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小児糖尿病
五藤 良将

監修医師
五藤 良将(医師)

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防衛医科大学校医学部卒業。その後、自衛隊中央病院、防衛医科大学校病院、千葉中央メディカルセンターなどに勤務。2019年より「竹内内科小児科医院」の院長。専門領域は呼吸器外科、呼吸器内科。日本美容内科学会評議員、日本抗加齢医学会専門医、日本内科学会認定医、日本旅行医学会認定医。

小児糖尿病の概要

小児糖尿病は、小児期に発症する糖尿病です。糖尿病とは、インスリンの作用が不十分なため、血糖値が慢性的に高くなる病気です。食事をすると血液中のブドウ糖の量(血糖値)が増加します。すると膵臓(すいぞう)はインスリンというホルモンを分泌して、食後血糖値が上がりすぎないように調節します。しかし、糖尿病ではインスリンの分泌量が不足したり、うまく働かなかったりすることで、血糖値が高い状態が続きます。

小児糖尿病は、1型糖尿病と2型糖尿病に分類されます。1型糖尿病は小児期や思春期、2型糖尿病は中年以降に発症することが多いですが、小児期でも発症する場合もあります。

1型糖尿病は自己免疫の異常により膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンを作れなくなる病気で、遺伝的要因やウイルス感染が関与すると考えられています。一方、2型糖尿病の原因は遺伝的要因と生活習慣が関係し、肥満や運動不足などが発症リスクを高めます。

症状としては、口渇や多飲、多尿が挙げられます。1型糖尿病は急激に発症するのに対し、2型糖尿病はゆっくり進行することが多く、初期には自覚症状がないこともあります。 幼児期ではおねしょ頻度の増加、学童期では夜間頻尿が見られ、進行すると体重減少や易疲労感が現れます。重症化すると糖尿病ケトアシドーシスを引き起こし、意識障害に至る危険性もあります。

診断は血糖値やHbA1cの測定によって行われ、一定の基準を満たす場合に小児糖尿病と判定されます。 治療法は1型糖尿病と2型糖尿病で異なります。1型糖尿病の治療はインスリン療法が必須で、インスリン注射やインスリンポンプを使用します。あわせて食事療法や運動療法も行われ、成長に合わせた治療の継続が必要です。2型糖尿病の治療は生活習慣の改善が基本で、食事や運動を適切に管理し、必要に応じて薬物療法を行います。

高血糖の状態が慢性的に持続すると、全身の血管を傷つけ、さまざまな合併症を引き起こします。小児糖尿病と診断された際には、合併症を予防するために、適切な治療を受けることが重要です。

小児糖尿病の原因

1型糖尿病と2型糖尿病は、それぞれ原因が異なります。

1型糖尿病

1型糖尿病の原因は完全には解明されていません。多くは遺伝的要因やウイルス感染が引き金となって、自己免疫の異常が起こり発症すると考えられています。 本来は体を守る免疫が誤って膵臓(すいぞう)のβ細胞を壊してしまうことで、インスリンを作ることができなくなります。

2型糖尿病

2型糖尿病の原因も完全にはわかっていませんが、遺伝的要因や生活習慣などの環境要因が組み合わさって発症すると考えられています。 膵臓のβ細胞から必要量のインスリンがでなくなったり、インスリンの効果が悪くなったりすることで高血糖の状態が続きます。 また、肥満や運動不足、食生活の乱れなどの生活習慣がリスクを高める要因とされています。

小児糖尿病の前兆や初期症状について

小児糖尿病の症状は、のどが渇く、たくさん水を飲む、尿量が多くなるなどが挙げられます。1型糖尿病は数日から数週間で急激に発症し、2型糖尿病は数年単位でゆっくりと発症するのが特徴です。2型糖尿病の場合、自覚症状がないことも多いです。

幼児期ではおねしょやお漏らしの頻度が増え、学童期以降では夜間に頻繁にトイレで起きることで病気に気づくケースもあります。また、インスリンの分泌が減り、食べ物を十分にエネルギーに変換することができず、体重が減ったり元気がなくなったり疲れやすくなったりします。

さらに、インスリンが足りなくなるとケトン体が産生され、意識障害などが起こる糖尿病ケトアシドーシスに陥る危険性があります。糖尿病は進行すると深刻な合併症を引き起こすため、初期症状を見逃さず、早期の受診が重要です。

小児糖尿病の検査・診断

小児糖尿病の診断は、大人と同じ診断基準が用いられます。慢性的な高血糖の有無を確認し、症状や家族歴、肥満歴などを聞き取り、総合的に判断されます。

まず、血糖値やHbA1cの測定を行い、慢性的に高血糖が続いているのかどうかを確認します。HbA1cとは、過去1〜2か月間の平均血糖値を反映する指標です。 空腹時の血糖値が126 mg/dl以上、経口ブドウ糖負荷試験2時間値または随時血糖値が200 mg/dl以上、HbA1cが6.5%以上のいずれかを満たす場合、「糖尿病型」と判定されます。

(出典:日本糖尿病学会 糖尿病診療ガイドライン2024

その後、別の日に再検査を行い、再び「糖尿病型」が確認されれば糖尿病と診断されます。ただし、過去に糖尿病と診断された証拠がある場合や、糖尿病型を1回確認できかつ慢性的に高血糖症状が認められる場合は、再検査を待たずにすぐに診断が確定します。

1型糖尿病の場合、一般的な糖尿病の検査に加えて、自己抗体(血中GAD抗体)の測定を行います。自己抗体陽性の場合、1型糖尿病と診断されます。また、インスリンの分泌能を推測するために、尿や血液からCペプチド検査を行います。

小児糖尿病の治療

小児糖尿病の治療は、1型糖尿病と2型糖尿病で異なります。

1型糖尿病

1型糖尿病の治療はインスリン療法が基本です。あわせて、食事療法や運動療法も行われます。 1型糖尿病ではインスリンを自分で作ることができないため、定期的なインスリン注射やインスリン注入ポンプ(持続皮下インスリン注入療法)で補う必要があります。インスリンポンプ療法とは、携帯型のインスリン注入機器を使用して、皮膚の皮下組織に持続的にインスリンを注入する治療です。

食事療法では、特別な食事制限はなく、バランスよく食べれば問題ありません。子どもの成長と発達のために、必要なエネルギーを摂取することも重要だからです。ただし、肥満の場合は適正体重を保てるように食事制限を行います。

運動療法は小児糖尿病の合併症がなく、血糖コントロールが良好であれば推奨されます。すべてのスポーツを他の人と同じように楽しむことができます。学校で運動する際は、低血糖予防としてインスリンの量の調節と補食(間食)を行います。

発症年齢が低ければ、低血糖を周りの大人にうまく伝えることができず、重症低血糖になる危険性があります。年齢が低ければ治療の主体は家族となり、学童期には学校でのサポートが必要になります。成長するにつれ、自立に向けて治療の主体は患児に移行していきます。発達段階に応じた治療を続けることが重要です。

2型糖尿病

2型糖尿病の治療は、食事や運動などの生活習慣の改善が基本となります。食事療法や運動療法の効果が不十分であった場合には、インスリン注射や血糖降下薬の内服による薬物療法が行われることもあります。また、高血圧や脂質異常症、非アルコール性脂肪肝疾患などの合併症があった場合は、これらの治療も行います。

食事療法では、食事は厳しい制限をするのではなく、年齢に合った適切なカロリー摂取を心がけ、バランスの良い食事を取ることが大切です。運動療法では、肥満改善を目的として散歩などの有酸素運動を中心に行います。正しい生活習慣を確実に身につけられるように、患児のみではなく家族に対しても指導を行います。

小児糖尿病になりやすい人・予防の方法

家族に糖尿病の患者がいる人や、肥満や過食、運動不足の人は、小児糖尿病になりやすいとされています。

1型糖尿病は明確な予防方法は確立されていません。2型糖尿病は、バランスの良い食事や定期的な運動を心がけることで予防が可能です。 また、学校健診など日頃からの健康管理を通じて、子どもの健康を守りましょう。

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