検査を行います。 血中カルシウム濃度が8.5mg/dl未満で低カルシウム血症と診断します。併せて高リン血症4.5mg/dl以上、副甲状腺ホルモンの血中濃度を示すインタクトPTHが30pg/ml以下なら特発性副甲状腺機能低下症を疑います。 インタクトPTHが30pg/ml以上なら偽性副甲状腺機能低下症の可能性があります。 併せて腎臓機能を測るeGFR(推算糸球体濾過量)も行います。30mL/min/1.73 m²以上は副甲状腺機能低下症の可能性があります。エルスワース・ハワード試験(PTH負荷試験)
確定診断に必要な検査です。PTHを注射で体内に注入し、血中のカルシウム濃度が上がるかを観察します。 もし上がらなければ、偽性副甲状腺機能低下症を疑います。体内に十分なPTHがありながら血中カルシウム濃度が上がらないのは、カルシウムを感知する仕組みが働いていないと考えられます。除外項目
低カルシウム血症の原因は副甲状腺機能低下症状以外にもあります。 手術や悪性腫瘍の浸潤などで起こる二次性副甲状腺機能低下症、低マグネシウム血症でも同様の症状が出ることがあります。 鉄の代謝異常で臓器に鉄が蓄積するヘモクロマトーシス、銅の排出ができず全身に銅が蓄積する指定難病ウィルソン病も、低カルシウム血症の原因になります。 多くの原因を考慮し、総合的に判断する必要があります。副甲状腺機能低下症の治療
副甲状腺機能低下症には根本的な治療法がありません。しかし対症療法で日常生活に支障のない状態を維持することができます。 軽症の方は活性型ビタミンD3製剤とカルシウム製剤の服用を行います。活性型ビタミンD3は腎臓でカルシウムを再吸収する作用があり、服用を続けると徐々に血中カルシウム濃度が正常に近づきます。正常値を維持できれば、多くのケースでしびれやテタニーなどの症状は消え、通常の生活を送ることができます。 ただし服用を辞めると低カルシウム血症が再発し、再び症状が表れます。 活性型ビタミンD製剤には副作用があり、高カルシウム尿症による尿管結石が起こりやすくなります。適切なカルシウム濃度を維持するためにも、定期的に通院して血中カルシウム濃度を測り、服薬量を調整します。 痙攣やしびれの症状がある場合は、カルシウム製剤(カルチコール)を投与します。副甲状腺機能低下症になりやすい人・予防の方法
甲状腺の手術を受けた方、免疫異常の方、カルシウムの感受性に異常がある方は副甲状腺機能低下症になりやすくなります。 現時点では予防法は確立されていません。しかし発症しても対症療法で症状は緩和します。症状を抑えるためにも、定期的なビタミンD3剤やカルシウム剤の服用を続けましょう。 服薬は一生涯続きますが、続けている間は血中カルシウム量が正常に保たれ、しびれなどの症状を起こさなくなります。 尿管結石を防ぐためにも、血中カルシウム濃度は定期的に検査して服薬を調整する必要があります。同じ量の薬を服用しても、血中カルシウム濃度が変化することがあるためです。 毎日薬を服用するのは面倒かもしれませんが、服薬を習慣化して無理なく治療を続ける工夫が必要です。服薬習慣を身に着ける工夫は薬剤師にご相談ください。参考文献




