

監修医師:
佐伯 信一朗(医師)
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兵庫医科大学卒業。兵庫医科大学病院産婦人科、兵庫医科大学ささやま医療センター、千船病院などで研鑽を積む。兵庫医科大学病院産婦人科 外来医長などを経て2024年3月より英ウィメンズクリニックに勤務。医学博士。日本産科婦人科学会専門医、日本医師会健康スポーツ医、母体保護法指定医。
副腎性器症候群の概要
副腎性器症候群は、副腎(腎臓の上にある内分泌器官)でホルモンを作る際に必要な酵素が生まれつき不足している遺伝性の病気です。この病気の95%以上は、21-水酸化酵素という酵素の不足によって起こります。この酵素が不足すると、ストレスに対応するホルモン(コルチゾール)と、体内の塩分バランスを整えるホルモン(アルドステロン)が十分に作られず、代わりに男性ホルモンが過剰に作られます。1950年代に治療薬が開発され、現在では多くの国で新生児スクリーニング検査が実施されています。早期発見・早期治療により、命に関わる重篤な状態を防ぐことができるようになりましたが、生涯にわたる治療管理が必要となります。副腎性器症候群の原因
この病気は、主にCYP21A2という遺伝子の異常によって起こります。この遺伝子の異常により、副腎で重要なホルモンであるコルチゾールとアルドステロンを作ることができなくなります。コルチゾールが不足すると、体は不足を補おうとして視床下部から信号を送り、副腎を刺激するホルモン(ACTH)の分泌を増やします。その結果、副腎が過剰に刺激され、男性ホルモンが大量に作られることになります。また、アルドステロンの不足は、体内の塩分バランスを崩し、重篤な塩喪失を引き起こす可能性があります。 この病気の重症度は遺伝子の異常の種類によって異なります。完全に酵素活性が失われる重症型から、部分的に酵素活性が保たれている軽症型まで、様々なタイプがあります。両親から受け継いだ遺伝子の組み合わせによって発症するため、両親が保因者である場合に子どもが発症するリスクが高くなります。副腎性器症候群の前兆や初期症状について
症状は重症型(古典型)と軽症型(非古典型)で大きく異なります。重症型には、完全な酵素欠損による塩喪失型と、部分的な酵素活性が残る単純男性化型があります。塩喪失型では、生後2-3週間以内に重篤な症状が現れます。嘔吐、母乳やミルクを飲まない、体重が増えない、脱水、血圧低下などの症状が出現し、適切な治療がないと命に関わる状態(副腎クリーゼ)となることがあります。女の子の場合は、出生時から外性器の男性化が見られ、この特徴により早期発見につながることがあります。 単純男性化型では、塩分バランスの異常は軽度ですが、やはり外性器の男性化や、その後の成長過程での男性化徴候が問題となります。一方、軽症型(非古典型)の場合は、出生時には症状がはっきりせず、成長とともに症状が現れてきます。成長の早まり、多毛、にきび、月経不順、妊娠しにくいなどの症状が見られます。副腎性器症候群の検査・診断
診断は主に血液検査で行います。17-ヒドロキシプロゲステロン(17-OHP)という物質の測定が最も重要で、この値が著しく高くなることが特徴です。多くの国では新生児スクリーニング検査に含まれており、早期発見が可能です。また、血液中の電解質(ナトリウムやカリウムなど)のバランス、男性ホルモンの値も重要な指標となります。加えて、血漿レニン活性やアルドステロンの測定も行われます。 確定診断のために遺伝子検査を行い、CYP21A2遺伝子の変異を特定します。これにより、症状の重症度を予測し、最適な治療方針を立てることができます。また、遺伝子検査の結果は、将来の妊娠に関する遺伝カウンセリングにも重要な情報となります。副腎性器症候群の治療
治療の基本は、不足しているホルモンを薬で補充することです。主な治療薬は、コルチゾールの代わりとなるグルココルチコイド(ヒドロコルチゾンなど)です。特に小児期は、成長への影響を考慮してヒドロコルチゾンが推奨されます。塩喪失型の場合は、アルドステロンの代わりとなるフルドロコルチゾンも使用します。乳児期には、塩分の補充も必要となることがあります。 これらの薬は生涯にわたって継続する必要があり、発熱や手術などのストレス時には増量が必要です。投薬量は、成長や発達の状態、血液検査の結果を見ながら、慎重に調整していきます。特に思春期には、成長や性的発達に合わせて投薬量を調整する必要があります。 また、近年では新しい治療法の開発も進んでおり、体内のコルチゾールの日内変動により近い形で薬剤を投与できる製剤や、男性ホルモンの過剰産生を抑える新しいアプローチなども研究されています。副腎性器症候群になりやすい人・予防の方法
この病気は遺伝性疾患であるため、完全な予防は困難ですが、早期発見・早期治療が非常に重要です。両親が保因者である場合は、妊娠前に遺伝カウンセリングを受けることが推奨されます。また、新生児スクリーニング検査は、早期発見のための重要な機会となります。 診断後は、定期的な通院と服薬の継続が必要です。特に副腎クリーゼを予防するため、発熱や体調不良時の対応について、患者さんとご家族で十分に理解しておくことが重要です。緊急時の対応方法を理解し、必要な医療器具(注射など)を常に携帯することも大切です。 また、心理社会的なサポートも重要な要素です。特に思春期には、病気や治療に対する理解を深め、自己管理能力を身につけていく必要があります。専門医、小児科医、内分泌科医、心理専門家などによる包括的なサポート体制のもと、長期的な管理を行っていくことが推奨されます。関連する病気
- 先天性副腎過形成
- アンドロゲン過剰症
- 副腎不全
- 多嚢胞性卵巣症候群
参考文献
- Auer MK, et al. Congenital adrenal hyperplasia. Lancet 2023; 401: 227-44
- Nordenström A, et al. One hundred years of congenital adrenal hyperplasia in Sweden: a retrospective, population-based cohort study. Lancet Diabetes Endocrinol 2013
- Miller WL, et al. Congenital adrenal hyperplasia: time to replace 17OHP with 21-deoxycortisol. Horm Res Paediatr 2019
- Merke DP, et al. Modified-release hydrocortisone in congenital adrenal hyperplasia. J Clin Endocrinol Metab 2021
- Falhammar H, et al. Increased mortality in patients with congenital adrenal hyperplasia due to 21-hydroxylase deficiency. J Clin Endocrinol Metab 2014




