

監修医師:
上田 莉子(医師)
プランマー病の概要
プランマー病とは、甲状腺にできた腺腫やがんといった結節が甲状腺ホルモンを過剰に分泌することで、脳下垂体で甲状腺刺激ホルモン分泌が抑制され、甲状腺の正常組織が機能しなくなる病気です。
プランマー病は、1913年にHenry S. Plummerが報告したのが最初1)です。報告当初は、病気の定義として、結節の数には言及されていませんでした。のちに、結節が多数あるタイプや、甲状腺機能が必ずしも増加しないタイプが明らかとなったことで、結節の数や甲状腺中毒症の有無を問題としない自律性機能性甲状腺結節(autonomously functioning thyroid nodule:AFTN)という概念と呼称が普及し、プランマー病もAFTNに含まれる状態となりました。
AFTNのうち、約2~5%は結節自体が濾胞がんや乳頭がんです。約20~25%は、結節自体は良性であるものの、切除された組織の中にがんの合併を認めることがあります2)。
過機能性甲状腺結節(Hyperfunctioning thyroid nodule)、中毒性多結節性甲状腺腫(Toxic multinodular goiter:TMNG)といった言葉もあり、これらもAFTNに含まれます。AFTNと自己免疫性のBasedowを合併することもあり、この場合はMarine-Lenhart症候群と呼ばれます。
プランマー病の原因
プランマー病は、甲状腺に結節ができ、その結節から分泌される過剰な甲状腺ホルモンによって起こる病気です。
結節が分泌する過剰な甲状腺ホルモンのために、甲状腺機能亢進症といって、動機や頻脈、手の震え、疲れやすさなどの、Basedow病に似た症状をきたします。Basedow病は自己免疫性の病気ですが、このプランマー病は非自己免疫性であり、結節がホルモンを過剰に分泌していることが原因であるのが特徴のひとつです。
プランマー病の前兆や初期症状について
プランマー病では、甲状腺機能が亢進したときにみられる甲状腺中毒症の症状と、甲状腺結節の症状のどちらもがみられることが多いです。
プランマー病の症状は、甲状腺中毒症の症状として、全身症状、循環器症状、神経筋症状、消化器症状などの多様な訴えを呈します。甲状腺中毒症の症状は各部において以下のようになります。
全身症状
- 体重減少
- 多汗
- 易疲労感
- 暑がり
- 微熱
- 月経不順
- 無月経
循環器症状
- 動悸
- 頻脈
- 労作時息切れ
- 不整脈
消化器症状
- 食欲亢進
- 下痢・軟便
神経筋症状
- 手指振戦
- いらいら
- 多動
- 不眠
- 情緒不安定
- 筋力低下
これらの症状があることで、疲れがひどい、少し動いただけで動悸がする、階段で息切れする、手がふるえる、汗をよくかくようになった、お腹が減って食べているのにやせてきた、などの訴えになることも多いです。
重症化すると心房細動やうっ血性心不全に至る場合もありますが、一般に甲状腺中毒症症状の程度はBasedow病と比べて軽いことが多いです。また、結節が大きいほど、甲状腺機能亢進症を呈しやすいことが知られています。
プランマー病では、甲状腺中毒症の症状に加えて、甲状腺結節の症状として、以下のようなものなどがみられます。
- 頸部のしこり
- 頸部違和感
- 呑み込みのときの違和感
- 喉の絞扼感
結節が大きくなり気道を圧排すると、喘鳴や呼吸困難などが認められるようになります。
もし頻脈や動悸などの症状に加えて、甲状腺あたりに結節を触れるなど、「プランマー病かな?」と思い当たった際には、内分泌内科を受診してください。
プランマー病の検査・診断
プランマー病の診断のためには、血液検査と画像検査を行います。
まず、血液検査では、一般的な生化学検査の項目や甲状腺に関わるホルモンの値、甲状腺自己抗体を調べます。
一般的な生化学検査では、甲状腺中毒症があると、血清コレステロールは低値になり、血清アルカリフォスファターゼは高値になります。
甲状腺に関わるホルモンについて、甲状腺刺激ホルモン(TSH)は抑制されます。甲状腺ホルモンについては、FT3やFT4は正常で潜在性甲状腺機能亢進の状態である場合と、高値で甲状腺機能亢進を呈している場合の2パターンがあります。
通常、プランマー病は非自己免疫性であり、甲状腺自己抗体であるTRAb、抗Tg抗体、抗TPO抗体は陰性を示します。ただし、Marine-Lenhart症候群の場合は、Basedow病を合併するため、TRAbは陽性となります。
次に、画像検査について説明します。プランマー病の画像検査は、以下を行って甲状腺ホルモンを自律的に分泌する結節の有無、性状や数などを調べます。
- 頸部超音波検査
- シンチグラフィ
- 頸部単純X線・頸部CT/MRI
頸部超音波検査とは、超音波を使って甲状腺の内部の状態を見極めるもので、侵襲が少なくかつ得られる情報も多い検査です。
シンチグラフィとは、放射性物質が集まるところを判断する検査です。プランマー病ではシンチグラフィ上で、結節への集積(ホットスポット)がみられるのが特徴です。典型的なものでは、結節以外の甲状腺組織への取り込みはまったく消失しているか、ごくわずかです。
頸部単純X線・頸部CT/MRIでは、甲状腺結節によって気管の偏位や圧排、狭窄が起こっているか否かを調べます。縦隔といって、心臓のある場所付近に腫瘤が進展しているかどうかは、頸部CT/MRIで調べます。甲状腺結節における石灰化の有無や性状は、頸部単純X線で確認します。
プランマー病の診断には、甲状腺機能検査、頸部超音波検査、放射線シンチグラフィが必須です。
- 血液検査所見において、非自己免疫性の甲状腺機能亢進あるいは潜在性甲状腺機能亢進がみられる
- 触診あるいは頸部超音波検査において甲状腺結節を認める
- シンチグラフィで結節に一致して強い集積と結節以外の甲状腺組織の取り込み低下がみられる
以上の1.から3.が揃った場合に、プランマー病(AFTN)と診断します。
また、あわせて、結節が良性か悪性かの鑑別のため、穿刺吸引細胞診を行います。
ただし、濾胞がんの場合、穿刺吸引細胞診で正確に診断できる可能性はかなり低いことが知られています。
プランマー病の治療
プランマー病の治療には、以下の4つがあります。
- 薬物療法
- 外科的治療
- 放射性ヨウ素内服療法
- 経皮的エタノール注入療法(PEIT)
根治的治療法は手術です。早期の治療を希望する場合や結節が大きく圧迫症状が強い場合はよい手術の適応です。結節がひとつであれば、甲状腺の結節側のおよそ半分の切除が行われますが、この場合は術後甲状腺ホルモンの補充が必要になる可能性は低いとされています。
外科的治療の予後はきわめて良好で、甲状腺機能亢進の再発はほとんどみられません。一方で、甲状腺をほぼすべて、あるいは全摘してしまった場合は、全例甲状腺機能低下となりその後永続的に甲状腺ホルモン薬の内服が必要となります。
手術の合併症の頻度は、一般的には、一過性反回神経麻痺が2~4%、永久性副甲状腺機能低下症が1~2%です3)。
薬物治療は抗甲状腺薬やβ遮断薬内服により甲状腺機能や脈拍をコントロールできます。が、薬物の長期投与により寛解や完治となることは困難です。
プランマー病になりやすい人・予防の方法
プランマー病は、現時点では予防法は確立されていません。そのため、予防より、病気を発見し治療介入することが大事になります。
なお、疫学として、プランマー病は日本では諸外国より少なく、甲状腺中毒症の約0.15~0.3%、結節性甲状腺腫の約0.7%と報告されています2)。発症年齢はさまざまで、10代から高齢者までに広くみられます。
喉のあたりにある甲状腺に結節を触れ、動機や息切れ、疲れやすさといった症状がある場合、できるだけ早期に内分泌内科を受診しましょう。
参考文献
- Plummer HS: The clinical and pathological relationship of simple and exophthalmic goiter. Am J Med Sci 146: 790-795, 1913
- 日本甲状腺学会(編):Ⅴ.特論.3.機能性甲状腺結節.甲状腺結節取り扱い診療ガイドライン2013.南江堂.2013.198-204.
- 日本甲状腺学会:甲状腺専門医ガイドブック 改訂第2版.診断と治療社.2018.158-162.




