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腺様嚢胞がん
大津 和弥

監修医師
大津 和弥(医師)

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三重大学医学部卒業。三重大学附属病院で研修。市立四日市病院、三重大学附属病院などに勤務後、国立がんセンター東病院研修。三重大学附属病院 耳鼻咽喉・頭頸部外科 講師を務め、小松病院で一色信彦、田邊正博の音声外科医師の指導の下音声外科手術を研鑽。市立ひらかた病院耳鼻咽喉科部長、市立ひらかた病院耳鼻咽喉科主任部長、音声外科センター長などを歴任。大阪医科薬科大学臨床教授。現在は大津耳鼻咽喉科・ボイスクリニック 院長。

腺様嚢胞がんの概要

腺様嚢胞(せんようのうほう)がんは、主に唾液腺や気管支、乳腺などの分泌腺に発生するまれな悪性腫瘍です。一般的ながんと比べて進行が遅いものの、周囲の神経や血管に浸潤しやすく、長期的に再発や転移を引き起こす可能性があります。耳下腺や顎下腺に発生頻度が高く、腫瘍が大きくなると、しこりの発生や顔面のしびれが現れることがあります。

腺様嚢胞がんの発症原因は明確には解明されておらず、発症のメカニズムには不明な点が多く残されています。

治療の基本は手術による腫瘍の切除です。腫瘍が広がりやすいため、放射線治療を並行して行うケースもあります。術後も再発する可能性があり、長期の経過観察が必要です。

腺様嚢胞がんの原因

腺様嚢胞がんの原因は、現在の医学でははっきりと解明されていません。一般的ながんは、遺伝的な要因や生活習慣、環境要因の関与が多いとされています。一方、腺様嚢胞がんの場合、喫煙や飲酒、食生活との関連性は明確ではなく、従来のがんとは異なる特徴を持つと考えられています。また、腺様嚢胞がんはホルモン受容体が陰性であることが多く、ホルモンのバランスの変化による発症リスクは低いと考えられています。

近年の研究では、「MYB-NFIB遺伝子融合」という特定の遺伝子変異が、腺様嚢胞がんの発生と関係している可能性が指摘されています。

腺様嚢胞がんの前兆や初期症状について

腺様嚢胞がんの前兆や初期症状は、発生する部位によって異なります。どの部位に発生しても、初期の段階では自覚症状が乏しく、気づきにくいことが特徴です。

唾液腺に発生した場合

口の中や顎の周辺にしこりができ、進行すると大きくなるため口の開閉や咀嚼に支障をきたします。また、腫瘍が神経に浸潤すると、顔の片側にしびれや麻痺が生じることもあります。

気管や気管支に発生した場合

咳が長期間続いたり、痰が多くなったりします。腫瘍が気道を圧迫すると、呼吸がしづらくなったり、嗄声(声のかすれ)や血痰が出たりすることもあります。

乳腺に発生した場合

境界がはっきりした硬いしこりが乳房内にでき、進行すると乳頭からの異常な分泌物が見られることがあります。他の乳がんと異なり、痛みを伴わず、明確な症状がないケースもあります。

腺様嚢胞がんの検査・診断

腺様嚢胞がんを正確に診断するためには、画像検査や病理検査を組み合わせることが重要です。発生部位によって適した検査方法が異なります。

画像検査

CT検査(コンピュータ断層撮影)やMRI検査(磁気共鳴画像診断)を用いることで、腫瘍の大きさや広がりを確認し、周囲の神経や血管との関係を調べます。MRI検査は、神経や軟部組織への浸潤の有無をより詳細に評価できるため、唾液腺や乳腺の腺様嚢胞がんの診断に有効です。

細胞診

画像検査で異常が認められた場合、確定診断のために細胞診や病理検査が行われます。穿刺吸引細胞診(FNA)は、乳腺や唾液腺の腫瘍の診断に有効で、腺様嚢胞がん特有の「篩状(ふるいじょう)構造」や「管腔構造」を確認します。

免疫組織学的検査

腺様嚢胞がんを他のがんと区別するために、免疫組織学的検査が用いられます。この検査では、腫瘍細胞が特定のタンパク質を持っているかどうかを調べ、診断の確定に役立てます。

腺様嚢胞がんの治療

腺様嚢胞がんの治療は、主な治療法として手術、放射線治療があり、腫瘍の状態に応じて適切な方法が選ばれます。一般的ながんと比べて進行がゆっくりである一方、神経や血管に浸潤しやすく、遠隔転移のリスクがあるため、治療後も長期的な管理が必要です。

手術療法

腺様嚢胞がんの治療では、可能な限りの腫瘍除去が基本となります。唾液腺や乳腺に発生した場合は、腫瘍の周囲に十分な安全域を確保しながら切除します。神経周囲への浸潤がみられる場合、広範囲の切除が必要です。一方で、気管や気管支に発生した場合は、気道の一部を切除し、必要に応じて再建手術を行います。腫瘍の位置や大きさによっては、完全に取り切ることが難しいケースもあります。

放射線治療

手術で腫瘍を完全に切除できなかった場合や、再発のリスクが高い場合には、放射線治療が行われます。神経や血管への浸潤が認められた場合にも、追加治療として放射線治療が有効とされています。

腺様嚢胞がんになりやすい人・予防の方法

腺様嚢胞がんは、唾液腺や気管支、乳腺などの分泌腺に発生するまれながんですが、発症しやすい人の特徴や明確なリスク因子はまだ特定されていません。40~60歳に多く、やや女性に多いという報告はありますが、誰にでも発症する可能性があります。

家族に腺様嚢胞がんを発症した人がいる場合、遺伝的な要因が関与している可能性も考えられますが、遺伝が直接の原因であるとは断定できません。

予防の方法としては、健康的な生活習慣を維持することが重要です。バランスの良い食事を心がけ、ビタミンやミネラルなどの栄養素を十分に摂取して、体の免疫力を高めることが推奨されます。唾液腺や気管支などに慢性的な炎症がある場合は、腫瘍の発生リスクを考慮し、早めの治療を行うことが望ましいです。

口腔内や顎、乳房のしこり、長引く咳や呼吸の違和感など、普段と違う症状が現れた場合は、適切な検査を受けて早期発見に繋げましょう。


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